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第168話 パンがなくても、頑張ってればいいじゃない

「マリナス————様……!」


「やめなさい、こんなところではしたない」



 ギョッとした顔をする令嬢に、ピシャリと言ってのける。


 令嬢が手を振り払おうとしても、びくともしない。

 私の指は鋼のように彼女の手首を掴んだまま、微動だにしなかった。


 冒険者でもある私と、ただ安定した生活を送り続ける貴族の娘とでは、鍛え方が違うのだ。


 やがて、私は令嬢の手を離し、使用人の元へと歩み寄る。

 靴音だけが、静まり返った空間に響いた。



「このパンは国民が汗水垂らして作った小麦で作られているもの。見窄らしくなどありません」



 私はそう言いながら、パンを拾い上げる。

 ふっくらと焼き立てで、いい香りがする。



「そんな、床に落ちたものを……汚らしいでは————」


「この廊下も、使用人が毎朝一生懸命磨き、掃除をして綺麗にしています。埃一つない」



 令嬢の言葉を遮り、私は話を続ける。

 彼女の目が見開かれ、反論の言葉を探すように口がパクパクと動いていた。



「むしろ、この場を汚しているのはあなた達だ」



 ギロリと私は令嬢を睨みつけた。

 彼女の体が、びくりと震える。


 令嬢だけではない。

 この場にいる、貴族達全員に向けた警告である。



「民を大事にしない人間はここにはいりません————文句があるなら、いつでも私にかかってきてください」



 いつでもお相手いたしましょう————


 私は微笑を浮かべて、腕をたくし上げる。

 白いドレスの袖から覗く腕は、貴族らしからぬ引き締まった筋肉の線を描いていた。



「ひいっ————!!」



 蜘蛛の子を散らすように、皆逃げていった。

 あっという間に廊下から人影が消える。



 まったく————


 溜め息を吐いて、私は身を翻した。



「ご苦労様」



 去り際に、使用人の肩を叩いていった。

 使用人は口を開けながら、ぼうっと私の方を見つめていた。



 この王宮も変わる時なのだ。

 ずっとあんな雰囲気じゃ、前に進まない。


 人を身分で判断する時代は終わりにするべきなのだ。

 これ以上、あの宮廷魔法士のような存在を作ってはいけない。

 そうしなければ、また歪みが生まれて、この国は自分で自分の首を絞めることになる。



 努力している人を、私が見てあげないと————



「————課題は山積みね」



 問題の多さに頭を悩ませながら、廊下を歩く。

 煌びやかな王宮の廊下を進んでいると、そこには私の最も信頼できる使用人がいた。



「マリナス様」


「テレシー」



 いつもの凛とした立ち姿が、今日は少し違って見えた。

 思い詰めたような顔をしている。


 きっと————要件はあれだろう。



「よろしいのですか?」



 ほら、やっぱり。

 私は思わず、目を逸らしてしまった。


 テレシーはそんな私に構わず、私に現実を突きつける。




「クロ様が————勇者一行が、出発されますよ」




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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