第120話 勇者ならば、仲間を信じるべきじゃない
冒険者組合の廊下を歩きながら、レックスが溜め息を吐いた。
その音は石造りの廊下に虚しく反響する。
あの場所で自分が判断を鈍らせてしまえば、仲間達全員に悪い影響が波及してしまう。
だからこそ、毅然とした態度を貫き通さねばならなかった————そう理性では理解し、自分に言い聞かせているつもりだが、それでも心の奥底では疑念が蠢いている。
果たして自分の判断は正しかったのだろうか。
クロの必死な訴えを突き放すような形になってしまったが、他に選択肢はなかったのだろうか————
「————お前は間違ってないよ」
その時、ラウムから声をかけられる。
レックスは周りを見回し、そこで初めて仲間たちが皆自分の近くにいることに気づいた。
「むしろ、迷っちまって、どっちつかずの反応をした俺達が一番だせえな」
ラウムは苦笑いを浮かべながら、気恥ずかしそうに後頭部をかいている。
「はあ? 俺がだせえだぁ!?」
「あんたは馬鹿なだけだよ、バカ丸」
「バカ丸————」
「バカ丸————」
「なんだとぉ!?」
いつもの他愛のないやり取り。
切迫した状況であっても、変わらない仲間達の様子を目の当たりにして、レックスの張り詰めていた心に僅かながら安らぎが宿る。
肩にかかっていた重圧が、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
「————すまないな、みんな」
「気にすんな。むしろ、感謝してる」
ラウムがレックスの肩をがっしりと掴み、力強い眼差しで彼女を見つめる。
その瞳には、長年共に戦ってきた戦友への深い信頼と理解が宿っている。
「いつも、自分のやるべきことを見失わないお前に助けられてるよ————そして、それはクロも同じだな」
クロは————将来結構大物になるかもな
ラウムは笑いながら、そんなことを言う。
クロは私の問いに何一つ迷いなく答えた。
自分がやるべき事を、信じて疑ってないのだろう。
私の前でも揺らがない確固たる決意は、以前の彼からは想像もできないほどの成長を感じさせる。
「お前らは……私についてきてくれるのか?」
「何言ってんだ。俺達がついていかないと足止めすらできねえだろ」
この6人で持ち堪え、クロとマリーが合流するのを待つ————
その通りだ。
そう言ってくれることに、心底ホッとする。
「マリーなら、クロに任せればきっと大丈夫だ」
「————そうだな」
レックスは仲間達全員の方に向き直ると、決意を込めて拳を力強く突き出した。
「私達は、私達ができることを全力でやるぞ!」
「「おうっ!」」
クロ————
お前なら大丈夫だ。
お前なら————勇者の仲間になる前では気づけなかったことに、もう気づいてるはずだ————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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