第131話 王女を求めるなら、抗議すればいいじゃない
「「マリナス様を解放しろぉぉぉ!!」」
古き石造りの街に、数百の民衆による轟く怒号が響き渡る。
その声は大地を揺らし、城壁を越え、巨大な意思の奔流となって天を震わせた。
王宮前の大通りは群衆で埋め尽くされ、押し寄せる熱気に石畳さえ震えているようだった。
手にしたプラカードには大きく、『王女処刑反対』の文字が力強く躍っている。
老いも若きも関係なく、誰もが血管の浮き出た拳を天に向かって振り上げ、魂の底から絞り出すような声を合わせて叫び続けている。
「なんなのよ……これ……!?」
ヴィオレッタは顔を引きつらせ、ベランダの手すりに縋るようにして下を見下ろす。
紫色の唇が震え、白い指先は血の気を失い始めていた。
完璧な計画がほころんでいくのを感じ、動揺を隠せずにいた。
「広場から大勢で来たみたいで……もう収拾がつかなくなっているのです……!」
報告する使用人の声は焦りに震え、背筋は汗で濡れていた。
そこには、目を疑うような光景が広がっている。
ヴィオレッタが想像もしていなかったような、ふざけた光景が。
宿屋のオーナーは流れる汗も気にせず、拳を上げている。
演劇団は両手を口に当て、力の限り叫んでいる
冒険者、商人、カフェの店員、に至るまで————
この王都に住まう老若男女、身分も職業も全く異なる様々な人間たちが、皆一様にマリナスの麗しい名前を叫び続けているのだ。
「こ、このままでは————」
使用人は完全に切羽詰まった震え声で、ヴィオレッタの指示を仰ごうとしている。
なぜだ————
どうしてこんなことになっている
マリナスは忌むべき悪魔憑きなんだぞ。
人々から恐れられ、石を投げつけられ、唾を吐きかけられるべき存在のはずだ。
それなのに、この愚かな民衆どもは、皆揃って悪魔の宿る穢れた王女の名前を神聖なもののように呼び、まるで聖女でも慕うかのようにマリナスの解放を求めている……?
そんな馬鹿な————
そんな馬鹿なことがあってはならない————
一体————あの女は何をして————
その疑問に対する答えを示すかのように、跪く騎士団長が静かに呟いた。
「これが、マリナス様の人望か……」
騎士団長の呟きは、小さく低い声だった。
本来なら胸の内に秘めておくはずのものだったかもしれない。
だが、あまりにも静まり返った室内の重い空気の中で、その言葉は水滴が静寂の湖面に落ちるように確かに響き、ヴィオレッタの鋭敏な耳にはっきりと届いてしまった。
ヴィオレッタの目の色が、憤怒と焦燥で鋭く変わる。
「騎士団長————」
低く押し殺した声で団長を呼ぶ。
そこに漂うのは冷たさではなく、狂気に似た熱だった。
決めたわ。
私の邪魔をする奴は、全員許さない————
「あれを全員殺しなさい」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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