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第48話 勇者に認められたいなら、ドラゴンを倒せばいいじゃない

 マリーとクロの試練当日。



 修練場の空気は、いつになく張り詰めていた。

 重たい緊張が、肌に触れる空気の一つひとつに混じっている気がする。


 私達の足音だけが、異様なほど大きく聞こえていた。

 そして、その周囲を囲むように、勇者パーティの面々が並んでいる。


 彼らの視線が針のように突き刺さってくるのを感じながら、私は無意識に剣の柄を握りしめた。



 私達は、ここで今から試されるのだ。



「……準備はいいな?」


「はい……!」



 低い声が、修練場の静寂を破る。

 返事にも自然と力が入った。


 この三週間、私達はがむしゃらに頑張ってきた。

 筋肉痛と擦り傷に耐え、豆だらけになった手で剣を握り続けてきた。

 食事さえも忘れて、鍛錬に励んでいた日だってある。



 でも————


 もしここで何もできなければ、すべてが水の泡になる。

 ここで試練をクリアして、勇者達に認められなければ、これまでの努力は意味がないも同然だ。



 剣を握る手に汗が滲む。

 失敗したら終わりという恐怖が、体を強張らせる。


 でも、きっと私達なら大丈夫。

 隣には、クロがいるから。



 この三週間に渡る毎日の修行。

 クロがいたから頑張れた。


 だから今日も、クロを信じて頑張るんだ。



 いつの間にか、私は当初の目的を忘れかけていた。

 最初は、王女として勇者を権力争いの手駒にするために始めた冒険者。


 ただ今は、クロと二人で勇者の試練をクリアしたい。

 一緒に————本物の冒険者になりたい。


 その想いだけで、私はここに立っている。



「よし————ニカ、チカ、始めてくれ」


「承知————」



 双子の魔法使い、ニカとチカが同時に詠唱を始めた。

 二人の声が重なり合い、空気が震える。


 大地が唸り、魔法陣が光を放つ。

 その中心から————巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。



 ニカとチカの召喚獣————ドラゴン。



 漆黒の鱗が朝日を反射し、まるで生きた鎧のように輝いている。

 風を切る翼が広がると、その影が修練場全体を覆い尽くすかのようだった。


 瞳は炎のように赤く、口元から漏れる息は熱風となって私達の頬を撫で、その奥に見える牙の鋭さに身震いがした。




『ギャアアアアアアオオオオオッッ!!!』




 ————これが、人間を超越した存在。


 モンスター。



 その場にいるだけで、圧倒される。

 呼吸が浅くなり、足が震える。



 本当に……勝てるの……?


 胸の奥で、今まで蓄えてきた自信がひとつずつ剥がれていく。

 これまでの努力が、すべて無意味になるんじゃないかという不安が、喉までこみ上げてきた。

 手に握った剣が、まるで木の枝のように頼りなく感じられる。



「大丈夫」



 その時だった。

 隣から、いつもの声が聞こえてきた。


 弱気になると、いつも私にそう言ってくれる。

 何の根拠もない、でも、奇妙な説得力のあるその言葉が————



「マリーは、僕が守ります」



 あの時————闘技大会に一緒に出場した時にも、クロが言ってくれた言葉だ。

 初めて出会った日、まだお互いのことを何も知らなかった頃に。


 今も、変わらず、同じ気持ちでいてくれるのだと分かる。



 胸の奥で彼の言葉が温かく広がり、震えていた足に力が戻ってきた。


 だから私も、決意を込めて————



「私も……あんたを守るよ」



 剣を、強く握る。

 今度こそ、迷わない。



 クロと並んで、私はドラゴンに向かって走り出した。

 地面を蹴る足音が響き、風が髪を巻き上げていく。



 恐怖も不安も、すべてを置き去りにして。


 この一歩に、すべてを懸けて————



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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