第41話 信頼を強めたいなら、仲間同士で斬り合えばいいじゃない
私は剣を握りしめ、クロと向き合っている。
重い鋼の感触が掌に食い込み、慣れない重量が腕に負担をかけていた。
剣を持ったのは冒険者になってからが初めて。
前世ではこんな大きい刃物普通ないし。
この世界で王女として生まれ育った私は、このような武器とは無縁の生活を送ってきたのだ。
こんなもの、自分は到底持たないと思っていた。
人の命を脅かす、危険な武器。
それを今、大切なバディであるクロに向けている。
生きた心地がしない。
唾液が引いて口の中が砂漠のように乾燥している。
手が小刻みに震えて、まるで自分の体ではないみたいだ。
「————大丈夫!」
その時、正面にいるクロから声がかけられた。
彼の顔には、私の不安を和らげるような温かい笑顔が浮かんでいる。
いつものように頼もしく、安心感を与えてくれる相棒の表情がそこにあった。
「僕を信じて!」
「う、うん……!」
そっか————
あんたがいてくれるだけで、私は勇気が出せるんだ。
震える手で剣をしっかりと持ち直し、上段へと構え直す。
刃先がわずかに揺れていたが、クロへの信頼が私の心を支えていた。
「でやああああああっ!!」
私は全力で剣をクロに突き立てた。
クロがちゃんと受け止めてくれると信じて————
*
「「真剣組手?」」
聞きなれない単語に、私とクロは首を傾げた。
私はともかく、冒険者であるクロも知らないということは、あまりメジャーな訓練方法ではないのだろうか。
「そうだ。読んで字の如く、真剣で組手をするという訓練方法だ」
ラウムは腰元から剣を引き抜き、私達に見せる。
長年の使用で柄の革巻きは擦り切れ、所々ほつれて古びているが、刀身は丁寧に手入れされているのか、午後の太陽光を鏡のように反射してまばゆく輝いている。
「クロ、お前は剣を振るう時、何を考えている?」
ラウムはその剣に視線を落としながら、静かにクロへと問いかけた。
クロはそれに、真剣な表情で答える。
「敵を倒すこと」
「そうだ。剣は敵を倒す————殺すための凶器だ。マリーもこれは肝に銘じておくといい」
剣は凶器。
人の命を奪う道具。
これだけは、どの世界でも変わることのない絶対的な事実なのだ。
「だから、剣を振るときは敵を確実に殺すつもりで振る。ビビって力を抜いてたら、逆に殺されちまうからな」
これは、冒険者としての心得だ。
生と死の境界線で戦い続ける冒険者としての鉄則。
ラウムは人差し指を天に向けて立て、重要なポイントを示すように続ける。
「これを仲間に向けて振る————この真剣組手は、何よりもバディとの信頼関係が問われるんだ」
いかにバディを信じて剣を振れるか。
防御ができなければ、剣は人を殺す。
かといって、本気で剣を振れなければ、強くはなれない。
まさに信頼と技術の究極の融合が求められる訓練法なのだろう。
「まあ説明だけじゃピンと来んだろうからな————おーい! 武者丸とレオナ!」
ラウムは大きく手を挙げて、修練場内の私達とは反対側にいた武者丸とレオナに声をかけた。
二人は呼ばれた声に反応し、軽やかな足取りでこちらに駆け寄ってくる。
「なーに? ラウム」
「なんだよおっさん、今忙しいんだよ」
「だらだらと地面で寝転がって暇そうにしてた奴のどこが忙しいんだ? まあいいや————この二人に、真剣組手を見せてやってくれねえか?」
二人は顔を見合わせた後、レオナが大きく頷く。
「うん、いいよ〜〜」
そう言って、二人はそれぞれの得物を取り出す。
慣れた動作で剣を構え、お互いに適切な間合いを測りながら距離を取った。
それだけで、空気が張り詰めるのを感じる。
「久しぶりかもね〜〜、武者丸と真剣組手するの」
「ふん……怪我すんじゃねえぞ?」
「舐めないでよ————ね!」
そう言いながら、レオナが武者丸に斬りかかった。
奇襲のように思われた攻撃も、武者丸は容易にガードする。
瞬間、とてつもない速さで剣戟が繰り広げられた。
カカカカカカカン————という連続音。
目の前で見ていなかったら、これが剣のぶつかり合う音だと誰が分かるだろうか。
二人の動きは人間の限界を超えているかのように見えた。
「す、すごーい……」
私は口を開けたまま、呆然とその光景を見つめていた。
これが本当の冒険者の実力なのかと、圧倒的な技術の差を見せつけられた思いだった。
「————まあ、ざっとこんなもんかしらね」
「お前達もこれくらいになってくれないと、勇者の仲間としてはやっていけねえぞ」
レオナの明るい目、武者丸の鋭い目————二人の挑戦的な目つきが、私達に注がれる。
これくらいできないと、認められない————
「こ、こんなの私には……できないよ……!」
流石に自信がなくなってきた。
冒険者としては、初心者も初心者な私。
こんな熟練の技が、こんな私にできるのだろうか。
すると、クロが優しく肩を支えてくれる。
「大丈夫、一つずつ————でしょ?」
大丈夫だと————
クロは変わらず優しく言ってくれた。
私はこくりと頷いて、それに応える。
クロが隣にいてくれるだけで、頑張れる気がした。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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