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第28話 勇者のことが分からなければ、聞けばいいじゃない

「レックスについて知りたいって?」


「はい……あの人がどんな人なのか、もっと知りたいのです」



 私は勇者パーティのメンバーであるラウムとレオナを食事に誘っていた。


 玉虫色の光沢を放つシャンデリアが天井から吊るされ、高級な木材で作られたテーブルが整然と並ぶレストラン。

 以前、レックスとラウムを招待したレストランと同じところである。



 できるだけ楽をして勇者に認められよう大作戦だが、あまりうまくいっていなかった。


 あれから朝食で毎日豪勢なものを用意しているが、リアクションは薄め。

 贈り物も結局、少し高価な装飾品をプレゼントしたのだが、「ありがとう」の一言だけだった。


 他にもレックスと会う度に色々とすり寄ってみたものの、暖簾に腕押し状態。

 私がこの異世界で習得したおべっかスキルが微塵も通じない。


 このスキルで、私は王宮で生き残ってきたというのに。

 権力者の機嫌を取ることに長けていたはずなのに、どうやら、レックスは王族や貴族といった人種とは全く別みたいだった。

 権力欲や虚栄心といったものからは、かけ離れたところにいるようである。



 もっとレックスのことを知る必要がある。


 だからこそ、勇者と長く旅をしてきたであろう、ラウムとレオナに相談することにしたのだ。

 二人なら何か手がかりをくれるかもしれない。



「レックスさんて、いつもあんな感じなのですか? なんというか……無愛想っていうか————」



 普通に「無愛想」とかって、言葉を選ばずに言ってしまった。

 だが、それを聞いて二人は小さく目を見合わせ、くすりと笑う。



「確かにあいつ、パーティメンバー以外と一緒にいると、全然喋らないよなぁ」


「私達だけだと結構おしゃべりだよ。優しいしね」


「え!? そうなんですか?」



 普通に驚きすぎて、大きな声が出てしまう。


 意外だ。


 あの勇者がおしゃべりなところなんて、どれだけ想像力を働かせても頭に浮かんでこない。

 てっきりクールで他人を寄せ付けないような人なのかと思い込んでいた。



「まあ、最近はクロも一緒にいるんだけど、接し方に困ってるみたいで、いつもの調子が出てないね」



 レオナが肩を竦める。


 つまり、信頼している人物には心を開いているようだった。

 信頼されなければ、真の仲間にはなり得ない————ということか。


 信頼される……信頼される……

 うーん……あの勇者レックスという牙城を崩すのは、なかなか困難な気がする。



「————お二人は、どのようにして勇者パーティに入ったのですか?」



 一旦、考え方を変えよう。


 そもそも、どうしてそんなに信頼されているのか。

 そりゃあ第一線で活躍する冒険者なわけだから、信頼に値する力を持っているのだろうが、なんのとっかかりもなしに勇者に認められたわけでもあるまい。


 勇者パーティに馴染むヒントを得るべく、私は二人に勇者の仲間になるきっかけについて尋ねた。



「最初は俺も、自分が冒険者になるだなんて思ってもみなかったさ。ずっと地元の酒場の下っ端で働いてるもんだと思ってた」


「私もずっと弟と妹達を養って生きていくんだと思ってたんだけどね。ある日、急にレックスに誘われたんだ。最初はもちろん断ったんだけど、なんか次第に自分にあってるかもな〜って思い始めちゃって————」



 これも少し意外だった。

 話を聞くほどに、私の中の二人の印象が塗り替えられていく。


 今は屈強な冒険者として有名な二人も、昔は普通の人間だったという。

 ラウムのがっちりとした体格や、レオナの何気に鍛え上げられた体からは想像もできないような生い立ちだ。



「才能を見つけ出すのがうまいんだ。あいつは」



 ラウムは茶を啜りながらそう言う。



「店主に理不尽に怒られながら働いている俺を見て、忍耐強さがあるって思ったんだとよ。だから俺は、このパーティでメインタンクをやっている」



 ラウムは、へへっと少し笑う。

 彼の目には懐かしさと尊敬の色が混ざっていた。


 そして、レオナはサブタンクとのことらしい。

 多くの家族達を養い、面倒見がいいところを評価されたという。


 それぞれの役割の適性を見込まれて、勇者の仲間になったのだろう。



 じゃあなんで————私は誘われたのだろう。



 私に戦いの才能なんてあるはずがないのに。

 剣も振れなければ、魔法の才能もない。


 その眼は全くの節穴ではないのか。



「始めは私なんかが冒険者なんて絶対できないって思ってたけど、今やグランドクエストに挑戦するようなムキムキ冒険者になっちゃったよ〜〜」



 レオナがマッスルポーズをしている。

 彼女の腕の筋肉は確かに見事だった。


 私も彼女みたいになれるのだろうか。自分の細い腕を見つめる。


 いや————絶対無理。

 想像もできないや。



 というか————



「そもそもの話なんですけど、グランドクエストってなんでしたっけ?」


「あそっか、元々冒険者じゃないから知らないよね」



 ごめんごめんと両手を合わせるレオナ。

 その隣で、ラウムが茶を飲みながら、ゆっくりと説明してくれる。



「グランドクエストは別名、五大クエストとも呼ばれるこの世界に古代から伝わる高難度クエストだ」



 北のアイアンゴーレム。

 巨大な体から放たれる地響きは周囲の大地を震わせ、その鉄の腕は山をも砕くと言われている。


 東のフレイムグリフォン。

 炎の翼で空を舞い、灼熱の息吹で何もかもを灰にしてしまうという。


 南のダークキマイラ。

 三つの頭を持つ禍々しい獣は、闇の力を操り、近づく者の精神を侵食する。


 西のエンシェントドラゴン。

 太古から生き続ける賢き竜は、あらゆる魔法を無効化し、その鱗は最強の武器をも跳ね返す。



 そして、この四つのモンスターを倒すことで現れる、ヨルムンガンド。

 世界を一周する巨大な蛇であり、その体に刻まれた古代文字には世界の秘密が記されているという。



 これらのモンスターを倒すこと。


 これこそが冒険者として最も誉高いことであり、世界中の冒険者がそれを夢見ている。



 そして、すべてのクエストをクリアすると、報酬として大いなる力を手に入れることができると言われていた。

 古来より伝わる伝承によれば————その力は世界を救うことも、滅ぼすこともできる力だと。



「————じゃあ、レックスさんはその大いなる力を求めて?」


「さあな。そこまでは俺も知らねえ」



 ラウムはそう言って話を打ち切った。

 窓の外を見つめる彼の横顔には、何かを秘めたような表情が浮かんでいた。


 まあ確かに————レックスはなんか力を求めているようなタイプでもなさそうだけどね。



 ということは————さっきラウムが言った順番でいくと、今回のグランドクエストは四番目なのだろうか。

 すでに三つのグランドクエストをクリアしているなんて、これってかなりすごいことなのでは?


 そして、この地域のグランドクエストも、想像するだけで息が詰まるような恐ろしい戦いになるんじゃなかろうか。



「————だから、今回のエンシェントドラゴン討伐、みんな結構気合い入ってるんだよ。だから、マリーも頑張ろうね」


「……」



 来週の試練、楽しみにしてるよ。

 そう言い残し、夕暮れの街並みが赤く染まる中で二人と別れる。


 私はこんなことをしていていいのだろうか。


 みんなキラキラしていて、自分たちの目標に向かって突き進んでいる。

 太陽のように眩しい彼らを、私はただ自分の地位のために利用しようとしているのだ。


 なんの特技もなく、なんの貢献もできない。

 冒険者としての力なんてもっぱらない。


 パーティの荷物になるだけの存在。

 それなのに、彼らは私を仲間として迎え入れてくれている。



 みんなどうして————こんな私に期待しているんだろう。



 その問いは、夕焼けの空に溶けていった。


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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