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第50話 攻撃力も防御力もないなら、目が良ければいいじゃない

「動きがシンクロしてる……!」



 レオナが感嘆の声をあげた。


 マリーとクロの二人の息のあった動きは、滑らかに連動している。

 一挙手一投足が完璧に重なり、まるで一つの生き物ように動いている。


 剣を振るう瞬間、身を翻す刹那、その全てが絶妙なタイミングで噛み合い、見る者の息を呑ませる美しさすら感じさせる戦闘を繰り広げていた。



「彼らの戦い方は、本来のセオリーとは違うものだ」



 レックスは腕を組み、冷静沈着な表情で二人の動きを分析していた。



「普通の冒険者のバディは、タンクとアタッカーで組むことが多い。タンクが攻撃を受けている間に、アタッカーが攻撃を仕掛ける」



 タンクは敵の攻撃を受ける防御力が必要。

 アタッカーは敵を仕留められる攻撃力が必要。


 それぞれの尖った才能が噛み合うことで、初めてバディとしての力が発揮される。



「————だが、二人にはどちらの才能もない。モンスター相手に一人で立ち回る力はない。だからこそ、二人で動きを合わせて戦う」


 マリーもクロも、単体では強大なモンスターに太刀打ちできるほどの実力を持たない。しかし彼らは()()()()()になることで、モンスターに立ち向かう防御力と攻撃力を得たのだ。


 だが、そのような完璧な連携を実現するのは決して容易なことではない。

 数え切れないほどの訓練と、絶対的な信頼関係、そして————



「それを実現しているのが、彼らの才能————並外れた目の良さだ」



 レックスの口調には、確信に満ちた響きがあった。


 これこそが、レックスが二人を見出した理由である。



「二人の持っている目はそれそれ種類が違う————マリーの目は『適応の目』で、クロの目は『吸収の目』、といったところだ」



『適応の目』


 マリーはこの国の王女。

 貴族社会という複雑で陰湿な環境において、彼女は常に周囲の微細な空気の変化を感じ取り、その場その場の状況に完璧に適応することを求められてきた。


 表情一つ、仕草一つで命運が決まる宮廷生活の中で培った観察眼は、クロと動きを合わせ、敵の攻撃に適応することに役立っているのだ。



 そして、『吸収の目』


 クロは数年間、ずっと勇者のことを追いかけてきた。

 勇者の技を目に焼き付け、その精髄を吸収することで力をつけてきた。


 勇者の持つ圧倒的な力は、現在のクロには到底扱えないほど強大なものだったが、対象の技術や戦闘スタイルを完璧に模倣する驚異的な観察眼によって、彼は次々と新しい技を身につけていった。


 そしてその技こそが、今この瞬間、強大なドラゴンと互角に渡り合える力の源となっている。



 ————その新しい技は、恐らくマリーの別人格から得た力だろう。



 それが彼らの類まれな才能。

 二人の中にある才能、その全てが引き出し合い、噛み合って、ここに新たな冒険者が誕生する。



「今までにない、冒険者の形————新しい変化だ」



 これまでの勇者達にもなかった新しい戦い方。


 もちろんここに至るまで、相当な努力を重ねてきたことだろう。

 その結果、二人の動きはほとんどのズレもなく、尋常じゃない連携を可能にしている。


 二人のシンクロした姿はまるで、舞踊を踊っているかのようだった。



「————でも、ここで試練を超えられないようじゃ、話にならねえ」



 武者丸が真剣な表情で口にする。

 歴戦の戦士としての威圧感が、周囲の空気を重く変えていた。


 三週間前、二人の実力を試し、失望した武者丸。

 だからこそ、今回の試練は、彼にとっても特別な意味が込められていた。


 勇者と肩を並べる冒険者として認められるための、最後の関門————



「勝負は一回————絶対に同じ冒険を繰り返すことはできねえ。これも冒険者の掟の一つだ」



 一度負けたら命を落とす。

 危険なダンジョンの攻略において、「やり直し」という概念は存在しない。


 決して変えることのできない絶対的な掟だ。



「————それなら、大丈夫さ」



 その重苦しい沈黙を破ったのは、意外にもラウムの穏やかな声だった。

 彼の表情には確固たる信頼の光が宿っており、まるで結果を既に知っているかのような安らかさを湛えている。



「あいつらなら、超えられるさ」



 風が戦場を駆け抜け、砂塵が舞い上がる。

 勇者達は、再び試練に挑むもの達に視線を戻したのだった。



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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