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第46話 別人格に会いたかったら、思い出してみればいいじゃない

「————まったく……そういうことなら早く言いなさいよ」



 クロに寝込みを襲われかけた後、二人で王宮の広場に移動していた。

 流石に王女の寝室に部外者をずっといさせるわけにもいかないし、第一、あのまま密室で二人きりでいたら、また何か変な空気になりそうだった。


 てか、テレシーは何してんのよ。



「すみません……マリーの別人格と修行したいなんて言ったら、気を悪くされるかなと思って」



 クロは眉を下げて、居心地悪そうに視線を逸らしていた。

 流石に部屋に無断で侵入するのはやりすぎだと悟ったのか、反省しているようだった。


 十分に反省してほしい。

 おかげで私は何かを覚悟してしまいそうになったのだから。


 何かを、ね————



「————というか、自分が二重人格だって知ったら、ショックですよね……?」


「別にいいわよ。もうなんとなく分かってるし」


「あ、そうなんですね」



 クロの懸念に私はあっけらかんと返答する。



 私の中に、もう一人誰かがいる。


 その可能性に気づいたのは、数日前、冒険者達に襲われかけた時だった。

 クロを置き去りにして、尻尾を巻いて逃げたはずなのに、気づいたら私は冒険者達を制圧していた。

 あの時の記憶は曖昧で、まるで霧がかかったように不鮮明だったが、頭の中に明らかに私ではない声が聞こえていたのだけは確かだった。


 それに、その前もクロや他の仲間が、私を見ながら、どこか他の「誰か」を見ているような視線を向けていた気がする。



「————ていうか、シアターで悲劇見ようとか、肝試ししようって言ったのも、私の人格が入れ替わるか試してたってことね……」


「ひいい……すみません」



 クロが情けない声を上げて頭を下げる。

 正直に言えば、私に内緒でこそこそしていたこと自体は、ちょっと腹が立つ。


 でも————



「でもまあいいか。あんたの力になってるみたいだし」


「……ありがとうございます」



 クロの顔が少しほっとしている。


 昼間の喧騒が嘘のように静かな王宮の広場。

 石畳に月光がやわらかく射し、噴水の音だけが私達の周りを彩っていた。



 ちなみに————


 私は興味本位で問いかける。



「ねえねえ、私じゃ分からないんだけど、もう一人の私ってどんな人?」


「名前はゴーキさんと言って、とてつもなく強い方です。戦闘におけるあらゆることを知り尽くしている……!」


「ゴーキって……」



 名前いかついな。

 明らかに男じゃねえか。


 しかも、どこかで聞いたような名前————たしか格闘ゲームのキャラにいたような……


 そんな名前からして強そうな奴が私の中にいるなんて、なかなか信じられないわね。



「だから今日もその人に教われば、もっと強くなれるんじゃないかと……」



 クロが視線を落とし気味にそう言うが、顔は至って真剣だ。

 その表情に、私はにやりと笑ってみせた。



「じゃ、変わってみようか?」


「え? できるんですか!?」


「わかんない」



 クロがズコーっと横に倒れる。


 実際分からない。

 私の人格が変わるメカニズムなんて、ファンタジーよりもファンタジーだ。


 だが、バディがそれを望んでいるのだから、私もそれに応えたい。



「でも試せることはあるでしょ。私もあんたの役に立ちたいもの」


「マリー……!」



 感動した様子で、クロは私のことを見つめている。

 しばらくそうした後、二人で笑い合った。


 すごく落ち着くいい雰囲気だ。

 夜の静寂と月明かりが、私たちの距離を縮めているような気がした。



「じゃあちょっと考えてみましょう。例えばそうね————昨夜も私、人格が変わってたみたいだけど、その時の私ってどうだった?」



 単純に考えれば、私の人格が入れ替わった時のことを再現すればいいわけだ。

 クロは宙を向いて、昨日のことを思い出そうとしていた。



「うーん、昨日は辺りも暗くなってきたところで、マリーが眠ってしまってですね……」


「だから、私の寝込みを襲おうとしたわけね」


「ちょ、それはもう許してくださいよ〜〜!」



 クロが慌てふためく様子はコミカルで面白かった。


 真面目に考えてみると、フォックスという冒険者達に襲われそうになった時も、薄暗いところに連れてかれていた。

 クロがシアターや肝試しに誘ったのも、別人格に変わるきっかけが「暗いところ」であると推理してのことだろうか。


 私が、暗いところが少し苦手なことが、もしかすると関連しているのかもしれない。

 暗いところが苦手なのは、前世で元父親から隠れるために、暗い押し入れに入っていたトラウマがあるからだけど。



「そういえば……マリーが眠る前、お母さんの話をしていました」


「お母さんの話……?」



 お母さんって、王妃のクセルお母様のこと————ではなさそうよね。

 だったらそう言うだろうし。


 てことは————前世のお母さんのこと?



「そうね……ちょっと思い出してみるわ。お母さんでしょ————」



 これが本当にトリガーなんだろうか。

 前世のお母さんが?


 まっさか〜〜


 だって異世界に何にも関係ないし。

 きっとたまたまよね。



 そんなわけがないと思っていても、私の頭は無意識にお母さんとの記憶を探り始める。


 そして一つ、思い出したことをなんとなく口にして見た。



「あ、そういえば! お母さんってね。絶対に食べれない嫌いな食べ物があって、それが————」



 そこまで言いかけたところで、私の意識は、ふっと途切れた。






 *





 そして、次の朝————



「ちゃ、ちゃんと変わってましたよ……」


「……そうみたいね」



 顔をぱんぱんに腫らしたクロが、喋りづらそうに口を動かす。

 両頬が見事にふくれあがり、まるで頬袋にクルミを詰め込んだリスのような有様だった。



 ということは————私の人格が変わるきっかけは、お母さんてこと?


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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