第13話 世界が不公平なら、頭の中の誰かと会話すればいいじゃない
「ぐあああっ!!!」
突然、クロの悲鳴が闘技場に響き渡った。
二人の冒険者の見事な連携攻撃が、ついにクロの防御を崩したのだ。
空中に吹き飛ばされたクロの体は、おもちゃのように地面を転がった。
砂埃が舞い上がり、彼の小さな体を一瞬覆い隠す。
「クロっ!!」
私は思わず叫んでいた。
手に持っていた剣が遥か後方に飛び、大地に突き刺さる。
無防備な姿で横たわるクロの姿に、胸が締め付けられた。
私は急いで駆け寄る。
砂まみれになったクロの体はもう限界だった。
私が巻いた包帯はもう既に血でほとんど滲んでおり、意識も朦朧としている。
震える手で腕輪を確認すると、表示された数字は『9』だった。
「ちぇ、もう終わりかよー」
「まったく、何の力もない新米冒険者だったなぁ!」
二人の冒険者は勝利を確信したように高笑いを上げた。
その笑い声は闘技場中に響き渡り、観客も興奮の渦に巻き込まれていく。
「きゃあっ!」
突然、相手の冒険者がクロの方を踏みつけた。
無慈悲な靴底がクロの胸を押しつぶし、彼は苦痛に顔をゆがめる。
私は恐怖のあまり後ろに飛び退き、尻餅をついた。
冷たい砂が手のひらに食い込む感触が、現実感を与えた。
「お前みたいな才能もない奴がでしゃばると目障りなんだよ!」
「今日も無駄だったなぁ! 1人で頑張ったのに全部無駄!」
罵詈雑言を並べ立てながら、ボコスカと踏みつけにしていく。
腕輪の数字が『8』になった。
会場もヒートアップしていき、「やれー!」「殺せー!」という血に飢えた声が飛び交う。
観客席からは歓声と怒号が混ざり合い、まるで獣の咆哮のようだった。
どうして、そんなことを言われなきゃならないのか。
あんなに頑張っていたのに、賞賛ではなく非難を浴びせられる。
そんなのって————
『不公平だろ』
————そうだ。不公平だ。
「やめてよ……」
小さな声が、私の口から漏れ出た。だが、冒険者は暴力を全く止めようとしない。
クロの弱々しいうめき声が聞こえてくる。
腕輪の数字が『7……6……』と減っていく————
「やめてよ!」
すると、私は声を張り上げていた。
その叫びは自分でも驚くほど強く、闘技場の一角に響き渡った。
その声に反応し、冒険者達がクロへの攻撃を止める。
「なんだぁ? 女、なんか文句でもあんのかよ」
一人が私を睨みつける。
それだけで、私は恐怖で足がすくんだ。
体中の血が凍りつくような感覚だった。
「なあ、兄貴。いいこと思いついたぜ?」
「なんだ————ああ、俺も多分おんなじこと考えついた」
2人が私の方に向き直る。
「今からこの女をタコ殴りにして、楽しいショーを見せてやろうぜ」
そう言いながら、二人はこちらに迫ってきた。
重い足音が砂を踏みしめる音が、心臓の鼓動と同期しているようだった。
「に……げ……て……」
クロが精一杯声を振り絞りながら、こちらに震える手を伸ばす。
だが、私の体は動こうとしない。
恐怖が全身を支配し、足は地面に根を張ったように動かなかった。
どうして、こんなにも上手くいかない。
思えば、お父様に王位を継がせないと宣告されたところから、何も上手くいっていない。
勇者には軽くあしらわれ、冒険者は誰も私の話を聞いてくれなかった。
町では王族の身分も通用せず、信頼できる人間もいなかった。
私、不真面目にやっていたわけではないよ。
必死に————この世界でちゃんと生きるために————頑張っていたつもりだよ。
なのに————どうしてこんなことになるんだろう。
『不公平だ』
私が弱いからなのかな————
『強くないといけないなんて、不公平だろ』
クロが弱いからなのかな————
『あんなに頑張ってんのにあんな仕打ち、不公平だろうが』
やっぱり、この世界も運と才能がないとダメなのかな————
『そんなパチンコみてえな世界、俺は認めねえ』
どれだけ努力したって、目標に向けてあがいたって、ダメなのかな————
『そんな血も涙もねえ世界、俺は認めねえ』
頭がガンガンする。
知らない声がずっと私に語りかけてきていた。
まるで誰かが私の頭の中に住み着いているかのように————
冒険者二人はその間にも、私の方に迫ってくる。
彼らの目は獲物を捕らえた捕食者のように輝きを放つ。
『だから————代われ』
何をだ。
どうせあがいたって、意味はない。
私のやることに、何にも意味はない。
私には、運も才能もなかった。
これで私は、また、惨めに死んでいくんだ————
『いいから————黙って俺に体を貸せ』
その瞬間————無意識に私は、言葉を紡いでいた。
「助けて————おにいちゃん……」
次の瞬間————私の意識は途絶えた。
世界が闇に包まれる中で、何かが目覚めるような感覚だけが残った。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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