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第18話 勇者の仲間になるなら、まずは自己紹介すればいいじゃない

「これは一体どういう事なのかしらぁ……?」


「ちょちょちょちょ! いきなり殴らないで!」



 玉座の間から出たばかりの薄暗い廊下で、私は怒りに震える手をクロに向けた。

 大理石の床に落ちる陽光が、私の影を長く引き伸ばしている。

 胸の内に渦巻く怒りのぶつけどころを必死に探し、蓄積された不満が今にも爆発しそうだった。



「なんで私が冒険者にならないといけないの!? しかも勇者の仲間になるなんて!」



 こんなにか弱い乙女が冒険者などつとまるはずもない。

 この細い腕で剣を振るい、モンスターと戦うなど想像すらできない。


 勇者レックスの目は本当は節穴なんじゃないのか……?



「————しょうがないですよ。だって僕達、あの闘技大会で優勝しちゃったんですから」


「え?」



 優勝?

 私達が?


 あの絶望的な状況から、クロが復活して強敵を二人とも打ち倒したというのか。

 記憶の欠片すら残っていないが、そんな奇跡が私の意識が途切れている間に起きていたのだろうか。



「————変なことに巻き込んじまって悪いなぁ、お姫さん」



 クロの後ろから、大柄な男が一歩前に出た。

 肩幅が私の3倍くらいありそう。


 この人は、最初にレックスと会った時に隣にいた人だ。



「俺はラウムだ。よろしく」


「え、ええ……はい」



 ぎこちなく差し出された手を取る。

 その掌はまるで鉄床のようにゴツゴツとして、長年の戦いで鍛え上げられた証だった。

 握手を交わした瞬間、私の華奢な手はほとんど見えなくなった。


 すると、後ろから三人の人影が大股でこちらに迫ってきた。

 廊下に響く足音が次第に大きくなる。



「すっごーい! マリーちゃんやっぱりお姫様! キラキラしてる!」


「このキューティクル————尋常ならざるもの————」


「綺麗なドレス————御伽話から来たみたい————」



 突如として、冒険者の少女が私の個人空間に飛び込んできた。

 彼女の後ろでは、子供のような背丈の魔法使いの双子が、まるで珍しい博物館の展示品でも見るかのように、私を興味深そうに観察していた。



「え? そ、そう? え、えへへ……」


「変な笑い方になってますよ」



 褒められて思わず浮かんだ微笑みを、クロにあっさりと指摘される。

 宮廷での厳格な礼儀作法に慣れた私は、素直な褒め言葉にどう反応すればいいのか分からず、顔の筋肉が勝手に動いて変な表情になってしまったのだ。


 というか、マリーちゃんって呼び方、かわいくていいな。



「私、レオナ! これからよろしくね〜」


「私はニカ————」


「私はチカ————」



 これが勇者パーティの女性陣。

 三人三様の容姿だが、皆どこか花のような輝きを持っていた。


 レオナの情熱的な太陽の花のような明るさ、双子の魔法使いの神秘的な月下美人のような雰囲気だ。



「こら! 武者丸! あんたも挨拶しなさいよ!」



 レオナが腰に両手を当てて頬を膨らませる。


 その視線の先には、廊下の隅で腕を組み、壁にもたれかかっている獣人の男がいた。

 銀色の毛並みと鋭い牙が、彼の狼のような野性味を際立たせている。



「はあ? めんどくせえな……」


「めんどくさいって何よ! これから仲間になるのよ! このバカ丸!」


「バカ丸————」


「バカ丸————」


「なんだと!? おめえら!!」



 獣人の冒険者————武者丸が地団駄を踏み、廊下全体が揺れるほどの怒りを表した。


 バカ丸っていう語感がいいな。

 口に出したくなる。


 すると、嫌々ながらも、武者丸がこちらに進み出た。

 そして————武者丸は挨拶ではなく、一つの疑問を私に投げかけた。



「おい————闘技大会の時のあの力は一体なんなんだよ?」


「え?」



 なんの話?

 私の頭上に特大のはてなマークが浮かぶ。



「そうよそうよ! あの強すぎる力なんなの!?」


「最強の力————」


「その秘密に迫る————」



 つ、強すぎる力?

 私が?


 本当に心当たりがなかった。



「え? えっと……どういうことですか?」



 私は困惑したまま聞き返すしかなかった。

 まるで皆が違う言語で話しているかのようだった。


 すると、彼らの顔から期待の色が消え、明らかに落胆したような表情に変わる。



「やっぱり記憶がないのか……」



 ラウムが深く唸る。



「確かに、あの時のマリーちゃん。全然人が違ったもんね」



 な、なになになに?

 やっぱりあの日、私は何か常軌を逸したことをしでかしたのだろうか。


 何にも思い出せないのがもどかしい。

 頭の中で記憶を探る手が、空をつかむような感覚だった。


 どれだけやばいことをしでかしたのだろう。

 もしかして、闘技場のど真ん中で裸で踊ったとか?


 強すぎる力というのは、何か別の隠語なんじゃないのか……



「あ、レックスさん……」



 緊張した空気を切り裂くように、みんなの後ろから一人の人物が現れた。

 廊下に差し込む陽光が、その姿を神々しく照らし出す。


 勇者レックスだ。



「王女マリナス————いや、ここは私もマリーで行こう」


「え、あ、はい」



 クロに許した親しみを込めた呼び方が、今や勇者レックスまで浸透してしまっていた。

 別にいいんだけどさ。



「玉座の間ではああ言ったが、私はまだお前の力を認めていない」


「はあ……そうですか」



 ここにきて、ようやく私と話が通じる人間が現れたような気がした。


 そうだよな。

 天下の勇者様が、何の取り柄もない私の力なんて認めるわけがない。

 そもそも私自身が、その「力」なるものを認識すらしていないというのに。



「このままでは背中は預けられない。だから、クロと共にとある試練を受けてもらう」



 その説明をしよう、今から冒険者修練場まで来てくれ————

 レックスはそう言い残し、重厚な足音を残してこの場を後にした。


 話がベルトコンベアに乗せられたかのように、私の意志とは無関係に事態が進んでいく。

 自分の人生の主導権は一体どこへ行ってしまったのだろうか。


 私はがっくりと肩を落とし、溜め息が自然と漏れた。



 そして、横に立つクロに視線を移した。


 そういえば————



「————てか、あんたも勇者パーティに入れたのね」


「う、うん」



 そっか。

 ずっと夢見てきたって言ってたもんね。


 私の状況は散々だけれど、少なくともクロの長年の目標の達成に近づけたことは、この混乱の中での唯一の救いだった。


 私はクロの胸元をコツンと軽く殴る。



「良かったじゃん。夢に一歩近づけたね」


「……」



 私はそう言って、レックスの後に続いた。




 *




 きっと違う。


 クロは心の中で、マリナスの言葉を否定した。



 僕が勇者の仲間に入れたのは、マリーのおかげだ。


 マリーの秘められた力のおかげだ。



 だから、僕がやるべきことは————

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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