表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/175

第119話 彼女が大事なら、勇者の責務に反してもいいじゃない

 勇者一行は緊急クエストを受理した。

 アンデッド・エンシェントドラゴンの討伐に向かわなければならない。


 じゃあ、マリーのことはどうすればいいんだ……?


 マリーの処刑までには時間がない。

 明日には処刑が執り行われるかもしれないのだ。


 救うためには、王宮から力尽くで救い出すしか、今は方法がない。


 だが、このタイミングでドラゴン討伐に向かうということは————


 マリーを、見殺しにするということなのか————



「————そう時間はない。皆、すぐに出発するぞ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」



 僕は咄嗟に声を張り上げた。

 一瞬にして室内の全員の視線が僕へと注がれる。


 普段は温厚な仲間達の表情にも、緊急事態への焦燥が色濃く浮かんでいた。



「ま、マリーのことはどうするの……ですか?」



 聞きづらい状況だった。


 冒険者として、そして勇者の仲間として優先すべきは、間違いなく王国全体を脅かすドラゴンの討伐だろう。

 全員がその重要性を理解し、出発への意識を固めている中で、僕は空気を読まずにその流れを乱してしまった。


 それでも、ここでマリーについて問わずにいることなど、僕には到底不可能だった。



 室内に重い静寂が降り注ぎ、時間だけが無情に過ぎていく。

 やがて永遠にも感じられた沈黙を破って、レックスがゆっくりと口を開いた。



「私は、マリーを救いに行かない」


「は?」



 僕の思考が止まった。


 今なんて言った?

 マリーを、救わないって?


 なんで————



「何言ってんだあんた……マリーが処刑されてしまうんですよ!?」


「クロ、落ち着いて————」



 レオナが僕を落ち着かせようとするが、僕は止まらない。

 彼女の制止など耳に入らないほど、激情が胸を焦がしている。



「マリーは大切な仲間でしょう! 大切な仲間を見捨てて、あなたは勇者を名乗れるのですか!?」


「おい! 今は非常事態だ! この街にいるたくさんの人の命が危険に晒されてるんだぞ!?」


「それでも!」



 僕は喉が枯れるほどに声を荒げた。



「それでも————あなたは何もしてくれないのですか……?」



 彼女を真っ直ぐと見つめ、返答を待った。


 レックスさんが何も思っていないはずがないのだ。

 マリーのことを心配していないはずがない。

 きっと何か深い考えがあるに違いない————そう信じたかった。


 しかし、レックスの瞼は、固く閉ざされたままだった。



「エンシェントドラゴンを倒す、これは勇者としての責任だ」



 これが、私のやるべきことだ。


 断固とした態度だった。



 僕の胸に煮えたぎるような怒りが込み上げてきた。

 血管を駆け巡る憤怒が、全身を震えさせる。



「この————分からず屋が! どうして————」


「クロ、お前がやるべきことはなんだ?」



 レックスは僕の激昂した罵倒を冷静に遮り、逆に僕へ向けて鋭い問いを投げかけた。

 その瞳には何かを試すような、探るような光が宿っている。


 僕は迷いなく、心の底からの想いを込めてきっぱりと言い切った。



「僕のやるべき事は————マリーを救うことです!」



 冒険者の矜持など、勇者の責務など、知ったこっちゃない。


 僕にとって、大事なのはマリーだ。


 世界が彼女を諦めても、僕だけは見捨てたりしない。



 レックスは再び目を閉じ、身を翻す。



「クロは置いていく。討伐には6人で行くぞ」



 冷酷な宣告と共に、レックスは部屋の出口へと向かっていった。


 さすがに愛想を尽かされてしまったのだろう。


 国の危機というこの重要な局面で私情を最優先にするなど、勇者の一員として、いや一人の冒険者としても完全に失格だ。

 誰がどう見ても僕の行動は身勝手で、理解されないのも当然だろう。


 だが、それでも後悔はない。

 僕が本当にやるべきことは、間違いなくマリーを救うことだと心の底から確信しているからだ。


 これで、僕の冒険者人生も全部終わり————



「勘違いするな、クロ」



 出口の前で、レックスは立ち止まっていた。

 扉に手をかけた状態のまま、彼女は振り返ることなく静かに口を開く。



「6人でエンシェントドラゴンに勝つ事はできない。私達が今できるのは、せいぜい足止めくらいだ」



 8人いたのに崩壊させられたんだ。

 その時より戦力が少なければ、敵う道理はない。


 レックスは冷静に言葉を紡ぐ。



「だから————マリーを連れて、私達に合流しろ」


「!!」



 僕はハッと顔を上げた。


 他の皆も、レックスの方を注目する。



「マリーがいなければ、あのドラゴンを倒せない。だから、お前に託す」



 そういうことか。

 僕は馬鹿だ。


 レックスさんはこの国を守るため、ドラゴンを止めに行く。

 国を守らなければ、マリーを救っても意味がないからだ。


 だからこそ、マリーのことは僕に託したんだ。

 僕だったら、彼女を助けられると信じて。



 胸に熱いものが芽生える。

 憧れの勇者に信頼され、後のことを任された。


 僕は絶対にこれに応えなくちゃならない。



「頼んだぞ、クロ!」


「————はい!!」



 僕は、強く返事をして、レックスが出ていくのを見送った。


 必ず、マリーを救うんだ……!



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

もしよければ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


ブックマークもお願いします!



あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ