第25話 人格を変えたければ、肝試しすればいいじゃない
結局、街の宝石店に行っても、目当てのものは手に入れられなかった。
異世界の宝石全てに魔力が込められているというわけではないらしい。
勇者レックスは冒険者だ。
あの性格からして、ただの宝石を贈ったとしても喜んでくれるとは限らない。
より実用的なものでなければダメだ。
こうなったら————リゼッタの情報を信じて、この王宮に隠されていると言われている秘宝を探すしかない。
どこを探すといいだろう。
いくら自分の育った王宮とは言え、私では把握しきれていない場所がいくつもある。
こういう時は————私のメイド、テレシーに頼るのが一番だ。
*
演劇を見せて、感情を引き出しても、マリーの性格は変わらなかった。
最後がハッピーエンドだったからよくなかったか?
それとも、作り話によって引き出された、偽りの感情だったからだろうか。
いや、そもそも————トリガーは悲しみではなかったのかもしれない。
いずれにしろ、アプローチを変えてみる必要があることは確かだ。
別のアプローチ————別の感情を試してみる必要があった。
マリーがあの時、感じていた感情。
冒険者に囲まれ、怯えていた時の感情。
すなわち————恐怖だ。
人格が変わったあの時、マリーは恐怖を感じていたことは確かだ。
それを引き出しやれば、今度こそあの人に会えるかもしれない。
だが、どのようにすれば————
ここは、彼女をよく知っている人物————マリーのメイドさんに相談しよう。
*
「————というわけで、第一回、お宝を目指せ、アンドレアス王国納涼大会〜〜」
ドンドンパフパフ
テレシーは自らの口で効果音を鳴らす。
「いや、なにこれ」
いきなりどうしたのテレシー?
こんな夜遅くに……
時計の針は深夜零時を指そうとしていた。
王城内の松明や燭台の灯りは既に全て消され、闇が支配する静寂の時間帯だ。
テレシーが掲げる小さな真鍮のランプだけが、私達の周囲を柔らかな光で照らしている。
その揺らめく灯りが、廊下の壁に歪んだ影を映し出していた。
「マリナス様おっしゃってたじゃないですか。王宮で探し物したいって」
「いやだからって、こんな真夜中にやんなくてもいいでしょ!?」
見つけられるものも見つけられないわよ。
私はテレシーに全力で抗議する。
「まあまあ……夜なら人目を憚らなくてすみますし————」
「……なんであんたもここにいんのよ」
「い、いや……それは……」
もう一つ不可解なことは、なぜかクロも一緒にいることだ。
テレシーが呼んだのだろうか。
でも、王宮のことを何にも知らない部外者を読んだところで役に立たないでしょ。
クロもエヘエヘと、不審に笑って何かを誤魔化そうとしてるし……
「————まあいいわ。早く目的を果たしましょう」
様々な疑問が渦巻いていたが、色々と考えるのが面倒になってきた。
私は諦めて、当初の目的へと話を引き戻した。
「それで? 私が探している宝石にあてはあるの? テレシー」
「はい————お二人には王城の裏手、大図書館に行ってきてもらいます」
テレシーはそう言いながら、長い指を伸ばして暗闇の中へと指し示した。
窓から見える夜の大図書館は、満月の光に照らされて不気味な姿を浮かび上がらせていた。
巨大な石造りの建物は、昼間の荘厳さとはうって変わり、今は月影に浮かぶ異形の怪物のようにも見える。
屋根の尖塔が夜空に向かって突き刺さり、黒い影を落としていた。
「あの図書館のどこかに、魔術の実験に使用されていた部屋があると噂に聞いています。そこに、強力な魔力が込められた宝石————言わば、魔石があるとも」
なるほど。
異世界の図書館らしい、それっぽい噂だ。
あの図書館の中で、魔術の実験に使われていそうな部屋を探せばいいだけね。
なーんだ。
納涼大会〜〜とか言ってたわりに、大したことなさそうじゃん。
怖いことなんて何も————
「お嬢様————実はこの噂には続きがあるのですよ……」
突如、テレシーの声色が変わる。
彼女は私に近づき、蝋燭の炎が消えそうになるほど小さく囁くように語り始めた。
私の背筋がブルっと震えた。
「その部屋は魔術の実験をしていたこともあり、この世ならざるものを呼び寄せるようです。もし例の部屋を不用意に開けてしまった場合、そこには血塗られた化物が————」
「ぎゃあああああっ!!」
こわいこわいこわい!
ちゃんとホラーじゃん。
しかもちゃんと洋ホラーじゃん。
実を言えば、暗いところとホラーはとんでもなく苦手なのだ。
前世で押し入れに閉じ込められたことがあって、それからトラウマなのだ。
それにここは異世界。
現実では、お化けなんてな〜いさ、とか言ってたけど、魔法だのモンスターが存在するこの世界なら全然いてもおかしくない。
むしろ、存在する方が自然まである。
「————いい感じに怖がってますね……」
「はぁ? 何あんたは私の顔見て喜んでんのよ! ぶっ飛ばすわよ!?」
「ひい! すみません!」
クロの不審な呟きに、私は怒りを爆発させた。
こいつは何を考えているんだ。
まるで、怖がっている私を観察しようとしているみたいな————
「ではでは、恐怖の大図書館へ行ってらっしゃーい」
「ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が————」
「ほらほらマリー、行きますよ!」
抵抗する間もなく、私はクロに手首を掴まれ、真夜中の図書館へと半ば強引に連れ出された。
出ないよね?
本当にお化けなんて————出ないよね?
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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