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第129話 悪魔が憑いていたなら、処刑すればいいじゃない

「————順調ね」



 ヴィオレッタが細く笑みを浮かべ、手にしたグラスを軽く傾ける。


 まるで美しい紫の薔薇。

 優雅な仕草の奥に潜む冷酷さは、鋭い棘のようであった。



「少し予想外なこともあったけど、大体は思い通りに事が進んだわ」



 琥珀色のワインが蝋燭の光を映し、ゆるやかに揺れた。


 豪奢な調度に囲まれた広い部屋は、権力と富の象徴そのものである。

 分厚い絨毯は足音を完全に吸い込み、壁には金糸で縫い取られたタペストリーが幾重にも重なって掛けられている。

 天井からは水晶のシャンデリアが煌めき、無数の蝋燭が室内を暖かな光で満たしていた。


 窓の外には黒々とした夜空と、遠く灯る街の明かり。

 まさしく選ばれし者、権力者だけが許される至高の空間だった。



「————そうよね? 騎士団長」


「……」



 問いかけに答えることなく、騎士団長は険しい表情のまま、床に膝をついていた。

 騎士の甲冑の下、彼の武骨な顔に刻まれた深い皺が、内なる葛藤を物語っている。

 鋭い視線が一瞬だけ揺れ、心の底に秘めたためらいが見え隠れした。


 ヴィオレッタはそんなことには気にも留めず、指先でグラスを弄びながら続ける。



「それにしても————マリナスに悪魔がついていたなんてね」



 軽蔑と愉悦が混じった、吐き捨てるような声音だった。


 つい昨日のこと、勇者のグランドクエスト祝勝会の最中。

 突如として、悪魔は発現し、宮廷内にいる貴族五人を殺害。

 この事態を重く受け止め、ヴィオレッタは、悪魔と共に王女マリナスを処刑する————ということになっている。


 実際は死んだのは貴族ではなく、ただの冒険者だが、それくらいは些細なことだ。


 重要なのは、マリナスが悪魔であるということである。



「冒険者に襲撃させても、毒を仕込んでも、しぶとく生き残って————忌々しいったらありゃしないと思っていたけれど————まさか悪魔のせいだったとはね」



 何度も殺したと思った。

 あのなんの力もない娘は、冒険者を退ける力も、毒に打ち勝つ力もないと思っていたというのに————


 悪魔を体内に飼っていたなら仕方ない。

 こちらの細工を嘲笑い、こけにされた気分にもなるが、もはやそれもどうでもいい。


 もう、あの娘は死ぬのだから————



 ヴィオレッタは、言葉に長年の憎悪と勝利への陶酔が込める。



「でも、むしろ好都合だわ。悪魔憑きは人々から忌み嫌われる存在。私達が絶対正義として、マリナスを葬れるわよ」



 瞳に無機質な輝きを放ちながら、ヴィオレッタはそう口にする。



「ヴィオレッタ様」



 その時、重く押し殺した声が静寂を破って部屋に落ちる。

 跪いていた騎士団長が、ついに重い口を開いて顔を上げた。


 その眼差しには、長年仕えてきた主への複雑な感情が渦巻いている。



「なに?」


「本当にこれでいいのでしょうか?」




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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