表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/175

第115話 死刑が嫌だったら、追放すればいいじゃない

「————だったら、死刑ではなく、()()を進言すればいいじゃないか!」



 ラウムの提案が部屋に響いた瞬間、全員の視線が一斉に彼の方へと向けられる。

 重苦しい空気を切り裂くような、希望に満ちた声だった。



「自らこの国を出ていくなら、その貴族達も文句は言わないだろう。それで、俺達とまた旅をすればいいじゃないか!」


「そうね……それが一番いいじゃん! 勇者一行の一員として、また一緒に旅ができる!」


「そうですね! それが————」



 その時、僕は『それがいい』という肯定の言葉を出しきれなかった。


 脳裏に、マリーの部屋のあのバルコニーでの会話がよぎったからである。



『私はこの国の王女。そして、いずれ女王になるの』



 寂しそうにしながらも、運命を受け入れ、自らの責任を全うしようとする強い意志が込められた、その言葉。

 彼女は冒険者になるのではなく、女王となり、この国の民を率いていくことの覚悟を決めていた。


 追放という手段でマリーを救うことは、そんな彼女の覚悟を、踏み躙ることになるのではないだろうか……?

 王女としての誇りと使命感を胸に、困難な道を歩もうとしている彼女の意志を————



 心の奥底では、そんなことはしたくないという思いが強くあった。


 彼女の覚悟を尊重したい————しかし同時に、彼女の命を救うためには追放するしかないのではないだろうか。

 彼女の立派な覚悟も、命には変えられない。



 でも————



「駄目だ」



 部屋に、突如として冷たく声が響く。

 ずっと沈黙を保っていたレックスが、否定した。



「なんでだ!? レックス!」


「そう思って、私も宰相殿に進言したんだ。今朝早くにな」



 驚きの視線がレックスに集中する。

 誰もが、最後の希望にすがりつこうとしていたが、レックスは苦い顔をしながら結論を口にした。



「だが————一度下した決定は覆らない。たとえ追放しても、いずれ王国に害を為すかもしれない、だそうだ」



 あの時のヴィオレッタの目は、権力への執着、狂気に満ちていたな————


 そう告げたレックスの額には、深い無力感と苦悩の皺が刻まれていた。


 権力への飽くなき渇望————目的のためなら手段を選ばない。

 彼女にとってマリーは、もはや政治的な障害物でしかなく、完全に排除すべき存在として認識されているのだろう。



「そんな……」



 僕は、力無く項垂れた。

 全身から力が抜けていき、まるで糸の切れた人形のように、椅子に深く沈み込む。


 結局、どうすればいいんだ。

 僕たちには何もできないのだろうか。



 無力感が心を支配し、絶望の重さが肩にのしかかってくる。



「————こうして雁首揃えて、唸っていてもしょうがない。今日は解散としよう。何かいい解決策が浮かんだら、ここに持ってきてくれ」



 レックスの冷静な判断により、この日の会議は終了となった。


 部屋を出て行く仲間達の足音は重く、誰も言葉を交わすことなく、それぞれが深い思索の中に沈んでいる。

 曇天の空は相変わらず重々しく垂れ込め、僕達の心境を映し出しているかのようだった。




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

もしよければ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


ブックマークもお願いします!



あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ