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第14話 勝負に負けそうなら、人格を変えればいいじゃない

「ぎゃははっ! 楽しいショーの始まりだぁ!」



 視界がぼやけ、対戦相手の冒険者の声が遠くに聞こえる。

 身体は重く、全身から力が抜け落ちていく。


 意識が朦朧とする中、クロ————僕は震える指先を伸ばした。



 逃げてくれ。


 あんな素敵な女性が、獣のように荒々しい男達に襲われるなんて。

 そんな光景を見るくらいなら、目を潰してしまいたい。


 どうして僕はこんなにも弱いんだ。

 マリーを絶対守るって、その約束すら守れない。



 勇者だったら、きっとこんなことにはならないだろう。


 一騎当千。

 伝説に謳われる勇者なら、一人だけでも無数のモンスターを打ち倒すことができる。

 闇を照らす光となり、絶望の中に希望を灯す。


 そんな勇者だったら……こんなことには————



 その時だった。


 突如として、上空から強烈な風圧と共に何かが飛来する。

 闘技場の地面が砕け、砂塵が舞い上がる中、2人の冒険者の前に一つの影が立ちはだかった。



「それくらいにしておけ」



 霧のような砂塵を払いのけ、降り立ったのは————勇者だった。



「レックス……さん……」



 闘技場のど真ん中に降り立った勇者レックスは、威厳に満ちた動作で腰元の剣に手を添える。

 その姿は威風堂々としており、見るものを圧倒していた。


 会場は突然の乱入者に驚き、怒号と喧噪の嵐が巻き起こっていた。



「あちゃあ〜〜、見ていられなくなって飛んでっちゃったよ、レックス」


「しょうがないよ。これ以上は見たくないし」



「そうだな。これでクロ達は、完全に敗北だ」



 観客席から勇者一行のメンバーが口々にそう言う。

 闘技場全体に白けたムードが広がり始めた。



 そんな中、僕は一人、血と埃にまみれたフィールドの中央で絶望する。

 骨の髄まで染み渡る無力感に、心が千切れそうになる。



 そんな……

 あなただけには、助けられたくなかったのに……



 あなたに助けられてしまったら……

 追いつきたいのに、追いつけない。



 村を救ってくれた時から……何も————



「ああ? なんだおめえは」


「部外者がしゃしゃり出てきてんじゃねえよ」



 冒険者達は勇者レックスのことを知らないのか、喧嘩腰だ。

 レックスは冒険者達のことは完全に無視し、マリナスの方に話しかけた。



「王女さん、怖かっただろう。だがもう大丈夫だから、早く外に————」



「どけよ」



 突如————レックスの肩が掴まれる。

 そして、とてつもない力で引っ張られた。



「!?」



 レックスの体が浮く。

 風を切る音と共に、体が宙を舞う。


 予想外の出来事に受け身を取り損ねるが、レックスはすぐに体勢を立て直した。


 顔を上げると、闘技場の中心にいたはずのレックスが、約50メートル先の観客席の壁の方まで飛ばされていた。



「一体何が……!?」



 訳の分からないという表情のレックス。

 その場にいた全員が意味の分からない現象に唖然とし、中央に注目すると————


 そこには、腰が抜けて座り込んでいたはずのマリナスが、不気味なまでに静かに立ち尽くしていた。

 その姿勢には先ほどまでの恐怖や弱さの欠片も見当たらない。



「マリー……?」



 僕は喉の痛みを無視して声を振り絞って呼びかけるが、なんだか様子がおかしい。

 視線、立ち振る舞い、全てがなんだか、別人のそれだ。



「ああ? なんだかよく分からねえが————ショーの続きだぁ!」



 冒険者が一人、興奮に目を血走らせ、両手を広げてマリナスの方へ突進する。

 地面を踏みしめる足音が、闘技場に低く響き渡る。



 あ、危ない……!


 逃げれるようになったんなら、逃げて————



 次の瞬間————


 右拳を一閃————



 マリナスの拳が、まるで一条の光のように閃き、冒険者の顔面にクリーンヒットした。

 打撃の瞬間、空気が弾け、衝撃波が辺りを震わせる。



「ふぅぅんっ!!!」



 唸るような声をと共にマリナスが拳を振り抜く。

 まるで紙人形のように、冒険者はとてつもないスピードで、50メートル先の壁に激突した。


 轟音が闘技場を支配する。



「がはああっ!?」



 激突した衝撃で壁に亀裂が走り、冒険者の体が深くめり込む。


 ぐしゃぐしゃになった顔面から血と泡を吹き出し、冒険者は意識を失った。

 壁から滴り落ちる赤い雫が、石畳に小さな水たまりを作っていく。


 あまりに衝撃的な光景に、会場は静寂に包まれた。



 そんな中————マリナスが低い声で口火を切る。



「————ようやく自由に体を動かせるようになったな。体が鈍っちまうぜ」



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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