第111話 彼女が止まらないなら、ただ願えばいいじゃない
「————待ってください!!」
僕は勇気を振り絞って一歩踏み出し、レックスとゴーキが激闘を繰り広げる危険地帯の真ん中へと躍り出た。
目の前には、殺意に心を支配されたゴーキが、岩のように硬く握りしめた拳を構えて立ちはだかっている。
圧倒的な威圧感が重く僕の肩にのしかかり、自身の無力感を思い知らせる。
とてつもない恐怖とプレッシャーが全身を貫き、膝が笑いそうになるほどの緊張が僕を襲っていた。
「クロ! 危険だ下がれ!」
「下がって! クロ!」
仲間達の警告が聞こえる。
レックスですら苦戦している強者。
僕なんかじゃ相手にならないだろう。
それでも、僕が止めなくちゃならない。
そんな気がするんだ。
「マリー————いや、ゴーキさん! 僕です!」
心の底から叫ぶように呼びかける。
しかし、目の前に立つ彼は、まるで僕の声など聞こえていないかのように一切の反応を示さない。
ゴーキは僕のことを認識できてはいなかった。
「ゴーキさん! 目を覚ましてくれ!」
僕の必死の訴えも届かず、ゴーキはただ機械的に僕の方へと歩みを進めた。
そして、目の前の障害を取り除こうとするかの如く、拳を振り上げて攻撃しようとする。
嫌だよ————
君に……そんなことをしてほしくない————
「マリィィィィイイイイイイイイイ!!」
僕は肺の中の空気を全て絞り出すように、力の限り彼女の名前を叫んだ。
その時————
世界がスローモーションになっていく中で————
なぜか僕の意識は、自分自身の胸元へと強烈に引き寄せられた。
衣服の下で、何かが神秘的な赤い光を放っているのが見えたのだ。
なんだこれ……?
何かが赤く光っている……?
光を放っているだけではない。
その光る部分が熱くなり、まるで生きているかのように脈打っているような振動を感じる。
その瞬間————僕の脳裏にあの日の記憶が浮かび上がる。
あの日————マリーと二人で、王宮の図書館に忍び込んだ。
肝試しとか言って————マリーの別人格を引き出すという別の目的もあったっけ————
怖がる彼女をなんとか励まして、図書館の隠し部屋を見つけた。
そして、赤い宝石を見つけた————
光っていたのは、マリーにもらったレッドアンバーで作った、ペンダントだった。
君にあげようと思っていた————美しいペンダント————
赤く輝くペンダントが、まるで小さな太陽のように眩い光を放ち続ける。
その時————ゴーキの体が固まった。
彼を支配していた鬼神のような怒りの炎は、まるで強風に吹き消されるように跡形もなく消え去る。
岩のように硬く握りしめられていた拳からも、潮が引くように徐々に力が抜けていった。
全身の力が抜け落ちるように、ゴーキはゆっくりと膝を地面についた。
「マリー!?」
そして、糸の切れた人形のように、彼は僕の方向へと倒れかかってきた。
僕は慌てて両腕を広げ、彼の体を受け止める。
その表情は、もうあの恐ろしい狂気の面影など微塵もなく、いつもの穏やかなものへと完全に戻っていた。
「あとは頼んだぜ……少年————」
そう言って、ゴーキは意識を失った。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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