第151話 どん底に落とされたなら、また這い上がればいいじゃない
「どうして、こうなった……!?」
ドレスの裾を持ちながら、ヴィオレッタは路地裏を駆ける。
華やかな王宮の光から一転、薄汚れた石畳が彼女の足元を冷たく迎えた。
シルクの光沢を誇っていた靴は、無残にも革が裂け、金の装飾が剥がれ落ちている。
王宮の舞踏会で羨望の眼差しを集めた豪奢なドレスも、今や汚水と泥にまみれ、本来の美しい紫色を見る影もない。
湿った石壁に囲まれた陰鬱な路地を、負け犬のように走っていた。
「どうして私が……こんな目に遭わなければならない……!?」
これが権力に溺れた者の末路なのか。
レーヴェンシュタイン家の力を使って、派閥を作って————
少しでも上に行こうとしていたことは、間違いだったのか。
————到底、認められない。
なにがなんでも————
絶対に、もう一度這い上がる。
どんな手を使っても————
沸々と復讐の炎をたぎらせながら、ふらふらと歩く。
瞳の奥には消えることのない炎が宿っていた。
ほとぼりが覚めるまで、しばらくは身を隠すことになるかもしれないが、いつかは必ず————
とりあえずは、レーヴェンシュタイン本家に戻ろう————
そう決めたヴィオレッタは路地から出た。
しかし、表通りに足を踏み出した瞬間、眼前に広がったのは想像を絶する光景だった。
街中に、モンスターが出現していた。
血相を変えて四方八方に散らばる人々の悲鳴が夜空に響き渡る。
石造りの建物は無残に崩れ落ち、炎と煙が立ち込める中を異形の怪物たちが跋扈していた。
「な、なんなのよこれ……」
誰がどう見ても、深刻な状況なのは明らかだった。
権力闘争の世界しか知らなかった彼女にとって、この異常事態は理解の範疇を超えている。
こんなところにいては危険だ。
復讐を果たすためには、何より先に命を繋がなければならない。
生き延びてこそ、再び這い上がることができる。
だがその時————ふと脳裏にあることがよぎった。
そういえば————
リゼッタはどこ?
今日は朝から一度も姿を見ていない。
普通に考えれば、王宮で安全に過ごしているはずなのだが————
いやまさか、この混乱で————
わずかな可能性が頭をよぎった途端、不安が心を支配した。
「リゼッタ!? どこにいるの!?」
ヴィオレッタは混乱の街の中を、娘の名前を呼んで走り出す。
贅沢に慣れ親しんだ足は既に限界を迎えていたが、それでも走ることを止めない。
私は、もう落ち目かもしれない。
このまま本家に戻っても、見放されるだけかもしれない。
でもリゼッタは————
リゼッタには、まだ未来がある————
あの子が王の側室になれば、私の地位が上がる。
あの子は、まだ使える————
いや————私にはもう、あの子しかいないのだから。
瓦礫と化した街角を巡り、声を枯らして娘の名前を呼び続ける。
そして————
「リゼッタぁ!!」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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