第108話 その邪悪なオーラには、馴染みがあるじゃない
突如として、王宮内に轟音が鳴り響いた。
まるで雷鳴のような爆音が石造りの廊下を震わせ、建物全体が激しく振動する。
窓という窓のガラスがガタガタと不気味な音を立て、館内に響き渡った。
「な、なに!?」
僕は反射的に身構え、音の発生源を探ろうと辺りを見回した。
耳を澄ませてみると、この爆発音は明らかに後ろの方角から響いてきている。
これって、僕が来た方向から……?
「————やっと見つけた!」
その時、背後から切迫した声がかけられる。
振り返ると、レックス達————勇者一行の面々が息を切らせながら走ってきていた。
ただ事じゃない雰囲気で、深刻な緊張に満ちている。
「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて————」
「お前————何も見てないのか?」
「今まで、マリーと一緒にいたんじゃないの!?」
皆が僕の肩を掴み、必死な眼差しで問い詰めてくる。
マリーとは別に何も……
ただ、僕の誘いを、王女である彼女が断っただけだ。
だが、マリーと交わした会話を、レックス達と言えど言いたくはない。
それに、レックスが一体何を聞きたがっているのか、その意図が全く掴めなかった。
「どういうことですか?」
「分からないのか!? この突き刺さるようなオーラ。これはきっと————」
その時、再び激しい爆発音が響き渡った。
今度は、さらに強烈に城内を震撼させる。
まるで何かが崩壊していくような、破滅的な響きだった。
「————とにかく、一緒に来い!」
レックスは有無を言わさず僕の手を掴み、廊下を駆け出した。
足音が石の床に響き、目まぐるしく流れる廊下の景色を置き去りにしながら、僕らは音の発生源へと向かっていく。
「途轍もないオーラだ。この私ですら鳥肌が立つほどのな……クロ、お前も感じるだろ」
そう言われて、僕は頭を切り替えて、意識を集中させた。
すると、今まで気づかなかった異常な気配が一気に押し寄せてくる。
禍々しい殺気————うねるような邪悪なオーラが、この先の方角から濃密に漏れ出していた。
それは生温かく、粘つくような悪意に満ちている。
今までどうして気づかなかったのだろう。
肌を刺すような、危険極まりないオーラが廊下全体を覆い尽くし、まるで瘴気となって空気そのものを汚染しているかのようだった。
そして————僕はこの気配に覚えがあった。
いや、間違いない。
僕達は、その邪悪なオーラが漏れ出ている場所へと辿り着いた。
重厚な木製の扉の向こうから、その不吉な気配が波のように押し寄せてくる。
レックスが扉の取っ手を握り、一呼吸置いてから勢いよく扉を開け放った。
そこはまさに、地獄のような様相が広がっていた。
床という床が赤黒い血の海と化し、本来なら白いはずの壁面が血飛沫で真紅に染まり上がっている。
空気は鉄錆のような血の匂いで満たされ、まるで屠殺場のような惨状が部屋全体を支配していた。
その中心に立っていたのは————
「マリー!?」
レックスが叫ぶ。
そこにいたのは、血だらけのマリーだった。
しかし、あの美しかった髪型は無残にも乱れ果て、まるで別人のような凄惨な姿に変わり果てている。
綺麗だったはずのドレスはボロボロで、ほぼ何も着ていないのと同じだった。
変わり果てた姿であっても、そこにいるのはマリー。
それに間違いはない。
だが、僕だけはそこに立っている存在が、マリーではないことに気づいていた。
「ゴーキ……さん……?」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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