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第104話 逃げられないなら、屈辱に耐えるしかないじゃない

「うああああああっ……ああああっ!!」



 一瞬何が起こったのか、全く理解することができなかった。

 時が止まったかのような感覚の中で、現実が徐々に意識に浸透していく。


 だが、疑いようのない現実として、私の右肩には冷たい金属の感触を残すナイフが深々と突き刺さっていた。



「マリナス様!!」



 テレシーが悲痛の声を上げる。


 ヴィオレッタが躊躇なくナイフを引き抜くと、傷口から鮮やかな赤い血液がポタポタと絨毯の上に滴り落ちた。

 私は肩を押さえ、痛みに耐えかねて身を小さく縮こませた。



 痛い————


 刺し傷の周辺が焼けるように熱を持ち、脈打っている。



 患部を必死に押さえた左手は、既にべっとりと血に染まり、指の間からも赤い雫が零れ落ちていく。

 生暖かい血液の感触が、現実の残酷さを嫌というほど思い知らせた。


 そして、見上げた先には、ヴィオレッタの悪魔のような目。

 そこには人間らしい温かみは微塵もなく、明らかに私の命を奪おうとする狂気が宿っている。


 だが、すぐに追撃が来ることはなかった。



「まあ、ただで殺すのも面白くないわね。ほら、ちょっと————」



 彼女は優雅に手を叩いて、隠れていた何者かを呼び寄せる。


 すると、部屋の奥から荒くれ者の冒険者達が、まるで地獄から這い出てきた悪鬼のように姿を現した。

 全員がニヤニヤと下品な笑みを浮かべており、薄暗い室内でその表情がぼんやりと浮かび上がっている。


 全身に氷のような恐怖が走る。


 ヴィオレッタは私の方を優雅に指差すと、悪魔的な微笑みを浮かべながら冷酷な命令を下す。



「その女の髪を切り裂いてあげなさい」



 ヴィオレッタの指示が下されると同時に、男達が一斉に私に襲いかかってきた。

 複数の乱暴な手が私の体を掴み、完全に身動きを封じられる。


 言いようのない恐怖が私の心を支配した。


 私は髪を乱暴に鷲掴みにされ、頭皮が引きちぎられそうなほど強く上に引っ張り上げられる。

 美しく手入れされていた髪が、野蛮な手によって無慈悲に扱われていく。



「ああっ!」



 壮絶な痛みが頭皮全体を襲い、涙が自然と溢れ出す。

 そして、冒険者の一人が無造作に剣を引き抜くと、私の自慢だった長い髪を容赦なく薙ぎ払った。


 長く綺麗な私の髪は、あっけなく切られ、ゴミのように捨てられた。


 恐怖と屈辱————この二つの暗い感情が胸の奥深くで絡み合い、私の心を蝕んでいく。

 無造作にばら撒かれた私自身の髪の毛を見つめながら、込み上げてくる涙を必死に堪えようとした。



 今は耐えるしかない————


 耐え忍んで、逃げるチャンスを探らなければ————



 その時、どこからかチャリンという小さな金属音が響いた。



「あら、何か落としてしまったわ」



 それは私の目の前まで転がってくる。床の埃にまみれながらも、金属特有の鈍い光を放っていた。

 よく見ると、確かに鍵のような形状をしている。


 まさか————これは手錠の鍵なのではないか。


 チャンスだ。

 手錠さえなければ、きっと逃げられる

 冒険者として鍛錬してきた今の私なら、腕が自由になりさえすれば、抵抗できる。



 私は希望に駆られて反射的にその鍵に飛びつき、震える手で手錠の鍵穴に差し込もうと試みる。


 だが、期待に反して、その鍵は手錠の穴に入ることはなかった。



「逃すわけないでしょ!」


「ぐうっ!!」



 突然、ヴィオレッタの鋭い蹴りが私の脇腹に炸裂し、私は部屋の床を無様に転がった。

 床の冷たさが頬に伝わり、惨めな自分の状況を嫌というほど実感させられた。



「それは部屋の鍵よ。本当に逃げられるとでもおもったのかしら。惨めねえ」



 扇で口元を抑えながら、彼女は笑う。


 弄ばれたのだ。

 希望をちらつかせ、逃げられるのではないかと思わせて。

 心が折れそうになった。


 そして、ヴィオレッタは次の指示を冒険者達に与えるのだった。



「次は————その服を切り裂いてやりなさい」



 ゲヘヘ、と下卑た笑い声を響かせながら、男達が再び私に近づいてくる。



 嫌だ————


 このドレスは、お母様からいただいた大切なもの。

 いつも使用人達が私のために丁寧に手入れをしてくれている、私達の絆の証なのだ。


 これを着るだけで、素敵な気持ちになれる、特別なドレス————



「やめて! やめてよ!」


「お嬢様!」



 必死の叫びも虚しく、大切なお母様のドレスが男達の荒い手によって無慈悲に引きちぎられた。


 繊細で美しい装飾も、全て容赦なく破り捨てられる。

 なめらかで上質な生地も、優雅で華やかなレースも、全てが台無しにされてしまった。


 まるで私が嫌がり苦しむ様子を心から味わっているかのように、男達はますます下品な笑顔を浮かべていた。


 やがて、私は美しいドレスのほとんどを無残に切り裂かれ、見るも哀れな姿となってしまった。

 冷たい空気が肌を刺し、身を守るものは何も残されていない。



 涙が止まらなかった。


 悔しい……悔しい————

 まさに地獄の最下層に突き落とされたような絶望感だった。



 いつまでこの悪夢が続くのだろうか。

 私は、この地獄のような場所から逃げ出すことができるのだろうか。


 果てしない恐怖と屈辱が、私の心を氷のように冷たく凍らせていく。


 温かい感情は全て奪われ、ただ絶望だけが残されている。



 そして、扇を優雅に振りながら、ヴィオレッタが口を開く。



「最後に仕上げよ」



 手に持った扇を私の方に指し示し、最後の指令を冒険者達に出す。

 その時の、彼女の顔は、今までで一番醜悪に歪んでいた。



「その女を犯しなさい」




読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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