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第19話 ドラゴンを倒したければ、ドラゴンを倒せばいいじゃない

「おいおい……さっきのは何だ?」



 ラウムがレックスに話しかける。

 その目には疑念と不安が混ざり合っていた。



「何がだ?」


「何がだじゃねえよ。王国の兵士になるとか何とかって————いくらなんでも俺はどうかと思うぜ?」



 レックスは腕を組み、冷静な表情を崩さない。



「————別に、拠点がこの王国になるだけだ。それ以外は今までと変わらん————多分」


「はあ……そんなもんかね」



 勇者が王国の傘下に入ったというのが知れ渡れば、この国には手出ししづらくなる。

 あの王様もそれだけで満足だろう、と。


 自分の名前が政治的な駒として絶大な価値を持っていることを、レックスは十分に理解していた。



「まあ、本当に王国の傘下に入るかどうかは、あのお姫様————マリーがちゃんと使い物になれば、の話だがな」


「ううむ……それがなレックスよ」



 ラウムが低い声で唸る。


 彼の太い指が髭をくるくると撫でる癖が出ていた。

 心配事があるときに必ず現れる仕草だった。



「マリーは闘技大会の決勝のことを何にも覚えてねえみたいなんだ。だから、あの力をあてにしてたって駄目だぜ」



 ラウムの声には明らかな失望が滲んでいた。

 彼の広い肩が力なく落ちる。


 ラウムとしても、あの力が何なのか知りたいところではあるが、当人が覚えていないのであればどうしようもない。

 未知の力の謎は深まるばかりだった。



「————どうかな。私が何の勝算もなしに、あの二人とも仲間に引き入れたとは思わないことだ」


「二人とも……? まさかクロが?」



 ラウムは驚きに目を丸くしながら、顎髭をさする。



 あの力にトリガーがあるならば————


 なにか仕掛けがあるならば————



 あの力を、自由にコントロールできるならば—————


 それは、グランドクエスト達成を目指すラウム達にとって、大きなプラスになりうる。



 ラウムはレックスの隣に、あの戦士が立っている姿を想像した。

 漆黒の装備に身を包み、圧倒的な拳を振るう姿。


 それは確かに心強い味方となるだろう。



 レックスは皆までは言わず、ラウムを置いて優雅に去っていった。




 *




 広大な冒険者修練場。


 石造りの壁に囲まれた空間には、幾多の戦士たちが汗を流した痕跡が残っていた。

 空気は緊張感で満ち、風もピタリと止まったかのようだった。



 その中で、レックスが私とクロに向かって、口を開く。



「二人にはドラゴンを討伐してもらう」



 レックスの言葉は重い石のように場に落ちた。

 一瞬の沈黙の後、私の声が上ずる。



「は、はい?」



 ドラゴンって、ドラゴン?


 7つ玉を集めると出てくるやつ?



「ふ、二人だけでですか!? い、いくら何でも————」



 これに関しては、さすがのクロも首を振って拒否している。

 流石に冒険者にとっても、ドラゴン倒しは相当の難題のようだ。


 ゲームとかでもドラゴンとかって強キャラだったでしょ。

 いくら試練とか言って、無理難題を押し付けられちゃ困りますよ〜〜


 私が心の中で肩を竦めていると、レックスが首を振る。



「本物のドラゴンじゃない。ニカチカに召喚させる使い魔————ドラゴンに似た紛い物だ」



 すると、隣でニカとチカはVサインをしていた。

 流石に本物のドラゴンではないらしいが、一体どういうことなのだろう。



「我々がこれから挑むグランドクエスト————それは『エンシェントドラゴン』の討伐だ。今回の試練は、それを見据えたものになる」



 すなわち、この偽ドラゴンすら倒せないのなら話にならない————というわけだ。



 レックスは威圧的に、そう締め括った。

 ドラゴンを倒すために、ドラゴンを倒す。


 言わば、本番の前の前哨戦ってことか。


 それが私達が勇者の仲間となるために課せられた試練ということだ。



「ニカチカ〜〜、試しに出してみたら?」



 レオナが興奮と期待が混ざり合った声で提案する。


 そして、ニカとチカ————二人が頷いた。

 二人の目が不気味な光を放っている。



「御意————」


「お披露目タイム————」



 すると、彼女達は小さい手で体の大きさはある大杖を振るう。

 双子の声が重なり合い、奇妙な共鳴を生み出した。


 杖の先端に埋め込まれた宝石が鮮やかな紫色の光を放ち始め、空気が震え、地面が揺れる。

 魔力の渦が修練場の中央に集中していく。


 魔法陣が床に浮かび上がり、その複雑な幾何学模様が眩い光を放った。

 空間がねじれ、現実の壁が薄くなる。


 この世界との境界が一時的に崩れ、何かが向こう側から這い出してくる————



『ギャオオオオオオッ!!』



 轟音と共に巨大な影が現れた。


 赤銅色の鱗に覆われた体躯は、太陽の光を受けて不気味に輝いている。


 戦車のように分厚い巨躯、鋭い爪が床を引っ掻く音が耳に突き刺さる。

 その口からは熱い息が漏れ、鋭い牙が不規則に並んでいた。


 三メートルを優に超える大きさの生物は、まさしくドラゴンと呼ぶにふさわしい姿だった。



 ええええ……


 無理ぃ…………



 紛い物だの偽ドラゴンだの言ってたけどちゃんとモンスターじゃん。

 バケモンじゃん。


 こんなのに敵うわけないよ……



「————これに勝てれば、僕達を認めてくださるんですよね?」



 クロは挑戦的な目をレックスの方に向ける。


 いや、敵うわけ……ないよね?


 ちょっとクロさん?

 何ちょっとやる気になってんの?


 その瞳にはもはや恐れではなく、闘志の炎が宿っていた。

 彼の腰に吊るされた剣が、戦いを求めているかのように、わずかに震えている。



「レックスさん……今、僕の力を証明して見せます。こいつと————」


「駄目だ」



 にべもなく、速攻でNoが入った。



「な、何でですか!?」



 クロは必死な顔で食い下がろうとする。

 さっきまでずっと大人しかっただけに、一層何かに焦っているかのように見えた。


 そもそも、今日はクロの様子がずっとおかしかったような————



「僕は今の時点でも十分戦えます! あなたに追いつきたくて、必死に鍛錬してここまで来たんです————お願いです、僕を見てください!!」



 クロは深く礼をし、レックスに懇願した。

 ここに至るまでに、溜めに溜めてきた感情を吐き出したかのようだ。



 その声音に、私の胸は少しだけキュッとなった。


 そういえば昨日もこんな感情になった。

 クロを見ているとよく起こる、名も無き感情だ。



 憧れの人の前で、力を示せるチャンスなのに。

 認められるチャンスなのに————



 クロの懇願は、レックスには届かなかった。



「今日、お前の実力を測ることはしない————今のお前では、力不足だからだ」



 レックスは非情にもそう言い切り、クロのやる気を切り捨てた。

 その言葉は冷たい刃物のように鋭く、容赦なかった。


 クロは分かりやすく落ち込む。



「それに、対モンスター戦はバディで戦うことが何よりも大事だ。クロ————お前のバディを見失うな」



 そう言って、レックスは私の方を見やる。

 バディって、つまり————私のこと?


 レックスはクロと私の二人で、ドラゴンに立ち向かうことを試練の前提条件としてきた。

 私も、あのドラゴンに立ち向かえと。


 ————マジで言ってる?



「期間は2週間やる。それまでに鍛錬を積んで、このドラゴンを倒せるようになってもらう————話は以上だ」



 こうして、私達はとんでもない課題を言い渡され、今日は解散となった。


 空には早くも夕闇が迫り、修練場には長い影が伸びていた。

 果たして私達は、あの恐ろしいドラゴンに立ち向かう力を身につけることができるのだろうか。



 クロと二人、互いに力を合わせて————


 その不安と期待が入り混じった感情を胸に、私は帰路についた。

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