第141話 牢に閉じ込められているなら、連れ出せばいいじゃない
地下へ続く階段を駆け降りる。
心臓が激しく鼓動を刻み、息が荒くなる。
一刻も早くマリーのもとへ辿り着かなければ————
地下へ降りるにつれ、空気は次第に重くなっていく。
地下牢は薄暗く、松明の炎が揺れるたびに冷たい影が踊る。
空気はひんやりとして湿り気を帯び、鉄錆と腐敗が混じり合った生臭い湿気が鼻腔を刺激する。
床には潮のようなしみがあり、鉄の柵の冷たさが指先に伝わってくる。
こんなところにマリーを閉じ込めているなんて……!
胸の奥で怒りが燃え上がる。
絶対に許せない————
全力で駆け降りて、やがて僕は地下牢にたどり着いた。
重苦しい沈黙の中、かすかに聞こえる水滴の音だけが時の経過を告げている。
そして————
「マリー!」
そこに、マリーはいた。
だが————僕の知っているマリーとは全然違う。
生気を失った虚ろな瞳が、どこか遠くを見つめている。
いつも太陽のように輝いていた彼女の表情から、あの温かい光は完全に消え失せていた。
美しい髪は艶を失い、まるで魂が抜け落ちてしまったかのようだった。
「マリー大丈夫!? 待っててください! すぐそこから出してあげますから!」
僕はリゼッタにもらった鍵を牢の鍵穴に差し込む。
鍵は思いのほか軽く回り、固く閉ざされた錠前が音を立てて外れた。
「マリー! ここから出ましょう!」
「————ないで……」
僕は彼女の手を取って逃げようとした。
しかし————
「来ないで!!」
突然の拒絶に、僕の動きが止まった。
その叫びは儚く、同時に鋭く突き刺さった。
マリーの手が僕の手を押し返すように離れ、まるで僕に触れられることを恐れているかのようだった。
「マ、マリー……? どうして————」
胸が凍り付くようだった。
どうして、扉を開けたのに、ここから出たくないと言うのか————理解が追いつかない。
彼女をよく見ると、その姿は痛々しいほど憔悴していた。
肩が小さく震え、膝は床に沈んだまま力が入らない。
服の裾には泥と埃が染み込んでおり、指先は冷たく青白い。
「もう疲れた……疲れたんだよ……」
どこか自暴自棄になっているように見えた。
その瞳には、もう気力が残っていない。
「これまでずっと頑張ってきた。少しでも、いい感じになるように努力してきた————でも……何の意味もない……!」
彼女の言葉は、刃のように鋭く、自分を責めている。
王女であり続けるために、王宮では仮面をつけて振る舞って、貴族のご機嫌を取って————
冒険者になって、勇者に認められるために、死に物狂いで鍛錬して、命を賭けて戦って————
その結果が、これ————
「必死に守ってきた王女という地位も、頑張って掴み取った冒険者の力も————全部無意味なんだ」
投げやりに吐き捨てられた言葉が、地下牢の冷たい空気に溶けていく。
全力で否定したかった。
そうしなければ、バラバラに崩れてしまいそうだったから————
「そんなことないですよ……マリーがやってきたことは、ちゃんとみんなに————」
「まだ分からないの!?」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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