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第3話 政略結婚が嫌なら、存在価値を示せばいいじゃない

「お前に、王位を譲る気はない」



 お父様の言葉が、私の胸を貫く。


 深紅の絨毯の上に据えられた金細工の施された玉座に座るお父様————この国の王は、淡々とした様子で、私に現実を突きつけた。



「い、今なんて……?」


「お前に王座を譲る気はないと言ったんだ」



 聞き返しても同じ言葉が返ってきた。

 卒倒しそうになったところを何とか堪える。


 第34代目アンドレアス王。

 私のお父様。


 稀代の切れ者と称される冷徹な判断力と鋭い洞察力を持つ君主とのこと。

 多忙を極める政務のため、実の娘である私と交流する時間はほとんどなく、幼い頃からお父様に対してはちょっとだけ苦手意識がある。


 だが、今回ばかりは、いかに王の言葉とあれど、はいそうですかと素直に納得するわけにはいかなかった。



「私って、クセルお母様の唯一の娘であり、王家の血筋ですよね……? 私が王家を継がなければ、誰も継ぐ人がいないんじゃ————」


「あなたの血がなんだっていうの?」



 その問いに答えたのは、国王の隣に立つ女性。


 ヴィオレッタ・レーヴェンシュタイン。

 名門で歴史ある公爵家の娘。


 彼女は女性でありながらも宰相として国王の側近を務め、政治、財政、外交と国の要を牛耳っている女傑だ。

 そして、先ほどメイドに意地悪をしていたリゼッタの母親でもある。



「重要なのは、ここにいるアンドレアス王の血であり、別邸で()()()()()()()()の血ではないわ」


「……」



 流石にカチンとくる言葉だった。

 お母様を馬鹿にして……


 ————しかし、マリナスは空気を読んで言い返すことはしない。

 ただ唇を噛み締め、膝元で握った拳に力を込めるだけだった。


 昔、ヴィオレッタはお母様と王妃の座を争っていたらしい。

 それもあって、どうにも正妃の娘である私のことが目障りに思っているようだった。



「アンドレアス王、こんな娘は放っておいて、早く私の娘————リゼッタと婚約してください」



 私の背筋がゾワっと逆立つ。


 側室というのだろうか。

 この世界では珍しくもないことなのだろうが、前世で日本人だった私には生理的に受け付けない。


 というか、王妃————私のお母様を蔑ろするような発言が、シンプルに許せなかった。



「まだその時ではない。私はまだ現役だ。あと数十年は、誰にも王座を譲る気はない」


「子を成すのは早い方がいいと思われますが————まあ、今はいいでしょう」



 お父様の返答に私は胸を撫で下ろす。


 それにしても、ヴィオレッタはどうしてリゼッタとの婚約をお父様に勧めるのだろうか。

 まさか、お父様とリゼッタの子を次の王にすることで、王家を乗っ取ろうとしているとか……?


 ————って、お父様とリゼッタの子ってことは、私と兄弟?

 というかリゼッタが私のお義母さん!?


 私の頭の中で、おーっほっほっほと高慢に笑うリゼッタのイメージが浮かび上がる。


 し、信じられない……



「さて、あなたには東の国————ヤマルタに嫁いでもらいます」



 そこで、私の思考は寸断される。


 顔を上げると、光を反射する宝石のように冷たく輝くヴィオレッタの瞳が、私を見下ろしていた。


 外国に嫁ぐ。

 いわゆる、政略結婚。

 政治の手札。


 だが、本で読んだ知識にすぎないが、政治の駒として外国に嫁ぐ王女のその先には、あまりいい未来は待っていない。


 嫁いだ先は全員敵。

 冷遇されて、挙げ句の果てには国敵として追放され、路頭に迷う可能性だってある。


 少なくとも、王女である今よりも、生活の質は下がること間違いなしだ。



 冗談じゃない。



 せっかく勝ち取った贅沢で安定した生活。

 これを手放してなるものか。


 私の胸中で闘志が燃え上がった。



「お父様————どうすれば私はこの国に残ることができますでしょうか?」



 意を決して、私はお父様に問いかける。

 だが、すぐにヴィオレッタが嫌な顔をした。



「あなた、子供遊びじゃないのよ。いい加減に————」


「まあ待て」



 国王がヴィオレッタの言葉を手を挙げて制する。



「確かに政治の手札として、外国に嫁がせるのは効果的。だが————それは使い捨ても同然だ」



 アンドレアス王の声は低く、しかし明瞭に響いた。

 私は思わず顔を上げ、父の顔を見つめる。



「お前がこの国にとって、最も役に立つ使()()()はなんだ?」



 使い方という言葉に神経が逆立つ。

 人としてではなく、道具として見られている感覚。


 でも、王宮で生きるということはきっとこういうことなのだ。

 政治の世界に生まれた宿命だ。


 私は震える手を隠すように、ドレスの裾をぎゅっと握りしめた。



「お国の役に立つためならば、なんでもします!」 


「では、存在価値を示せ。お前がこの国になくてはならない人間だということが分かれば、王位を譲ってやろう」



 国王が私にそのような指令を出した。


 拒否権はない。

 これが達成できなければ、私は外国に売られるだけだ。



「かしこまりました」



 私は深く礼をして広間を出ていく。


 扉へと向かう私の背中に、ヴィオレッタの冷たい視線がずっと突き刺さっていた。

 その鋭い視線は、まるで毒を含んだ短剣のような、嫌な視線であった。


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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