表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/175

第27話 宝石を見つけたら、あげればいいじゃない

 月明かりの青い光に照らされた図書館の廊下を僕達は進む。


 影と光が交錯する中、古ぼけた本棚の列が威圧的に立ち並び、まるで異界への門番のように僕達を見下ろしていた。

 奥に進めば進むほど、不気味さは増していく。


 そんな中で、僕は部屋の扉をガツガツと開けていった。

 一つ一つのドアノブを掴む手には迷いがなく、部屋の中を次々と確認していく。



「ちょっと! そんな不用意に部屋パカパカ開けて、なんか出てきたらどうすんのよ!」


「大丈夫です! 僕が守りますから」


「いや出てきた時点で怖いんですけど!?」



 マリーが顔を青くしながらも、1人にはなりたくないと僕の後をついてくる。

 細い指が僕の服の端を掴み、離そうとしない。

 その手には微かな震えが感じられ、恐怖が伝わってくる。


 しばらく探索を続けていると、図書館の構造に違和感を見つけた。


 下の階では同じ所に部屋があったのに、この階だけ部屋がない。

 同じ間取りのはずなのに。



「あれ? ここだけ不自然に部屋がないですね。ここまでは均等に等間隔で部屋があるのに」


「いやいやいや、別にそんな変なことじゃないじゃん。部屋が無くたっていいですやん」



 マリーは早く帰りたいのかそんなことを言うが、僕はどうしても気になった。

 冒険者としての勘が、この不自然さの裏に何かが隠されていると叫んでいた。


 僕は不意に本棚を触ってみる。

 分厚い皮の装丁が施された古書が整然と並ぶその本棚は、他のものより若干新しく見えた。

 木の質感も異なり、埃の積もり方も不自然だ。



 指先で慎重に棚の端を辿りながら、その一番右上を、なんとなく押し込んでみた。


 すると、かすかに「カチッ」という機械的な音が鳴り、本棚の背後から歯車が噛み合う音が響いた。

 一瞬の静寂の後————本棚全体が振動を始め、ゆっくりと左側へ滑るように動き出した。



「ひいい!!」


「か、隠し扉だ」


「ちょちょちょ、中は見ないどこ? もうここで帰ろうって————容赦なく開いていく〜〜!」



 マリーが隣で叫んでいる中、僕はその隠し部屋の中をのぞいてみた。

 好奇心が恐怖を上回り、足は勝手に前へと進む。


 すると、そこには————



「な、なんだこれ……?」



 中は途轍もなく幻想的な光景が広がっていた。


 壁一面に埋め込まれた無数の水晶が、マーブル模様の床に虹色の光を反射させている。

 天井には星座を描いたような輝く点々が浮かび、まるで夜空そのものを切り取ったかのようだ。

 ところどころには魔導書らしき古い本が整然と並び、その背表紙には古代文字が金箔で刻まれている。


 部屋の中央には、精巧に刻まれた魔法陣の中に赤い宝石が置いてあり、キラキラと輝いていた。



「綺麗……!」



 僕の後に続いて部屋に入ってきたマリーは感嘆の声を漏らす。

 マリーの表情には先ほどの恐怖の色はなく、太陽のように輝かしい笑顔になっていた。


 そして、部屋の中央にある宝石に注目する。

 子供のように両手を胸の前で握りしめ、目を輝かせながら宝石に近づいていった。



「こ、これかも! 王宮のどこかにある宝石って!」



 興奮した様子で指を差す。

 彼女の瞳には宝石の輝きが映り込み、顔全体が赤く照らされていた。



「これってルビーかな? 魔力とかって宿っているかしら……?」


「……確かにこの宝石には魔力が宿っているみたいですね」


「ホントに!? じゃあこれをレックスさんにプレゼントすれば————」



 そこまで言って、マリーはハッと口を押さえる。



「べ、別に変な意味で渡すわけじゃないからね!? 確かにリゼッタはルビーの意味には『純愛』とか『情熱の愛』みたいな意味あるとか言ってたけどそんなんじゃ————」


「————これ、よく見たらルビーじゃないですよ」


「え?」



 僕はその宝石をじっと見つめてそう結論づける。

 光の当たり方、内部の結晶構造、色の濃淡など、細部まで注意深く見極め、そして確信に満ちた声で告げた。



「レッドアンバー、めちゃくちゃ希少な宝石ですよ……!」


「な、なんでそんなこと分かるのよ」


「僕の故郷が鉱石の産出地だったので、石には詳しいんですよ。でもレッドアンバーなんて初めて見ました」



 僕は懐かしさと誇りを混ぜた表情で宝石を見つめる。

 幼い頃に父から教わった鉱物の知識がたまたま役に立った。



「ただ————確かに魔力はありますが、アンバーは戦闘向きの魔石じゃないですね。どちらかというと、何かを封じめたりするのに使用したりしますよ」


「ええ? じゃあ意味ないじゃん〜〜」



 マリーは肩を落とす。

 まるで風船から空気が抜けたように、落ち込んでいた。


 戦闘に使えそうな魔石を探していたのだろうか。



「————じゃあ、これ、あんたにあげるわ」



 マリーはそう言いながら、その宝石を僕に渡す。



「え? そんな勝手にいいんですか?」


「こんな不気味なところにあった宝石なんて、誰も欲しがらないわよ」



 少しだけ頬を赤らめて、僕にそう言う。

 彼女の目は宝石ではなく、僕の顔をじっと見つめていた。



「な、なんか、あんたにあげたくなったのよ。つべこべ言わずにもらっときなさい……!」



 目を逸らしながらマリーは僕に宝石を手渡す。

 照れ隠しの強気な態度だったが、僕はその仕草に、なんだか心が温かくなった。



 窓から漏れている月明かりが、宝石と僕達を幻想的に照らしていた。






「大丈夫でしたか? お嬢様————結構時間がかかってましたが……」



 図書館の入り口で待っていたテレシーが駆け寄ってくる。

 全然戻ってこないから、何かあったのかとちょっと心配したみたいだった。



「ま、まさかとは思いますが……赤い化け物はいたのですか?」



 二人は顔を見合わせる。

 一瞬の間があり、二人だけの秘密を共有するような目配せが交わされた。


 そして、マリーはニヤリと笑みを浮かべ、テレシーに耳打ちする。



「ええ、()()()わよ」


「え? まじで?」



 驚くテレシーを横目にマリーはまた、僕の方を見て笑うのだった。


 優しく穏やかな笑顔。

 月明かりに照らされた彼女の横顔は、まるで絵画のように美しく輝いていた。



 全く……


 人格を引き出す作戦だったのに————これじゃあ、作戦失敗じゃないか。



 心の中でそう思ったが、マリーの笑顔に釣られて、僕も自然と笑顔になっていた。



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

もしよければ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


ブックマークもお願いします!



あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ