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第15話 波動を飛ばれたら、昇竜で落とせばいいじゃない

「————ようやく自由に体を動かせるようになったな。体が鈍っちまうぜ」



 マリナス?は首を鳴らしながら、そう言う。



 え? 


 いや誰?


 マリー……だよね?



 見た目はさっきまでと変わらず、ドレス姿のふわふわな女の子。


 自称王女様の比較的可愛らしい口調と態度の女の子————だったよね?



 それが————急にどうして刺々しい雰囲気に……?



 僕は目を丸くして、マリナス?の姿を凝視する。



「なんだこりゃあ————力が(みなぎ)ってくる」



 マリナス?は何か手応えを確認するように、両手をグーパーと広げる。

 すると、正面の残った冒険者の男に呼びかけた。



「おい、そこの」


「は? え?」



 状況がわからず呆けている対戦相手。

 鋭い目つき、ドスの効いた声で、マリナス?は男に告げた。



「今からお前は実験台だ————避けれたら避けろ」



 それだけを伝え、マリナス?は両手を打ち鳴らす。

 そして、両手を握り締め、力を込めた。



 その瞬間————


 紫色の、禍々しいオーラが吹き荒れる。



「————これって!?」


「魔力!?」



 勇者一行のメンバーがその様子に釘付けになる。

 今まで、なんの力もないと思っていた少女から、いきなり尋常じゃないほど力の波動が発現したのだ。


 会場が騒然となった。



「違う————これは、息吹だ……!」



 勇者レックスがそう呟きながら、マリナス?を凝視する。


 白磁のような肌に反射する紫の光が、彼女の表情を不気味に照らし出す。

 温和だった瞳が今や鋭利な刃のように光り、その視線だけで相手を射抜きそうな威圧感を放っていた。


 かつての可憐な佇まいは完全に消え去り、代わりに現れたのは冷徹な戦闘の化身だった。


 マリナス?は溢れ出す魔力を両手に集め、禍々しい波動の球体を生成する。

 指先から漏れる紫の光が渦を巻き、空気を震わせながら凝縮されていく。


 そして、全身に渦巻く力を一点に集中させ、渾身の力を込めて正面に放つ。



「はああああああっ!!」



 闘技場全体が震えるほどの衝撃と爆音と共に、マリナス?の魔力弾が解き放たれた。


 空気を切り裂く轟音が耳膜を震わせ、放たれた球体は紫色の尾を引きながら砂塵を巻き上げ、地面を抉りながら対戦相手の冒険者へと突き進んでいく。


 熱風が周囲を焦がし、観客たちの髪を激しく揺らした。



「や、やばすぎる————」



 その冒険者の口から必死な声が漏れ、生存本能が体を支配した。

 ほぼ反射的に上へと飛び上がった彼の顔には、死の恐怖が刻まれていた。


 冒険者が避けた瞬間、魔力弾は後ろの壁面に激突する。


 そして、大爆発を引き起こした。



「ぐわああああっ!!」


「ぎゃあああああああ!!」



 その爆発は頑丈な土壁をものともせず破壊し、後ろにいた観客までも吹き飛ばした。

 紫の閃光が闘技場を包み込み、耳をつんざくような爆音が地下空間に響き渡る。


 地下闘技場がさらに震え、壁面の亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていく。

 爆発の余波は周囲の空気を掻き混ぜ、砂埃と瓦礫の雨を降らせた。



「あ、危なかった————へへっ! でもこれなら!」



 あんな必殺技を繰り出した後なら、相手は無防備なはず。


 そう考えた冒険者は回避のために飛び上がった空中から一気に攻勢に出ようとする。

 剣を引き抜き、大上段に構えた。



「カウンターだあああああ————え?」



 その時、冒険者はマリナス?と目があった。


 鋭い眼光————とてもじゃないが、一国の王女がしていい目つきではない。

 獣のような獰猛さと、王者の貫禄が混ざり合ったその眼差しは、冒険者の動きを一瞬にして凍らせた。


 そして、マリナス?は空中から攻撃しようとする冒険者の男を指差す。



「————波動昇竜だ」



 すると、マリナス?は右手を後ろに引き、そこから地面を這うように拳を振り出す。

 彼女の体が一瞬、紫の炎に包まれたように見えた。


 下から抉るように繰り出されたアッパーカットが、先程の紫のオーラを纏いながら、冒険者の方へと迫って行った。

 その軌跡は紫色の光の帯となり、空間を切り裂くような鋭さで上昇していく。



「う、うわ……やめろおおおおおっ!!」



 負けることを悟った冒険者は悲鳴を上げるが、問答無用。

 彼の恐怖に歪んだ顔が、マリナス?の冷酷な表情と対照的だった。


 マリナス?は男の顎に目掛けて、拳をねじ込む。



「————んぬおおおおおおっ!!!」



 裂帛の唸り声と共に、マリナス?は拳を振り切る。

 冒険者は白目を剥きながら、遥か上空へと吹き飛び、さながら流星のような速度で、地下闘技場の天井へと激突した。


 衝撃で頭上から土埃が降り注ぎ、天井の一部が崩れ落ちる。

 冒険者の体は無残にも天井に刺さったまま、ピクリともしなくなった。



 うら若き可憐な王女が、屈強な冒険者を2人、完全ノックアウトしてしまったのだ。


 優雅なドレスと繊細な容姿からは想像もつかない圧倒的な力を、彼女はわずか数秒で見せつけた。

 闘技場の床には彼女の足跡が刻まれ、空気は未だに魔力の残滓で震えていた。



「な、なにこれ….」


「強すぎる……何者だ? あのお姫さんは……」



 熟練の冒険者である勇者パーティのメンバーでさえ、唖然としてその王女の姿を見ることしかできない。


 会場全体が不自然な静寂に包まれていた。

 まるで時間が止まったかのように。



 やがて————



「————危ないぞ!!」



 地下闘技場の天井の亀裂が大きくなる。


 それが壁面の亀裂と繋がることで、闘技場が激しく揺らぎ始めた。

 轟音と共に天井の一部が崩れ落ち、パニックが広がる。



「く、崩れるぞおお!!」


「逃げろおおおっ!!」



 観客達は慌てふためきながら、闘技場の外へと避難していく。

 悲鳴と足音が入り混じり、先ほどまでの静寂は完全に崩れ去った。

 人々は我先にと出口へ殺到していった。



 騒然となった闘技場の中心で————僕は1人、見惚れていた。



「すごい……!」



 胸の中には言葉にならない高揚感が湧き上がる。


 マリナス?のドレスは紫の魔力の余韻で揺れ、長い髪が戦いの熱気に靡く。

 崩れゆく闘技場の中で、彼女だけが揺るぎない存在感を放っていた。


 混乱と恐怖の中、僕の心は不思議な静けさに包まれる。

 それは畏怖ではなく、純粋な憧れだった。



 屈強な冒険者2人を、その拳だけで、たった2発で倒してしまった。



 圧倒的な力の差。


 まさに一騎当千。



 まるであの時の勇者のような————いや、それ以上の衝撃を僕は感じていた。



 こんな強い人がいるなんて————


 こんなにかっこいい人がいるなんて————



 なんて、美しいのだろう。



 僕は、その王女の力強い後ろ姿に、ずっと目を奪われていた————



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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