第105話 全部無駄なら、壊しちゃえばいいんだ
「その女を犯しなさい」
その瞬間、男達の目の色が明らかに変わる。
まるで獲物を見つけた野獣のような、底知れぬ欲望に満ちた視線が私に突き刺さった。
哀れもない姿となった私を見つめるその眼光は、人間のものとは思えないほど邪悪で残忍だった。
全身に鳥肌が立ち、恐怖で体が硬直する。
心臓が異常なほど激しく鼓動した。
「い、いや……いやああああっ!!」
私は必死に這いつくばりながら、なんとか彼らから逃げ回ろうとする。
床に膝をつき、血だらけの手で必死に前進しようと試みた。
扉に体を激しくぶつけながら、なんとか外の世界に逃れられないかと藁にもすがる思いで扉を叩く。
しかし、扉は固く閉ざされており、私の弱々しい力では開くことはない。
逃げる場所は、どこにもなかった。
「やめろおおおおおっ!」
テレシーが怒声を上げる。
その声には、主君を護れない無力感と絶望的な怒りが込められていた。
しかし、フォックスにがっちりと拘束されており、身動きを取ることは全く不可能な状態だった。
「大人しくしろ!」
「きゃああっ!!」
巨漢の男に羽交い締めにされ、私の体は完全に自由を奪われる。
必死に足で蹴り上げ、なんとか引き剥がそうと抵抗するが、びくともしない。
筋骨隆々とした腕が私の体を拘束し、どんなに暴れても逃れることはできなかった。
そして、体を触られる。
男の手を通して、嫌悪感が私に流入してきた。
気持ち悪い……!
気持ち悪い…………!
この世のものとは思えないほどの不快感が、全身を駆け巡る。
必死に抵抗しようとするが、複数の男達によって両手両足、体の全てを完全に掴まれてしまう。
がっちりとした手が私の四肢を押さえつけ、もはや身動き一つ取ることができない。
「助けて! お願いします! 許してください!」
私は恐怖に耐えられなくなり、ヴィオレッタに乞う。
この地獄から逃れたいという本能的な願いだけが私を突き動かしていた。
だが、ヴィオレッタは私を見下すような冷酷な視線を向けるだけで、一片の慈悲も示していなかった。
「マリナス……あなたはもう終わったのよ」
ここにきて、刺々しい物言いではなくなっていた。
彼女の口調は刺々しいものから変化していた。
今度は単純な蔑みと軽蔑に満ちた、まるで愚かな子供を諭すかのような調子だった。
私に全てを諦めさせ、絶望の底に沈ませようとする————
「王宮内でこそこそ動いてたり、冒険者になったり————色々足掻いてたけど、全部無駄だったわね。あなたが努力したって、なんの意味もないのよ」
努力なんて無駄。
努力なんて意味がない。
どんなに頑張ったところで、なんの意味もない虚しい足掻きに過ぎない。
ヴィオレッタは冷酷な現実を私に突きつけ、これまでの全てを否定しようとする。
そんなわけない。
私が頑張ったから、勇者に認められた。
頑張ったから、グランドクエストをクリアできた。
頑張ったから————
頑張ったのに————
その努力の成果は、今この時、なんの役にも立たない。
「クセルの娘に生まれたことを後悔するのね」
そして、ヴィオレッタの顔は見えなくなる。
目の前に映るのは、下卑た男達の笑顔のみとなった。
クロと鍛錬した日々。
二人で成長し、勇者に認められた日。
グランドクエストをクリアした時の達成感。
私にも何かができるという自信。
ちゃんと努力すれば、全て報われるという希望。
これから、この国を引っ張っていくんだという王女としての矜持。
その全てが、焼けるように黒ずんでいく。
全部無駄だ。
努力したって意味がない。
頑張ったって、私には何も為すことなどできない。
所詮、この世は運と才能。
私が、クセルお母様の娘として生まれてきたから、私の人生は詰んでいた————
そう思った瞬間、何かがちぎれた。
感情もがなくなり、心が完全に無と化した。
自分自身の体を、手放すかのように。
もういい。
もういいじゃないか。
積み上げてきたもの。
どうせ、全てが無駄になるなら。
全部————壊れちゃえばいいんだ。
「やっちゃえ……お兄ちゃん————」
その瞬間、意識が途切れた。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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