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第145話 脱走したなら、捕まえればいいじゃない

「————ここで何をしているのかしら……!?」



 月の明りが冷たく屋上を照らし、影が長く伸びて不気味な模様を描いている。

 静寂を破ったその声は、まるで氷の刃のように鋭く夜気を切り裂いた。


 背後にいたのは紫髪の令嬢。


 ヴィオレッタが顔を歪めてそこに立っていた。



「ヴィオレッタ……!」



 一気に警戒レベルを引き上げる。

 クロも同様に身構えているのが、横の気配で分かった。


 彼女がここにいるということは————


 私が地下牢から脱獄したことが、バレたということだ。



「悪魔が脱走したわ! この者達を捕えなさい!」



 彼女の声が夜空に響くと同時に、四方から重装備の兵士達が現れた。

 一気に包囲網を作られ、じわじわと迫られる。


 彼女の表情は、もはや憎悪を隠そうともしていなかった。



「ヴィオレッタさん……! まだ分からないんですか!?」



 クロの声には、必死の説得の意図が込められていた。

 まだ話し合いで解決できると信じている。


 私の価値を、訴えてくれていた。



「街の人達、全員がマリーのことを望んでいる……! それから目を背けて、マリーを無理やり処刑しようとしている……! あなたのやっていることは、本当にこの国のためになるのですか!?」


「うるさい!」



 しかし、ヴィオレッタは聞く耳を持たない。

 感情のままに叫んで、クロの言葉を否定した。


 そして、私に指を差す。



「その女は、この世にいちゃいけないんだ! 邪魔なんだ! 誰からも求められていない存在なんだ————」



 矢のように突き刺さる強い言葉で、私のことを否定する。

 彼女の言葉には、長年溜め込まれた憎悪が込められていた。


 皮肉なことに、彼女が投げつける罵詈雑言は、つい先ほどまで私自身が抱いていた自己否定の言葉と同じだった。


 だが、今はもう————



「だから————早く捕えなさい! 多少なりとも怪我をさせても構わないわ!」



 重い足音が石の床を叩き、兵士がこちらに向かってくる。

 鎧がぶつかり合う音を奏でながら、武器を構えて、私達を捕まえようと近づいてきた。



「結局やるしかないのか……でも二人で協力すればなんとか————ってマリー!?」



 その時————私は一歩、前に進み出ていた。


 一番手前の槍兵が、長い槍を私に突き立てようとした。

 槍の穂先が光り、ヴィオレッタの命令を忠実に実行しようと、すごい勢いで飛んでくる。


 それを私は————並々ならぬ反射神経でその柄を掴んで受け止めた。

 さっきまでとは別人になったかのような俊敏さで、槍の柄をがっしりと掴む。


 力を込めて槍を手前に引く。

 兵士は完全に不意を突かれた形になった。



「ぬお————うわああっ!」



 重い鎧を身につけた兵士が、よろめきながら前のめりに倒れる。

 彼の驚愕の表情がはっきりと見えた。


 私はその隙を見逃さず、槍兵の手を叩いて武器を手放させ、その手を掴んで拘束した。



「!?」



 一瞬の出来事だった。

 周囲の時間が止まったかのように、誰もが呆然とその光景を見つめている。


 その場にいた誰も、一連の動きについていけなかった。

 王女が兵士を制圧するなど、誰の予想の範囲にもなかった出来事だろう。



 兵士の一人を制した私は、強く声を張った。



「————怪我をしたくない者は武器を捨てよ!」





読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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