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第113話 国が相手なら、彼女を引き渡すしかないじゃない

「意識を失っている今のうちに————捕まえなさい」



 彼女の指示によって、王宮の騎士達が一斉に動き出した。

 銀の甲冑に身を包んだ騎士達が、重厚な足音を響かせながら僕達の周囲を完全に包囲する。


 騎士の一人が無遠慮にも僕の腕の中で眠り続けるマリーに手を伸ばし、乱暴に彼女を奪い取ろうとした。



「待て! マリナス様に触るな!」



 その時、テレシーが前に出て騎士の手を掴んだ。

 彼女の瞳には、燃えるような激しい怒りが宿っている。

 以前、城で出会った時の穏やかで上品な侍女の面影はもはやなく、まるで別人のような気迫に満ちた表情を見せていた。



 そうだ————


 このまま連れて行かれてはダメな気がする。

 何をされるか、分からない。



 僕もマリーの手をぎゅっと握り締め、離すまいとする



「それを庇うのか!? ならば、君達も連行することになるぞ!」



 騎士が威圧的な声で警告を発する。

 その声には有無を言わさない強制力が込められていた。



 なんでマリーを連れていくんだ

 連行って————まるで罪人みたいじゃないか。


 この人は紛れもなく君たちが仕える王女のはずだろう。

 命をかけてでも、守るべき存在じゃないか。


 どうしてそんな—————


 化け物を見るような目で、彼女を見るんだ————



 この理不尽な状況を到底看過することはできず、僕は体を張ってでも抵抗の意思を示そうと身構えた。

 だがその時————背後からレックスの大きな手が僕とテレシー、二人の肩をがっしりと掴んだのである。



「————今はやめておけ」



 相手は————国だ————



 レックスの声は普段よりもずっと低く、静かに響く。

 何かを押し殺すような声だった。


 レックスの鋭い視線は一点を見つめたまま動かない。

 その視線の先を辿ると、優雅な足取りでこちらへと歩み寄ってくるヴィオレッタの姿が見えた。

 彼女の紫の髪が薄明かりの中で妖しく揺れ、冷ややかな微笑みを浮かべている。



「悪魔の沈静化、ご苦労でした。勇者レックス」



 ヴィオレッタの口から紡がれる言葉は表面上は丁寧だったが、その声音には氷のような冷たさが込められていた。

 寒気すら覚えるほどだ。



「だが、あなた達がいなければ、これほど大事にもなっていなかったかもしれない」



 彼女の瞳に宿る光は冷酷そのものだった。


 そこには、僕達に対する感謝も、王女に対する慈悲も、微塵も込められていない。


 ただ、部外者である僕達の存在を心底から疎ましく思っているだけだった。

 まるで邪魔な虫でも見るかのような、露骨な嫌悪感。



「今すぐ、ここから出ていってください。これから王宮は忙しくなりますから」



 ヴィオレッタはただそれだけを冷然と告げると、騎士達に目配せをして僕の腕からマリーを奪い取らせた。

 彼女の小さな体が僕の手から離れていくのを、僕はただ無力に見送ることしかできなかった。


 やがて夜の帳が深く垂れ込め、王宮全体が重苦しい雰囲気に包まれていく。




 こうして、本来であれば勝利を祝うはずだった祝勝パーティは、誰も予想しなかった形で終わるのであった。




 次の日のことだ。



 悪魔に憑かれた王女、マリナス・アンドレアスの処刑が決まったのは————





読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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