第115話 死刑が嫌だったら、追放すればいいじゃない
「————だったら、死刑ではなく、追放を進言すればいいじゃないか!」
ラウムの提案が部屋に響いた瞬間、全員の視線が一斉に彼の方へと向けられる。
重苦しい空気を切り裂くような、希望に満ちた声だった。
「自らこの国を出ていくなら、その貴族達も文句は言わないだろう。それで、俺達とまた旅をすればいいじゃないか!」
「そうね……それが一番いいじゃん! 勇者一行の一員として、また一緒に旅ができる!」
「そうですね! それが————」
その時、僕は『それがいい』という肯定の言葉を出しきれなかった。
脳裏に、マリーの部屋のあのバルコニーでの会話がよぎったからである。
『私はこの国の王女。そして、いずれ女王になるの』
寂しそうにしながらも、運命を受け入れ、自らの責任を全うしようとする強い意志が込められた、その言葉。
彼女は冒険者になるのではなく、女王となり、この国の民を率いていくことの覚悟を決めていた。
追放という手段でマリーを救うことは、そんな彼女の覚悟を、踏み躙ることになるのではないだろうか……?
王女としての誇りと使命感を胸に、困難な道を歩もうとしている彼女の意志を————
心の奥底では、そんなことはしたくないという思いが強くあった。
彼女の覚悟を尊重したい————しかし同時に、彼女の命を救うためには追放するしかないのではないだろうか。
彼女の立派な覚悟も、命には変えられない。
でも————
「駄目だ」
部屋に、突如として冷たく声が響く。
ずっと沈黙を保っていたレックスが、否定した。
「なんでだ!? レックス!」
「そう思って、私も宰相殿に進言したんだ。今朝早くにな」
驚きの視線がレックスに集中する。
誰もが、最後の希望にすがりつこうとしていたが、レックスは苦い顔をしながら結論を口にした。
「だが————一度下した決定は覆らない。たとえ追放しても、いずれ王国に害を為すかもしれない、だそうだ」
あの時のヴィオレッタの目は、権力への執着、狂気に満ちていたな————
そう告げたレックスの額には、深い無力感と苦悩の皺が刻まれていた。
権力への飽くなき渇望————目的のためなら手段を選ばない。
彼女にとってマリーは、もはや政治的な障害物でしかなく、完全に排除すべき存在として認識されているのだろう。
「そんな……」
僕は、力無く項垂れた。
全身から力が抜けていき、まるで糸の切れた人形のように、椅子に深く沈み込む。
結局、どうすればいいんだ。
僕たちには何もできないのだろうか。
無力感が心を支配し、絶望の重さが肩にのしかかってくる。
「————こうして雁首揃えて、唸っていてもしょうがない。今日は解散としよう。何かいい解決策が浮かんだら、ここに持ってきてくれ」
レックスの冷静な判断により、この日の会議は終了となった。
部屋を出て行く仲間達の足音は重く、誰も言葉を交わすことなく、それぞれが深い思索の中に沈んでいる。
曇天の空は相変わらず重々しく垂れ込め、僕達の心境を映し出しているかのようだった。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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