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第4話 存在価値がないなら、勇者を籠絡すればいいじゃない

「テレシーどうしよう〜〜!」



 自分の部屋で、私は絶望的な声を上げ、目の前の背の高い女性に泣きつく。


 彼女はテレシー。

 テレシーは私が幼い頃からずっと側に仕えてくれている侍女だ。


 透き通るような銀髪は夕日を受けて淡い光を放ち、深い青の瞳は澄んだ湖のように美しい。

 その整った顔立ちと気品ある仕草は、メイドの身分を忘れさせるほどの存在感があった。

 王宮中の男性貴族達が振り返るほどの絶世の美女である。


 そんなテレシーの腰元に私は情けなくしがみつく。

 彼女の体に子猫のようにすがりついていた。



「暑苦しいのでくっつかないでください」



 あっさりとひっぺがされる。

 冷ややかな声と共に、彼女の細い指が私の頭を軽く押した。


 このメイド、小さい時からお世話してもらっているからか、私に対して結構厳しい。

 いつも扱いが雑なのだ。


 他のメイド達が私にへりくだり過ぎるのとは対照的に、テレシーだけは一線を引いていた。



「ひどい! テレシーの意地悪! 私、この国の王女なんだよ! 逆らったら不敬罪なんだよ!」


「王女だったら王女らしく振る舞ってください」



 私の抗議に、テレシーは一切表情を変えることなく、まるで小さな子供をあしらうかのように返した。



「テレシーの前だったらいいもーん」



 私はベッドにだらしなく寝転がった。

 絹のシーツが肌に心地よく、天蓋の刺繍が複雑な模様を描いている。


 この部屋でテレシーといる時だけは、王女という仮面を外して、自然体でいることができた。

 一般JKという前世の記憶を持っている私にとっては、ありがたい居場所だ。


 だが、このままでは、王女という仮面すら私の手元からなくなってしまう。



「で、()()でどうするよ。このままじゃ田舎に飛ばされちゃうよ」


「ガチってなんですか」


「ガチはガチよ」



 どこでそんな言葉覚えてきたんだか、とテレシーは頭を抱えているが無視する。



「政治の駒として国を出された王女は、そっちの国で冷遇されるって相場が決まってるのよー!」



 私はベッドの上でじたばたと手足をばたつかせた。

 シーツのしわが広がり、私の心の乱れを映し出しているようだった。



「そうは言ってもですね……」



 テレシーは綺麗な目を閉じ、口元に手を当て、思案する。


 なんだかんだ言いながらも、真剣に考えてくれる。

 彼女の厳しさの下には、いつも私の味方をしてくれる優しさが隠れている。



「存在価値を示さなくてはなりませんから、何かしらこの国に貢献しなければなりません」


「例えば……お金とか? テレシー貯金いくらなの?」


「ナチュラルにカツアゲしようとしないでください……それに、財力に関してはレーヴェンシュタイン家がいるので無理ですね」



 リゼッタ、そしてヴィオレッタの家だ。

 今の王国の要と言われている公爵家がいるので、お金の話で私が太刀打ちできるはずはなかった。



「同じ理由で、外交や内政においても、マリナス様が出る幕はありませんね」


「ええ……じゃあどうするのよ」



 再びじたばた。

 私の不安は徐々に大きくなっていく。



「あとは……武力ですかね」



 テレシーは再び首を捻って考え出した。

 武力————って言われてもねぇ……



「私、喧嘩とか全然強くないんだけど。それに暴力的なのってあんまり好きじゃない」


「誰もマリナス様の弱っちい力に期待していませんよ」


「ひどい!」



 私のブーイングにも、テレシーには無表情であしらわれる。


 前世でも現世でも、私はスポーツも何もやってこなかったので、運動神経など皆無だ。

 ましてや争い事なんて、できるはずがない。


 細い腕を見つめながら、私は自分の無力さを痛感していた。


 だがテレシーの提案は、どうやらそういうことではないらしい。



「この国は他国と戦争しているわけではないので、武力にあまり力を入れていませんが、それでも国力を測る指標の一つになります。マリナス様が武力を強化するとして、強ければ強いほど、国の権威を示すことができ、マリナス様の株も上がるということです」


「あーなるほど、私達は強いんだぞ〜って言いふらすことで、王国の力を示すのね」


「はい、それで————武力強化をする上で最も手っ取り早いのは、実力者の力を借りることですね。実力者と契約し、国に招き入れることで、マリナス様の力として、皆さんに示すことができるでしょう」



 そこまで説明してもらって、ようやく理解が追いついた。


 虎の威を借るなんとやら、ってことね。



「う〜ん、でも実力者って言われてもな〜、どんな人が強いのかもよくわかんないし」



 私は天井を見上げ、考え込んだ。

 この国の実力者といえば、誰だろう。


 名前が浮かぶ前に、テレシーが口を開いた。



「そういえば……」



 テレシーは何かを思い出したようだ。

 彼女の目が輝き、少し身を乗り出してきた。



「最近、勇者が来国したという噂がありますね」


「勇者?」



 その言葉に、私は思わず上半身を起こした。



「はい、『勇者レックス』 最強の冒険者として有名です」



 名前かっこよ。



「数々の偉業を達成し、あらゆる街や国を救ったとされる英雄ですが、どこの国や組織にも属さない流浪の冒険者だと聞いています」


「————それだ」


「はい?」



 テレシーのアイデアに、私の心は高鳴り始める。

 沈みかけていた希望が、再び胸の内で燃え上がるのを感じた。



「その人たちをたらしこんで、私の手下にすればいいってことね! そうすれば、この国に武力で貢献できて、私の存在価値を示せる……!」



 興奮した様子で私が言い切ると、テレシーは困惑の表情を浮かべた。



「あの……簡単には言いますが————」


「テレシー! 今すぐこの国の冒険者協会の場所を教えて! 会いに行ってくる!」



 私は早速行動に移す。

 衣装部屋に向かって駆け出し、外出用の服を引っ張り出した。


 モタモタしている暇はない。

 すぐにでも、外国に売り飛ばされる危険があるのだから。



 存在価値がないなら、勇者を籠絡すればいいじゃない。


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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