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第34話 勇者の弱みを掴みたいなら、スキャンダルを探せばいいじゃない

 蠟燭の炎が壁に揺らめき、影を踊らせる。

 遠くから聞こえる喧騒とは無縁の、秘密めいた時間が流れていた。


 薄暗くディープな雰囲気は、都の喧騒から隔絶された別世界のようだ。



 扉を開けて入ってきたのは、この国の第一王女であるこの私、マリナス・アンドレアス。


 私は高級な革の椅子に優雅に腰掛け、テーブルの奥にいる影のような男に声をかける。



「マスター、いつものを頼む。それから————この紙に書かれているものも一緒に」



 長年の馴染み客であるかのような自信に満ちた口調でオーダーする。

 その紙を受け取った男は、無言のままゆっくりと腕を伸ばし————



 カーテンを開けた。



「————うちは酒場でもバーでもありませんよ……マリナス様」


「うおっ! まぶしっ!」



 私は窓から差し込む真昼の太陽光に思わず両手で顔を覆う。

 眩しさに目を細め、一瞬の間、視界が白く染まった。


 明るくなった室内には、磨き上げられた木製の家具と整然と並べられた書類の山が広がっていた。

 壁には王国認定の証書や冒険者たちの功績を記した表彰状が飾られている。



 時刻は全然昼。


 そこはいい雰囲気の酒場などではなく、ただのアンドレアス冒険者組合の組合長室であった。



「ちょっと〜〜! せっかくいい感じの雰囲気出してるのにノリ悪いわよ!」


「私にいったい何を求めているというのですか……ここは遊び場じゃないんですよ?」



 ぷんすこと怒る私に対し、顔を(しか)めるその男。


 アンドレアス冒険者組合長である。


 年齢は五十を過ぎたかという所で、豆のような小柄な体型の男だった。

 頭頂部の髪は随分と後退し、残された髪は銀色に輝いている。

 日々の苦労がその身に現れているようだ。


 組合長はテーブルを挟んで向かいの席に座る。



「今度は何ですか? あなたがここにいらした時は碌なことがないというのに……」



 迷惑そうな表情で、私に訪問の目的を問う。

 以前、勇者との会談のアポイントメントを取るときに、散々無理を言ったのを根に持っているようだ。



「……一応、その紙に書いてあるわよ」


「まどろっこしいですねぇ……どれどれ————」



 組合長は先ほど受け取った紙を開き、中身を確認した。


 そこには————



『勇者のスキャンダルを教えて!』



 ————と、大きな文字で書かれてあった。



「……何ですかこれ?」


「スキャンダルよ! スキャンダル! 私は残り3週間の間に勇者の弱みを握らなきゃならないの! だから、勇者のスキャンダルを教えて!」


「いやいやいや、あの勇者様にそんなものあるわけないでしょうが!」



 組合長が全力で拒否する。


 有名人の分かりやすい弱みと言えば、汚職————スキャンダルである。

 現実世界の芸能界においては、マスコミに見つかり、報道された時点で、その人間の価値は地に落ちる。

 スキャンダルとは、そんな破壊力を持った爆弾のようなものだ。


 無論、今回は失墜させるのが目的ではない。

 弱みを握って、勇者をコントロールするのだ。

 クロを仲間として認めさせ、私が女王になるために。


 だからこそ、週間◯春に載るようなスキャンダルを掴めれば————



「いいから早く教えて! ないなら作ってよ!」


「言ってること無茶苦茶ですよ!?」



 私はテーブルをペシペシ叩きながら、組合長に駄々をこねる。

 私の身勝手な要求に対し、溜め息をつく度に彼の肩が上下していた。



「全く……何で私にこのような難題を何個も————」


「え? そんなの———あなた以上に冒険者に信頼されている人はいないからでしょ?」


「はい?」



 頭を抱えようとした組合長に、私は素の声でそう言う。

 組合長は目を丸くしていた。



「この国の冒険者組合は質が良いことで有名だもの。だから、こんな大陸の西端の国なのに冒険者が集まる。あなたが日々の仕事を頑張って、冒険者の信頼に応えている証じゃない」



 冒険者の活動は、冒険者だけでは絶対に成り立たない。

 クエストを募集し、管理し、公平に冒険者に提供する。


 冒険者という職業柄、現実世界のサラリーマンのような礼儀正しい人間ばかりではないだろう。

 粗暴で気性の荒い者、約束を守らない者、時には犯罪まがいの行為に手を染める者もいるはずで、時にはトラブルに巻き込まれたりすることもあったはずだ。


 それでも、誠実にこの仕事に向き合い続けている。

 風雨にさらされながらも立ち続ける古木のように、彼は揺るがぬ信念を持って組合を運営してきたのだ。


 そして、冒険者の信頼を得ている。



「だからこそ、勇者の弱みをあなたから聞けると思ったのよ!」


「最後だけとんでもなく下衆い!」



 組合長は最後のセリフだけギョッとしたリアクションをとる。

 その後、こほんと咳払いし、冷静に私に伝えた、



「……そういう話であれば、尚のことあなたに変な話はできません。大事な冒険者を守るためにもね」


「ええ〜〜そんなぁ〜〜!」



 私は肩を落とし、腕を投げ出す。

 やっぱり、自力で探さなきゃダメかぁ……


 すると、組合長は微笑みながら、私に言った。



「そんな妙なことしなくても、マリナス様であれば勇者に認めてもらえると思いますよ?」


「え?」



 私は組合長の言葉に顔を上げる。



「だって、マリナス様は————」



 何かを言おうとしたその時だった————

 組合長室の扉が突然開かれ、その重い木の扉が壁に当たって反響する音が部屋中に響いた。


 そして、ぞろぞろと冒険者が入ってくる。



「よお……また会ったな。お嬢さん」



 そこにいたのは、闘技大会の決勝で戦った、柄の悪い冒険者であった。




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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