第128話 彼女がくれたものは、そのまま彼女に返せばいいじゃない
「ここにいたか。クロームくん」
「組合長……」
すると、人だかりの中から、冒険者組合長が現れた。
ざわめく群衆の中を静かに歩きながら、彼は一歩前に進み出ると、落ち着いた声で語り始める。
「あの方は————いつも私に無理難題を仰いましてね」
懐かしそうに、少し苦笑いをしながら、話を続ける。
マリーとのやり取りを思い出しているのだろうか。
「でも、断るなんて微塵も思わなかった。それはあの方が決して高慢ではなく、私達と同じ目線で話し、私達と同じように、必死に努力していることが分かったからです」
組合長の言葉には、力強さと心からの敬意が込められていた。
「今まで、あんなに身近に思える王族なんていなかった。もし、あの方がこの国の王となってくれたら————この国はもっと暖かく、とても楽しいものになるに違いありませんね」
皆、マリーを助けたくて————
マリーこそが次の女王に相応しいと思ってくれている————
人々の様々な声が、一つの大きな思いへと収束していく。
こんなにも多くの人と、こんなにも深く思いが通じ合っていたのだ。
そうだったんだ。
もはや僕が何かをしなくても、マリーはこの街の皆の中にいたのだ。
皆、マリーの優しさを知っていた。
皆、マリーの明るくて、人懐っこい性格を知っていた。
皆————マリーがちゃんと努力をして、頑張っていることを知っていたのだ。
マリーが相手をリスペクトして————
それを皆、ちゃんと覚えていて————
今度はその優しさを返そうと、ここに集まってくれている————
僕は思わず膝をついてしまった。
全身から力が抜けていくようだ。
止まったはずの涙が、目尻から再び溢れ出して、頬を伝って落ちていく。
「僕の声は————届いていたのですか……?」
僕は小さく、震える声で問いかけた。
胸のに押し込めていた想いが、堪えきれずに溢れ出してくる。
「ええ、ちゃんと」
温かく、そして力強い返答が、真っ直ぐに僕の心に届いた。
「マリーを、必要としてくれるのですか……?」
「もちろん」
人々の視線は一様に優しく、そして微塵の迷いもない確信に満ちたものだった。
そこには偽りも建前もなく、彼女に対する純粋な尊敬だけがあったのだ。
「この街の人は、皆、マリナス様が女王に相応しいと思っているよ」
そうだったんだ————
マリーのことを、ちゃんと見てくれる人が、こんなにいたんだ————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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