第123話 厄災を退けたければ、最後の勇者を助け出せばいいじゃない
「この街に————厄災が迫っています!」
僕は思いついたままに話を始めた。
厄災————というネガティブな言葉が響いた途端、広場でこちらに注目する人が増えた気がする。
皆、胸の奥で何か不吉な予感を抱いていたのだろう。
王宮の異常な沈黙、街に漂う不穏な空気、そして今日一日中続いている異様な緊張感。
人々は具体的な説明を切実に求めていたのだ。
僕は、今現在何が起こっているのか、群衆が求める答えを提示する。
「現在、来たる厄災————アンデッド・エンシェントドラゴンが東上空からこの街に迫っています。冒険者組合が慌てていたのは、アンデッド・エンシェントドラゴンに立ち向かう勇者が必要だったからです」
僕の説明が終わるや否や、広場全体にどよめきが巻き起こった。
宮廷からそんな説明はないぞ————国王は何をやっているんだ————いくつか野次も聞こえる。
王宮が外部との情報交換を完全に遮断している現状では、国民に対する適切な説明や指示が一切なされていない。
宮廷————国王への不満は募っていくだろう。
しかし、それは僕にとって好都合でもあった。
王宮への不信が高まれば高まるほど、マリーを救出するための民意を結集させやすくなるからだ。
国民の感情を導くことができれば、状況は劇的に変化するはず。
だが、ここでパニックを引き起こしてしまっては本末転倒だ。
だからこそ、僕は一旦彼らの不安を和らげる必要があった。
「でも安心してください。勇者は集まり、既にドラゴンの迎撃に行きました!」
おお……と小さい歓声が上がる。
少し安堵の表情を浮かべた人達が多くなった。
ここから、マリーを助けるために、ここにいる人達を誘導しなきゃならない。
「————しかし、まだ数は足りません。勇者が全員揃わなければ、厄災に勝つことはできない……!」
僕の言葉の真意を理解した何人かの聴衆が、ハッとした表情を浮かべて顔を上げるのが見えた。
この時点で、今、何が必要か気付いた人がいるだろう。
そう、この状況で必要なのは、あの人なのだ————
「足りない最後の勇者こそ、今、王宮で囚われの身となっている、王女————マリナス・アンドレアス、その人なんです!」
この瞬間、先ほどを上回るどよめきが広場全体を包み込んだ。
マリーが勇者の一員として、グランドクエストをクリアしたことは、この国の皆が知っていることだ。
王女でありながら、優秀な冒険者としての一面も周知された。
今、この国に厄災が迫っている。
その対処には、勇者の存在が必要だ。
だが、勇者の一人であるマリーは、王宮に囚われている。
マリーがいなければ、こちらに迫るアンデッド・エンシェントドラゴンを討伐することはできない。
ならば、今————やるべきことは明確ではないか。
「お願いします! 彼女を助け、厄災に打ち勝たなければならない! そのために、皆さんの力を貸してください!」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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