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第16話 記憶がないなら、無かったことにすればいいじゃない

 暗闇の中で揺れる意識。

 虚無が渦巻く心の海で、彼女の声は儚く響いた。



 私って生きてていいのかな。


 頑張っても、意味ないのかな。



「大丈夫。努力は必ず報われるよ————」



 温かな声が闇を貫き、少女の心に一筋の光を投げかける。

 震える唇から言葉が零れ落ちる。



 努力が報われる————本当……?


 信じてもいいんだよね……?



 じゃあ、もうちょっと頑張ってみようかな————



 希望の光が灯るも束の間、少女を取り巻く渦は徐々に黒く染まっていく。

 漆黒の闇が全てを飲み込んでいく。


 絶望の色が彼女の世界を支配していく————



 ほら……やっぱり駄目じゃん。



 頑張っても意味ないじゃん。


 努力しても意味ないじゃん。



 私には、努力する資格も、才能も始めからなかったんだ————



 少女の声は震え、怒りと悲しみが入り混じる。

 光を与えてくれた存在への裏切りの感情が渦巻く。



 嘘つき……



 嘘つき……お兄ちゃん————





「……はっ!」



 汗ばんだ額と荒い息遣いで、私は目を見開いた。

 夢と現実の境界線が曖昧なまま、彼女の意識は現世へと引き戻される。


 窓から差し込む朝の光が部屋全体を柔らかく照らしている。

 部屋の外からは小鳥たちの澄んだ歌声が聞こえ、新しい一日の始まりを告げていた。

 カーテンが風に揺れ、清々しい朝の空気が室内を満たしていく。



 今のは、夢だったのだろうか。



 心臓の鼓動が次第に落ち着いていくのを感じながら、マリナスは額の汗を拭った。

 自問自答する彼女の頭の中で、記憶の断片が不規則に浮かんでは消えていく。



「————あれ?」



 どこまでが夢でどこから現実?


 私、いつ部屋に戻ってきたんだっけ?

 確か闘技大会に出て、決勝に行って、それから————



 や、やばい。


 それから全く思い出せない。



 頭を抱えながら、必死に思い出そうとする。

 記憶の糸をたぐり寄せようとするほど、霧がかかったように曖昧だ。


 もしかしたら闘技大会に参加したこと自体が夢だったのかもしれない————そう考える方が自然なほど、記憶の欠落は大きかった。



 さらに気になるのは、夢の中で呼びかけた「お兄ちゃん」という言葉だった。



 前世でも私は一人っ子だった。

 シングルマザーで貧乏だったし。


 この世界でも、私は第一王女で兄上なるものはいない。



 お兄ちゃんって————誰のことだろう。



「起きましたか————おはようございます。マリナス様」



 落ち着いた声とともに、優雅な足取りで入ってきたのは彼女の従者、テレシーだった。

 いつものように完璧に整えられた髪型と清潔な制服姿であった。



「ああ……おはようテレシー」


「昨日はいつ王城に戻られたのですか?」


「え? 昨日は————」



 言葉を続けようとして、突然の気づきに息を飲む。


 あ、まずい……


 マリナスは昨夜、外出などしていないことになっているはずだった。

 少なくともテレシーには、闘技場などには行かず、この部屋に引き篭もっていると伝えていたのだ。



「い、いや? 私は外出なんてしてないわよ? 昨日はずっとこの部屋にいたもの」



 慌てて取り繕うマリナスに、テレシーは疑わしげな視線を向ける。



「そうですか……」



 う、疑われている……

 早くこの厳しいメイドから逃げなければ————



「それじゃあ……昨日は外に出れなかったし、朝の散歩でも行ってこようかしら」



 部屋を出ようとするマリナスに、テレシーは意味深な情報を告げる。



「そういえば今朝、王城に勇者レックスとその御一行が訪ねてきています。先日街の路地裏で出会った駆け出しの冒険者も一緒に」


「え!? クロが来ているの!? もしかして昨日————」


「昨日、なんですか?」



 テレシーの追及に、マリナスは完全に動揺を隠せなくなった。



「あ、わ————いやその……」



 言い訳を考えようとするが、頭が真っ白になっている。

 口ごもり、視線が泳ぐマリナスを見て、テレシーは溜め息をついた。



「……いらっしゃった勇者様のことで、国王様がお呼びです。支度が済みましたら、玉座の間に」


「お父様が……?」



 父である国王に呼ばれるという事実に、マリナスの心臓は激しく鼓動した。


 え————まさか昨日のことでお父様からも怒られるの?

 そ、そんな〜〜


 恐怖と不安で表情を強張らせながら、マリナスは急いで支度を整えた。

 王族としての威厳を取り戻そうと背筋を伸ばし、震える足取りで玉座の間へと歩みを進める。


 何が待ち受けているのか、心の準備をしながら————



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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