第127話 皆の中に、彼女がちゃんといるじゃない
僕の前に現れたのは————
「おお、こんなところにいた……」
「あなたは————オーナーさん!?」
現れたのは、僕達、勇者一行が拠点にしている宿屋のオーナーの老夫婦だった。
二人は息を切らしながらも、揃って僕に向かって丁寧に頭を下げる。
「私達にも、手伝わせて? マリナス様を助けたいの」
「え……?」
宿屋の女将が、胸に両手を当てるようにして、心からの想いを込めて言葉を紡いだ。
「マリナス様は、朝食を作るのを手伝ってくれた。それに、私達の宿のことを、とても褒めてくださったのだ」
「マリナス様が使った後の台所はとても綺麗でね。王女様なのに、隅々まで掃除してくださったのよ。なんというか、リスペクトを感じたわ」
オーナーが目を細めて嬉しそうにそう語る。
隣で女将も頷き、笑みを浮かべていた。
そういえば、勇者の試練に向けた鍛錬の期間、マリーはずっと僕達の朝食を作ってくれていた。
僕なんかよりも、ずっと早くに起きて、朝食の用意をして、台所の掃除までして————
そんな姿を、二人は見てくださっていたのだ。
すると、また複数の足音が路地に響いてきた。
二人、三人、そして数はどんどん増えていく。
たくさんの街の人々が、僕を探し求めて駆けつけてきてくれたのだ。
彼らの顔には皆、同じような決意の光が宿っている。
「あの日、マリナス様に私の芝居を褒めてくださって、本当に救われたんです。ちゃんと、私のことを見てくださったんだって————だから、私にも手伝わせて!」
以前、マリーと一緒に見に行った演劇の劇団員の一人が、感激で目を潤ませながら震え声で口を開いた。
彼女の証言を皮切りに、あちこちから人々が前へ進み出てくる。
「マリナス様は、私のコーヒーをいつもおいしいと言ってくださいます。それを聞くたびに、もっと店を頑張ろうと————」
「マリナス様に、迷子になった私の息子を探していただいたことがあったのです! とても親身になってくれて、あの時は本当に————」
「マリナス様は————」
「マリナス様————」
人々が口々にマリーとの温かいエピソードを語り始める。
一人、また一人と証言者が増えていき、気づけばこの狭い路地の周辺には相当な人だかりができていた。
皆の顔には共通して、マリーに対する深い愛情と感謝の気持ちが刻まれている。
目尻が熱くなる。
こんなにも、これだけの人達が、マリーの名前を呼び、マリーの話をしてくれる。
楽しそうに、懐かしそうに————皆、一様にリスペクトを持って————
僕に向かって、手を挙げてくれている。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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