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第30話 力を見極めたいなら、才能を見せつければいいじゃない

 一体、どうしてこうなったのだろう。



 この混沌とした状況に、私の心は悲鳴を上げる。

 窓から差し込む陽光さえも冷たく感じる午後、信頼関係が砕け散る音が私の耳に響いていた。



 私はベストを尽くしていたつもりだった。

 自分なりに考え、自分のできることをして————


 私が新しい装備を纏ってみんなの前に出た時、空気が明らかに変わった。

 今までの温かい空気から、冷たいものに。


 王族しか装備できないような最高級の防具が、傲慢さの象徴に映ったのだろうか。

 私の意図とは裏腹に、それは「戦う意志のなさ」を如実に表していた。

 勇者達の表情に浮かんだ失望と軽蔑の色合いが、心に突き刺さる。



 私には戦いの才能がないのだから、せめて防具を揃えて、勇者達の荷物になるまいとしていただけなのに————



 武者丸が向ける敵意の視線は、ひどく胸に刺さるようだった。

 だが、それから私を守ってくれたのは、クロだった。



「————行くぞ三下ぁ!」


「くっ……!」



 二人の間に一瞬の静寂が訪れた後、砂塵を巻き上げるような勢いで武者丸とクロが衝突する。

 鋼の剣が交差するたび、火花が散り、金属の鋭い音が周囲に響き渡った。



 武者丸の猛烈な斬撃を、クロはその類稀なる俊敏さで躱す。

 一般人の目には残像すら捉えられないほどの速さで、二人は剣を交える。

 鋭い刃が空気を切り裂く音と、重厚な足音が入り混じり、緊迫した戦いの旋律を奏でていた。



 汗に濡れた額に張り付く前髪、歯を食いしばる表情。

 クロの瞳には、明らかな苦悩が映っていた。


 憧れの人達と戦うことに、苦悶の表情を浮かべているクロに、私は胸を痛める。



「————相変わらず、スピードだけはすごいねぇ」


「まあ、そうだな」



 声のする方に視線を向けると、ラウム達が真剣な表情で二人の戦いを見守っていた。

 以前までの明るい表情はどこにもない。


 腕を組み、厳しい審判者の如く二人の戦いを凝視していた。

 かつて笑顔で私達を迎えてくれた彼らの表情が、今は氷のように冷たく変わっていた。



「あ、あの……」



 私はなんとか声をかける


 乾いた砂を飲み込んだような嗄れた声が、かろうじて喉から絞り出された。



「どうして、二人が戦っているのですか……? 私達が戦うのは————」



 ドラゴンではなかったのか?

 どうして、同じ仲間同士でいがみ合わなければならない……?


 感情を映さない鏡のように冷たく澄んだ瞳のままで、レオナは答える。



「それはね————君のせいだね」


「え……?」



 刺されるような言葉だった。


 心臓が一拍分止まったかのような衝撃。

 レオナの言葉は、鋭利な氷の欠片となって私の心を貫いた。



「君が期待を裏切るようなことをしたから。私たちの仕事を、冒険者というものを、君が軽んじたように見えたからだよ」


「そ、そんなことは————」


「全くないって言い切れる? 自分には才能なんてないんだって諦めて、なんとなくで済ませようとしてない? 冒険者ではない何か別のところで役に立って、さも勇者の仲間だったよって、冒険者として頑張ったよって————言おうとしてない?」



 自分の狙いを見透かされているような気分だった。


 防具に金をかけ、見栄えを良くすることで、自分の価値を示そうとしていた浅はかさ。

「王女」という称号に頼り、本気で冒険者の道を歩む覚悟がなかった事実。


 私が本気で冒険者になろうとしていたかと問われれば、肯定できない。


 私は、王女だから————冒険者になることはないって、自分で線を引いていた。



「「私達は、それを仲間とは認めない————」」



 双子の魔道士、ニカとチカが声を揃えて、言い切る。

 完璧に同期した二つの声は、冷酷な審判のように響いた。


 冒険者になる気がない私は、仲間ではない。

 仲間になるに値しない。



「今、クロが武者丸と戦っているのは、君とクロの存在意義を示そうとしているんだ。勇者の仲間になる価値を示すために————」



 二人が勇者の仲間に相応しいかを、その身を持って示そうとしている。



「私達は、それを見極めなきゃダメなんだけど————」



 レオナはそう言って、クロの方に視線を戻した。


 クロが武者丸と激しい剣戟を交えている。

 だが、クロの方が若干スピードが速く、手数が多いように見えた。


 クロの剣さばきは目にも止まらぬ速さで、その刃は幾筋もの光の軌跡を描いていた。

 一秒に何十回と繰り出される斬撃の雨は、まるで銀色の嵐のよう。その圧倒的なスピードに、武者丸もたじろいでいるように見える。



 すごい……これならきっと勝てるのでは————


 私は期待を込めた視線でクロを見つめていると————レオナが溜め息を吐いた。




「————あれじゃ……武者丸には勝てないね」




 レオナは淡々とそう口にした。

 まるで切って捨てるかのように。


 クロと武者丸の戦いは、どちらかに差があるようには見えなかった。

 むしろ、クロの勢いに、武者丸が押されているように見えるくらいだ。



「ど、どうしてですか……?」



 私は恐る恐る聞いた。

 一体、クロと武者丸は何が違うのか。


 レオナは冷静な表情のまま、二人の方を指差す。



「クロの戦いからは才能が見えてこない————でもね、武者丸にはあるんだよ」



 彼女の細い指先が向ける先では、もつれ合うように二人の剣士が激闘を繰り広げていた。

 レオナの言葉に、私は再び二人の戦いに注目する。



 とてつもない剣戟の後————


 クロが持ち前のスピードで武者丸の背後を取った。

 姿が霞み、次の瞬間には武者丸の死角へと移動していたのだ。



「————隙ありです!」



 クロの声が勝利の宣言のように響き、彼の剣が空気を切り裂いた。

 完全に武者丸の視界外からの攻撃————のはずだった。



 武者丸の目が不気味な赤い光を放ち、まるで予知能力でもあるかのように、大振りのクロの上段斬りを受け止める。


 そして、鳩尾に渾身の膝蹴りを喰らわせた。

 武者丸の動きは獣のように野性的で、本能が導くままに繰り出された膝蹴りは、クロの急所を容赦なく襲った。



「あがあっ……!?」



 苦しい声をあげ、クロは後ろに倒れ込む。


 クロの痛みに歪んだ顔、口からこぼれる苦悶の声————

 腹部を押さえて倒れ込むクロの姿に、私は思わず駆け寄ろうとしたが、足が地面に釘付けになっていた。


 な、なんで……?


 確実に背後をとったように見えたのに————




「並外れた嗅覚————これがレックスに見込まれた武者丸の才能だよ」


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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