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第106話 親愛なる王女が変わり果ててしまったら、呆然とするしかないじゃない

 パアン、と音がする。



「え?」



 乾いた爆裂音が部屋に響き渡る。

 その音は雷鳴にも似た衝撃的な響きを持ち、室内の空気を一瞬にして震撼させた。


 その場にいた誰も、何が起こったか分からなかった。


 それは————冒険者の一人の頭部が文字通り弾け飛んだ音だった。

 マリナスに覆い被さっていた大男の頭が、一瞬にして爆裂し、辺り一面に赤い飛沫を撒き散らしたのだ。



「う、うわああああっ!!」


「な、なんだこれえええええ!?」



 冒険者達が蒼白な顔色になり、狼狽える。


 常識では説明のつかない超常現象を目の当たりにして、完全に冷静さを失っていた。



 そこに立っていたのは、もはや王女マリナスではない。

 別の何かが彼女の肉体を乗っ取り、完全に暴走している状態だった。


 まるで地獄の底から這い上がってきた鬼神のような禍々しいオーラが、彼女の全身を包み込んでいる。

 背後には見えない炎が激しく燃え盛っているかのような錯覚を覚えるほど、その存在感は圧倒的だった。

 空気そのものが歪んで見えるほどの異様な気配が、室内を支配している。


 冒険者の頭蓋骨を粉砕した拳には、異常に発達した血管が浮き出ており、まるで別の生物の腕のように見えた。

 彼女を拘束していたはずの頑丈な手錠は、いつの間にか粉々に砕け散っている。



「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」



 人間のものとは思えない獣じみた雄叫びが、彼女の喉奥から響き渡る。


 その移動速度は人知を超えており、まるで稲妻のような速さだった。

 ターゲットにされた男は反応する間すらなく、一瞬のうちに体が真っ二つに寸断される。

 血肉が宙を舞い、内臓が床に撒き散らされる惨劇が繰り広げられた。



「うわああああ!! いやだああああっ!」



 完全にパニック状態に陥った冒険者の一人が、背中を向けて必死に逃げようとした。

 しかし、その背中に向かってマリナスが放った砲弾のような蹴りは、男の背中を貫通して前面に突き抜ける。


 圧倒的なスピードと破壊力、そして悪魔と化したその目は、この場にいる誰も逃げられないことを悟らせるのに十分だった。



「こ、こないでくれえええええっ!!」



 次々と冒険者達が無惨に屠られていく。


 室内は瞬く間に血の海と化し、鮮血が壁や天井にまで飛び散っている。

 床は亀裂だらけとなり、壁にも大きなひび割れが走っていた。



「一体……なんなんだよこれは……!?」



 フォックスは目の前で繰り広げられる地獄絵図に、心底から震え上がった。


 何かに取り憑かれているかのように狂乱する王女。

 無慈悲に体を破壊され続ける冒険者達。それはまさに現世に現れた地獄そのものだった。



 もはや————あれは人間じゃない。

 モンスターだ。


 まさか————王女が悪魔憑きだったなんて。



 慌てて辺りを見渡してみると、いつの間にか依頼主であったヴィオレッタの姿は跡形もなく消えている。

 状況が悪化すると見るや否や、素早く現場から姿を消していたのだ。


 そしてついに、血まみれのこの部屋に残っているのは、フォックスと彼が拘束しているテレシーのみとなっていた。



「くそっ!! 貴族に関わると碌な事がねえ!」



 フォックスは心底から後悔の念を込めて毒づきながら、慌ててテレシーから手を離した。

 そして迷うことなく窓ガラスを体当たりで突き破り、外へと脱出していった。



「マリナス……様……!?」



 そして、傷だらけのテレシーは腰を完全に抜かしたまま、変わり果てたマリナスの恐ろしい姿を呆然と見つめていた。

 信じがたい光景を前にして、現実を受け入れることができずにいる。


 血まみれの拳を握りしめたマリナスが、今度はテレシーに向かってゆっくりと歩みを進めてくる。

 その顔には人間らしい温かみは一切なく、まさに地獄の鬼のような凶悪な表情が浮かんでいた。



 活発で明るく、一緒にいるだけで元気の出る我が主人。


 時には年相応に甘えてくれる、愛らしい一人の女の子



 その影は、もうどこにもない。


 恐れ多くも、娘のように思っていたマリナスの姿は、どこにも————



「マリナス様……どうして————」



 テレシーの必死の呼びかけは、もはや彼女の心に届くことはなかった。



 マリナスの血に濡れた拳が、最後に残ったテレシーにもその牙を剥く。


 凄まじい爆発音が、王宮に響き渡った。

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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