第142話 分からないなら、分からせればいいじゃない
「まだ分からないの!?」
まるで堰が決壊したかのように、マリーの感情が爆発する。
語気を強めた彼女の声が地下牢の石壁に反響した。
虚ろな目のまま、マリーはこちらを睨みつける。
「私はいらない人間なの! 誰も私を必要としてない! 私が何をしたって無駄!」
目に光はない。
涙すら枯れてしまったかのように、彼女の瞳は乾いた砂漠のようだった。
乾いた炎を燃やすように、絶望に満ちた叫びを続ける。
「前の世界でも、この異世界でもずっとそう! 私なんかがいなくても世界が回る! むしろ————私が何かをしようと努力するから、きっと世界が歪んでしまうんだ……!」
私が惨めったらしく、何かしようとしたから。
何か生きる目標に、縋りつこうとしたから。
彼女の声は次第に掠れていく。
「もう嫌なのよ……自分に失望するのは————だから、私はここで消えたい————」
最後の言葉とともに、マリーは力なく項垂れてしまった。
牢屋に静寂が走る。
松明の炎だけが微かに揺れ、影を不規則に踊らせていた。
————もう我慢できなかった。
感情が頂点に達した僕は、思い切り彼女の手を引っ張り上げた。
肩が外れるんじゃないかというくらい、遠慮なく強く引き上げる。
でも、そんなことではマリーは怪我をしないことを、僕は知っていた。
「このアンポンタン!!」
今まで出したことのないような大声が地下牢に響き渡った。
自分でも驚くほどの音量で、石壁が震えるほどだった。
その瞬間、初めてマリーと目が合った。
驚いたような、困惑したような表情を浮かべる彼女の顔を、久しぶりにまともに見た気がした。
「君がそんなことを言い出したら……君を必要としている僕はどうすればいいんだよ……!」
普段の敬語を完全に捨て去り、心の底からの思いをぶつける。
声は震えていたが、それでも彼女に届けたい一心で言葉を紡いだ。
「クロ————」
「それに!!」
マリーが何か言いかけた瞬間、僕は彼女の言葉を遮って続けた。
「君を必要としているあの人達は! 君がいなくなったらどうするんだよ!!」
僕の目には自然と涙が浮かんでいた。
抑えきれない感情が涙となって溢れ出し、声も震えながら思いを叫んだ。
「私を……必要としてくれる人……?」
初めて聞く言葉のような、驚きと困惑。
信じられないというような、そんな表情だった。
こんなに言っても、信じられないっていうなら————
「————いいから、ついてきて!!」
僕はマリーの手を強く握り直し、その手を引く。
階段を全速力で駆け上がった。
全力で走っても、彼女は置いてかれないことを、僕は知っていた。
それくらいマリーは————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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