第12話 やれることがないなら、祈ればいいじゃない
2回戦以降も、マリナス・クロチームは同じ戦法で勝ち続けた。
闘技場に舞い上がる砂塵、観客の期待と侮蔑が入り混じる声が渦を巻く中、二人は着実に勝利を重ねていった。
戦闘ではクロが人並み外れたスピードで二人相手にダメージを与え、残った体力量で勝ちをもぎ取る。
その後、戦いの合間に私が新たな傷を治療する。
クロの約束通り、私には傷一つつかなかった。
彼は自分の身体を盾にして、一切の危険から私を守り通してくれたのだ。
かなりギリギリの戦いを繰り返し、観客からは「卑怯者!!」「戦う気があるのか〜〜!?」と大ブーイングを受けつつも、私達は黙々と勝ち進んでいった。
そして、ついに決勝————
闘技場全体が熱気に包まれていた。
数千の観客が詰めかけ、大会最後の戦いを見ようと騒がしく声を上げている。
闘技場の中央に降り注ぐ月光は、まるで神々が注目しているかのように眩しく輝いていた。
相手は————二人組の強面の冒険者だった。
「まさか————お前が上がってくるとはな、クローム・ノア」
「……っ!」
どこかで見たことがある。
あ、思い出した。
あの時、路地裏でクロをリンチしていた、冒険者の二人だ。
クロとは、冒険者として何か因縁がありそうだ。
二人の間に流れる雰囲気は、今まで以上に敵意で満ちていた。
「あの時みたいに、ボコボコにしてやるぜ!」
「————そうはさせない!」
クロは、一層気合を入れていた。
彼の瞳に宿る決意は、今までにない強さを帯びていた。
「だ、大丈夫なの? クロ?」
「大丈夫です。僕に任せてください————マリーにだけは手出しはさせませんから」
そうは言うが、クロの体は包帯を巻きすぎて半ばミイラのようになっていた。
現代医療は魔法ではない。
傷を消毒して包帯を巻こうが、傷は完全に治っていないのである。
それをこれまでの戦いで、何度も開いては閉じ、開いては閉じを繰り返してきたのだ。
血と汗にまみれた包帯を何度も取り替えてきた。
ダメージは確実に蓄積しているに違いない。
今だって、何十にもつけられた傷が痛むはずなのだ。
それでも、彼は弱音一つ吐かず、この戦場に立ち続けている。
このフィールドに出てしまった以上、もう私にできることはない。
クロの後ろで、ただ見ているしかないのである。
————本当にそれでいいのだろうか。
『それでは決勝戦————はじめ!』
司会者の声と共に、ゴングが鳴り響く。
その音が闘技場全体に木霊し、観客の熱狂的な歓声が天井まで届いた。
クロは瞬時に体勢を低くし、相手の動きを見極めるように目を凝らした。
対する二人の冒険者は、余裕綽々とした表情で互いに目配せしながら、ゆっくりとクロを取り囲んでいく。
一瞬の静寂の後、三者が一斉に動き出した。
クロの剣が風を切り、光の線を描く。
対する二人は絶妙な連携で攻撃と防御を繰り返し、クロの急所を狙っていく。
金属がぶつかり合う音と、砂を踏みしめる足音が混ざり合う。
クロの動きは確かに俊敏だったが、相手の攻撃をかわすだけで精一杯だ。
時折隙を突いて反撃するも、二人の壁を崩すには至らない。
「そんなもんか!? どんどん行くぞ!」
「おうよ! このまますり潰せ!!」
「くっ……!!」
やはり今までで一番苦戦している。
スピードはややクロの方が勝っているが、力は相手のほうが圧倒的に上だ。
そして、当たり前だが、1人より2人の方が圧倒的に手数が多い。
ジリジリとクロの方が押されて行った。
汗と血が混ざり合い、砂塵に舞う中、彼の呼吸は次第に荒くなっていく。
一方、相手の二人はまだ余力を残しているようだった。
それに対して、私は祈る事しかできない。
拳を握りしめ、爪が手のひらに食い込むほど力が入る。
クロの背中を見つめながら、私は思う。
とてつもない情熱を持っている。
これまで、並々ならない努力をしてきた。
それは彼の一挙手一投足から伝わってくる。
夢は、手の届くところにある。
その熱量を————私は肌で感じていた。
感じたからこそ、彼の話に乗ったのである。
目的は違えど、目指す場所は一緒。
優勝すれば、それぞれの道が開ける————
だから、勝ってほしい。
心の底からそう思った。
だが————現実は非情だった。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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