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第170話 一歩踏み出す前に、振り返ってもいいじゃない

「本当にいいの?」


「……」



 出発の直前、レオナの問いに僕は沈黙する。

 透き通るような快晴が、地平線の奥まで続いている。


 僕達は旅の支度を整えて、もう街の外れまで来ていた。


 勇者一行は、最後のグランドクエスト攻略のため、大陸中央へと旅立つ。

 もうこの国とも、お別れの時間になっていた。



「クロ————出発は明日でもいいんだぞ」



 レックスも、僕の様子を察して声をかけてくれた。


 ここから一歩前に踏み出せば、この国を出る。

 そうすれば、一生この国には戻ってこないかもしれない。


 ————マリーに会うことも、もうないかもしれない。



「なんなら明後日でも————」


「それ、レックスがまだ出発したくないだけなんじゃ……」



 急にモジモジしだしたレックスに、ラウムが指摘する。

 しょぼんとしてしまった彼女も、ここを離れるのが名残惜しいみたいだった。


 他の皆も、きっと同じ思いだろう。



「かったりい、ここで立ち止まってても何にもならねえぞ。早く行こうぜ」


「うるさい、黙っててよバカ丸」


「「バカ丸」」


「お前ら……」



 マイペースな武者丸に、総ツッコミが入る。


 だが、武者丸の言うことは、その通りだと思った。



 ここから長い旅になる。

 たとえ明日旅立とうと、明後日旅立とうと、そこまで差異はないのかもしれない。


 でも————それじゃ、先延ばしにしているだけだ。



「いいんです」



 だから、僕は精一杯の笑顔を浮かべた。



「僕達の身分じゃ、王宮に入れないじゃないですか」



 もう、王族に会えるような身分ではない。

 会いに行ったら、マリーに迷惑がかかってしまう。


 それだけは、避けなければならなかった。



「クロがいいなら、いいんだけど……」



 レックスは渋い顔を浮かべつつも、荷物を背負い、身を翻した。


 ここから、僕達の新しい旅が始まるんだ。

 憧れの勇者の一員としての、新しい人生。


 ずっと、僕が求めていた、冒険者の道だ。



「じゃあ————行くぞ!」



 レックスが気合を入れ、前に歩き出す。

 僕もそれに合わせ、一歩前へと踏み出すのだった。



 ————結局、この思いを誰かに打ち明けることはできなかったな。


 胸に閉じ込めることになった、この思い。



 伝えたら、どうなっていたのだろうか。


 自分に正直に、マリーに————



 好きだって言っていたら、どうなっただろうか。



 いつもの明るい感じで、軽くあしらわれていただろうか。


 身分が違うからと、冷たく断られていただろうか。



 それとも————



 僕は、王国の方を振り返る。



 長いようで、短い数ヶ月間。


 マリーと過ごした時間は一生忘れない。



 でも————彼女との最後の記憶を、うまく思い出せない。


 そんなんで、いいのかな。



 僕は、空を見上げた。

 隅々まで透き通った、青い空。



 神様。


 もし、願いが叶うなら————



 もう一度、マリーに会いたい。



 その時だった。




「————クロ!!」




 耳馴染みの————今一番聞きたいと思っていた声が後ろで響いた。


 振り返ると、そこにいたのはマリー。



 いつも君は————


 突然現れるんだね。




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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