第2話 貧乏が嫌なら、王女に転生すればいいじゃない
アンドレアス王国は、中央大陸の西端に位置する小国である。
地図上では大陸の左端にぽつりと存在し、周囲を高く険しい山脈に囲まれているのが特徴だ。
人口はおよそ百二十万人。
国全体で都市と呼べる場所は王都ただ一つしかなく、そこに政治・経済・文化の中心が集約されている。
王国を取り巻く山々には、古代より存在するとされるダンジョンが無数に点在しており、多くの魔物が生息している。
こうした自然の障壁と魔物の脅威が、結果としてこの国を外敵から守る盾となってきた。
そのため、アンドレアスは他国からの侵略を受けにくく、比較的平穏な歴史を歩んでいる。
地理的な不便さと危険ゆえに目立たぬ存在ではあるが、同時に、それがこの国の安定を支えている要因でもあるのだ。
私はそんな国の王女。
王家の血を引く、唯一の王女なのだ。
先程メイドからもらったパンを食べ終わり、廊下を歩いていると、別の王宮メイドに声をかけられる。
「マリナスお嬢様。アンドレアス王がお呼びです」
「お父様が? 分かったわ」
私は王女なので、私のお父様は勿論、アンドレアス国王だ。
この国で一番偉い人である。
一体、何の用だろうか?
身を翻してお父様の元へと向かおうとしたが、そこで、目の前に立つメイドが眉を潜めた。
「あれ? お嬢様、口元にパン屑が……」
「え? あ、ごめんね」
「あーちょ!? 袖で拭かないでください! 汚れちゃいます!」
「あーごめんごめんごめん!!」
またやってしまった。
液体チックなものじゃないから汚れないしいいかなと思ったけど、普通に指摘された。
メイドに口元を払ってもらい(若干情けない)、急いでお父様のところへと向かう。
王女としての威厳を保つため、私は王族らしい振る舞いを常に心がけている。
しかし、時折気を抜くと、つい根っからの貧乏性が顔を出してしまうのだ。
その理由は単純明快。
私、マリナス・アンドレアスの魂の正体は————
異世界から転生してきた『上島双葉』というただの女子高生のものだからだ。
私の前世は、光輝くような特別なことなど何一つない平凡な人生だった。
両親は物心つく前に離婚し、ずっとアパートで母親との二人暮らし。
衣服や靴は穴が開くまで使い続ける。
お風呂は基本入れずにシャワーで済ませる。
デ○ズニーランドには行ったことがない。
こんなことで「貧乏だ」などと言えば、本当に貧しい生活をしている人々に怒られるだろうが、それでも決して恵まれた生活とは言い難かった。
まあ、デ○ズニーランド行ったことないは別に関係ないかもだけど。
そんな生活を少しでも改善しようと、いくらか努力をしてみたものの実を結ばず。
どうやら現実世界では、一発逆転で大金持ちになれるような都合の良い展開はそうそう訪れないらしい。
そして最後には、横断歩道で足を滑らせたところをトラックに轢かれ、上島双葉の恵まれない人生は唐突な終わりを告げたのだった。
結局、この世は運と才能なのだ。
世界の真理は残酷なまでに単純で、運と才能が支配する不公平な場所だということ。
恵まれた者だけが成功し、残りの大多数は泥の中をもがき続ける。
それが世の理。
だからこそ、私は次なる人生への転生の瞬間に心から願った。
次こそは、贅沢で安定した生活が送れる人生になりますようにと。
そして、私の願いは叶った。
一国の王女という最高の人生を勝ち取ったのだ。
しかも、第一王女という栄光が約束された最高の地位。
確率にすれば、何十億分の一という途方もない確率に勝った。
人生ガチャSSSレアだ。
だからこそ、私はなんとしてでもこの地位を手放さない。
周囲の空気を読み、王女として完璧に立ち回る。
そして、いずれはこの国の王となって、この恵まれた立場を守り抜くんだ。
————と思っていたのだが。
「お前に、王位を譲る気はない」
お父様の冷たい言葉が、私の胸を貫いた。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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