表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/148

第12話 やれることがないなら、祈ればいいじゃない

 2回戦以降も、マリナス・クロチームは同じ戦法で勝ち続けた。


 闘技場に舞い上がる砂塵、観客の期待と侮蔑が入り混じる声が渦を巻く中、二人は着実に勝利を重ねていった。



 戦闘ではクロが人並み外れたスピードで二人相手にダメージを与え、残った体力量で勝ちをもぎ取る。

 その後、戦いの合間に私が新たな傷を治療する。


 クロの約束通り、私には傷一つつかなかった。

 彼は自分の身体を盾にして、一切の危険から私を守り通してくれたのだ。


 かなりギリギリの戦いを繰り返し、観客からは「卑怯者!!」「戦う気があるのか〜〜!?」と大ブーイングを受けつつも、私達は黙々と勝ち進んでいった。



 そして、ついに決勝————


 闘技場全体が熱気に包まれていた。

 数千の観客が詰めかけ、大会最後の戦いを見ようと騒がしく声を上げている。

 闘技場の中央に降り注ぐ月光は、まるで神々が注目しているかのように眩しく輝いていた。


 相手は————二人組の強面の冒険者だった。



「まさか————お前が上がってくるとはな、クローム・ノア」


「……っ!」



 どこかで見たことがある。


 あ、思い出した。

 あの時、路地裏でクロをリンチしていた、冒険者の二人だ。


 クロとは、冒険者として何か因縁がありそうだ。

 二人の間に流れる雰囲気は、今まで以上に敵意で満ちていた。



「あの時みたいに、ボコボコにしてやるぜ!」


「————そうはさせない!」



 クロは、一層気合を入れていた。

 彼の瞳に宿る決意は、今までにない強さを帯びていた。



「だ、大丈夫なの? クロ?」


「大丈夫です。僕に任せてください————マリーにだけは手出しはさせませんから」



 そうは言うが、クロの体は包帯を巻きすぎて半ばミイラのようになっていた。


 現代医療は魔法ではない。

 傷を消毒して包帯を巻こうが、傷は完全に治っていないのである。


 それをこれまでの戦いで、何度も開いては閉じ、開いては閉じを繰り返してきたのだ。

 血と汗にまみれた包帯を何度も取り替えてきた。


 ダメージは確実に蓄積しているに違いない。

 今だって、何十にもつけられた傷が痛むはずなのだ。


 それでも、彼は弱音一つ吐かず、この戦場に立ち続けている。


 このフィールドに出てしまった以上、もう私にできることはない。

 クロの後ろで、ただ見ているしかないのである。


 ————本当にそれでいいのだろうか。



『それでは決勝戦————はじめ!』



 司会者の声と共に、ゴングが鳴り響く。

 その音が闘技場全体に木霊し、観客の熱狂的な歓声が天井まで届いた。


 クロは瞬時に体勢を低くし、相手の動きを見極めるように目を凝らした。

 対する二人の冒険者は、余裕綽々とした表情で互いに目配せしながら、ゆっくりとクロを取り囲んでいく。


 一瞬の静寂の後、三者が一斉に動き出した。


 クロの剣が風を切り、光の線を描く。

 対する二人は絶妙な連携で攻撃と防御を繰り返し、クロの急所を狙っていく。


 金属がぶつかり合う音と、砂を踏みしめる足音が混ざり合う。

 クロの動きは確かに俊敏だったが、相手の攻撃をかわすだけで精一杯だ。

 時折隙を突いて反撃するも、二人の壁を崩すには至らない。



「そんなもんか!? どんどん行くぞ!」


「おうよ! このまますり潰せ!!」


「くっ……!!」



 やはり今までで一番苦戦している。

 スピードはややクロの方が勝っているが、力は相手のほうが圧倒的に上だ。


 そして、当たり前だが、1人より2人の方が圧倒的に手数が多い。


 ジリジリとクロの方が押されて行った。


 汗と血が混ざり合い、砂塵に舞う中、彼の呼吸は次第に荒くなっていく。

 一方、相手の二人はまだ余力を残しているようだった。



 それに対して、私は祈る事しかできない。

 拳を握りしめ、爪が手のひらに食い込むほど力が入る。


 クロの背中を見つめながら、私は思う。


 とてつもない情熱を持っている。

 これまで、並々ならない努力をしてきた。

 それは彼の一挙手一投足から伝わってくる。



 夢は、手の届くところにある。



 その熱量を————私は肌で感じていた。


 感じたからこそ、彼の話に乗ったのである。


 目的は違えど、目指す場所は一緒。


 優勝すれば、それぞれの道が開ける————



 だから、勝ってほしい。


 心の底からそう思った。



 だが————現実は非情だった。




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

もしよければ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


ブックマークもお願いします!



あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ