第165話 勇者が背中を押してくれたなら、二人でやるしかないじゃない
『ガアアアアオオオオオオオオオ————!!』
「俺にまかせろおおおおおおおおっ!!!」
咆哮が戦場を震わせる中、それを打ち消すようにラウムの雄叫びが轟いた。
山のような巨躯を持つ男が、地響きを立てながら最前線へと躍り出る。
ドラゴンの顎が天を仰ぎ、次の瞬間、鉄槌のような勢いで落下してくる。
その刹那、ラウムの両腕が鋼鉄の盾を構え、激突を真正面から受け止めた。
「ふんぬううううううううっ!!」
衝撃波が四方に広がり、足元の地面が蜘蛛の巣状に亀裂を走らせ、陥没する。
周囲の岩が粉々に砕け散るほどの衝撃にも関わらず、ラウムの足は微塵も動かない。
それは巨大な壁のように、誰よりも大きい背中。
ラウムのとてつもない防御により、ドラゴンの足が完全に止まった。
「行けええええ!! お前ら!!」
ラウムの声に呼応して、背中を飛び上がる、三つの影。
風を切る音と共に、三人の身体が弧を描いて跳躍していく。
「はあああっ!!」
「ふんっ!!」
私————マリーとクロ、そして勇者レックス。
三人の攻撃隊がドラゴンの頭部めがけて突進していた。
『グウウウウウウウルルルルルルッッ!!』
しかし、アンデッド・エンシェントドラゴンは侵入者を拒絶するように威嚇の唸りを上げる。
二つの頭部が蛇のようにしなり、鞭打つような動きで横薙ぎに襲いかかってきた。
絶対に懐へは入れさせまいという、執念の攻撃————
「マリー、お前を信じるぞ!」
その瞬間、レックスが神速で剣を天高く掲げる。
聖なる光が刃身を包み込み、眩い輝きを放ち始めた。
その光芒は竜の黒い鱗を貫くかのように神々しく煌めく————
グランドクエストでも目にした————勇者の切り札————
『セイバー・アポカリプス』
聖剣が放つ神聖な光が、夜の闇を晴らす。
神の如き裁きの光は、アンデッドすらも浄化しようと、その身を焦がした。
『ギャアアアアアアアアアアアアア————』
一度きり、たった一度だけしか使えない、勇者が魂を込めた渾身の奥義。
その技を惜しみなく放つということは、後のすべてを私に託すという、揺るぎない決意の証明に他ならなかった。
「行けっ!!」
レックスの手のひらが、私達の背中を力強く押し出す。
推進力を得た私とクロの身体が、アンデッド・エンシェントドラゴンの眼窩へと吸い込まれていく。
仲間たちの全ての想い————そして、全国民達の命運を背負って————
「マリー! 一緒に行くよ!」
「うん!!」
空中で二人の手が固く結ばれ、その中心に封印の魔石を握りしめる。
クロの手のひらから伝わる体温が、私の指を通して心臓まで届いてくる。
その温もりを感じた瞬間、恐怖も不安も、すべての震えが消え去った。
何よりも信頼できて、誰よりも頼りになって————
大好きな彼がそばにいるから、大丈夫。
「「でやあああああああああああああっ!!!」」
魂の底から絞り出した裂帛の気合いを迸らせ、握りしめた魔石をドラゴンの頭部へと叩きつけた。
魔力が手のひらに集まる。
封印の魔石が太陽のように輝き始め、竜の核を呑み込もうと、その光芒を際限なく増していく。
凄まじい轟音とともに、黒い瘴気が巨大な渦に吸い込まれるように収束していく————
叫びと同時に、世界が白く弾けた。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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