第122話 マリーを救いたいなら、国民に頼ればいいじゃない
街の広場には、多くの人達が集まっていた。
老若男女を問わず、商人、職人、農民、冒険者達が、それぞれ不安と困惑の表情を浮かべながら群がっている。
誰かが呼び集めたわけではない。
皆、胸の奥で燻る不安に駆り立てられるように、この場所へと足を向けたのだった。
彼らは情報を求め、安心できる言葉を求め、そして何よりも混沌とした状況を打開してくれる誰かの出現を待ち望んでいた。
群衆の間からは、ざわめきと共に断片的な噂話が飛び交っている。
燻るような混乱。
彼らが待ち望んでいるのは、国王の威厳ある声明なのか、それとも真実を語ってくれる別の存在なのか————
迷っている暇はない。
すぐにでも、僕はこの人達に助けを求めなきゃいけないんだ————
「————みなさん! 聞いてください!」
僕の声が広場に響いた瞬間、ざわめいていた群衆の大部分が一斉に僕の方を振り向いた。
奥の方にいる人々には僕の声が届かなかったようで、首を伸ばしたり周囲の人に尋ねたりしている様子が見えた。
だが、数十人の人々が僕の言葉に注目している事実に、緊張で胸が激しく締め付けられる。
心臓の鼓動が太鼓のように響き、手のひらには冷たい汗がにじんでいた。
それでも、言うしかない————
僕一人では、何もできないのだから。
この人達に、頼むしかない————
「僕と一緒に————王女マリナスを助けてください!」
マリーの信頼を落とさずに、王宮から救い出す方法。
それは、この人達の————国民の力を借りることだった。
マリーは悪魔憑きであると言われ、処刑される————
それは、国民に糾弾されたわけではない。
国民達の中には、本当に王女に悪魔が憑いているのか、王女は悪い存在なのか、疑念が渦巻いているにしか過ぎない。
では、国民達に、マリーの存在が必要だと訴えればどうだろう。
マリーの力が、来るべき厄災————アンデッド・エンシェントドラゴンの討伐に欠かせないと伝え、マリーの解放を王宮に訴えてくれれば、どうだろう。
国民の力が、そのままマリーの信頼になりうる。
国民の総意が、王女の処刑に反対————王女が必要だ————となれば、その状態で王宮から奪還すれば、マリーにとってマイナスにはならない。
僕一人の力で戦うのではない。
ここにいる人達————皆の力を借りるのだ。
こんな考え方————少し前の自分じゃできなかった。
個の力が絶対だと思っていた。
でもこんなにも、人の力が心強い。
だから、僕はなんとしてでも、この人達を動かさなきゃならなかった。
緊張と不安で僕の心が満たされる。
僕にこの人達を動かすことはできるのか。
マリーを救う、希望になり得るのか。
ここで、思いつきのままに言葉を発した今でも、自信はない。
僕には、観衆を惹きつけるような魅力も、群衆を扇動するようなリーダーシップもない。
話術も、語彙力も————人前に立って話す度胸すら碌に持ち合わせていない。
————マリーはきっと、そういうことができるのだろう。
でも、僕にはない。
だから、僕ができることは————
ただ、嘘をつかず、ありのままの真実を伝えるだけだ。
伝えて、訴えるだけだ。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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