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第102話 裏で糸を引いているなら、そいつが黒幕じゃない

「ヴィオレッタ・レーヴェンシュタイン……!」



 名前を呼ばれた彼女はただ、薄い笑みを口元に浮かべていた。

 その微笑みは、見る者の心を凍らせるに十分な威圧感を放っている。



 公爵家————レーヴェンシュタイン家当主、ヴィオレッタ・レーヴェンシュタイン。

 レーヴェンシュタイン家は、代々受け継がれてきた莫大な資産と揺るぎない政治的影響力により、貴族社会の頂点に君臨し続けている。


 その中でも当主である彼女は、宰相として国王の側近を務め、政治、財政、外交と国の要を牛耳っている女傑。


 そして、クセルお母様とその娘である私を————憎んでいる。



「穢らわしい獣が吠えている姿を見るのは、不快だわ」


「ちっ……いいところなのによぉ。邪魔すんじゃねえよ雇い主様よぉ」



 フォックスは苛立ちを隠そうともせず、ヴィオレッタに向かって抗議の声を上げた。

 血走った目と、握られた拳は未だ、私の方に向けられている。



「こいつらを殺したら金をくれるんだろ? さっさとやらせてくれよ〜!」


「聞き分けのない獣だこと————今回あなたに命じたのは、王女マリナスとその使用人の捕縛にすぎない。これ以上、出過ぎた真似をするようだったら————殺すわよ」



 ピリピリと、部屋中の空気が張り詰める。

 まさに一触即発、誰かが僅かでも動けば血が流れるであろう、爆弾のような緊張感が室内を支配していた。


 やがて————フォックスは忌々しげに舌打ちをしながらも、振りかぶっていた手をゆっくりと下ろす。

 彼女は扇で口を押さえながら、冷たい視線を投げかけていた。



「————やはり、全てあなたが裏で糸を引いていたということですね……」



 咳き込みながら、テレシーが口を開いた。


 裏で糸を引いていた————この人が……?


 いや、もはや意外なことでもない。

 私自身も薄々と、この人が黒幕なのではないかと、疑っていたのだ。


 テレシーがギロリとヴィオレッタの方を睨みながら、話を続ける。



「マリナス様、そしてクセル様の立場が疎ましく思ったあなたは、なんとかこの二人を排除しようと目論んだ。別邸にいるクセル様を襲うのは難しいために、まずターゲットになったのはマリナス様ですね……?」



 物心ついた時から、私はこの人に嫌われていた。

 子供ながらに、嫌われていることが分かっていた。


 その理由は、自分がつくはずだった王妃の座を、私達が奪ったと思っているから。

 本来ならヴィオレッタが王妃となり、彼女の娘————リゼッタが王女となるはずだった。


 王女という他貴族とは一線を画す存在が、自分の手元にないということは、彼女にとって気に食わないことであったのだ。


 ヴィオレッタは未だ表情を変えず、黙ったままでそこに座っている。



「そこの冒険者はあなたのことを雇い主だと言っていた。この男を使って、マリナス様を襲わせたのは間違いないでしょう。そして————王宮で毒が盛られたあの騒ぎ。王宮内であんなことができるのは、他の貴族達をコントロールできるあなたしかいません」



 フォックスに騙され、殺されそうになった時、彼は言っていた。



『あんたに何をしてもなんの罪にも問われない。そう契約してるのさ』



 つまり、それはヴィオレッタとの契約。

 報酬を用意して、私を襲わせたということなのだろう。



 そして、グランドクエスト直前に毒を盛られた事件。

 生死の境を彷徨わせるほどの劇毒が、何者かによって私の食事に混入されていた。


 最初は王宮内で陰湿な嫌がらせを繰り返していた反王妃派の令嬢達の仕業かと思っていた。

 確かに彼女達は私を憎んでいたが、所詮は口先だけ。

 毒を盛るという命に関わる暴挙に出るだけの胆力も覚悟も、彼女達には備わっていない。


 本当は、そうした表面的な対立に巧妙に隠れて、ヴィオレッタが周到に仕組んだ暗殺計画だったのだ。


 宮廷の人間関係を熟知している彼女が、周りの貴族達や使用人達を意のままに操り、巧妙に張り巡らせた罠————



「————あなたはそこまでして、権力が欲しいのですか!?」



 テレシーは声を荒げて、ヴィオレッタを糾弾した。


 ヴィオレッタの目が一瞬、鋭く細められる。

 私は黙ったまま、彼女の姿を見つめ続けた。


 一歩間違えば、王国への反逆罪に問われても何ら不思議ではない重大な犯罪行為。

 それは断頭台への道に直結する、取り返しのつかない破滅への選択だ。


 そこまでのリスクを冒してでも、なぜ王妃、王女という王室の座にここまで執着し続けるのか……?


 心の中で渦巻く問いに、答えは返ってこない。


 ただ、この紫のドレスに身を包んだ美貌の令嬢は、あたかもこれらの行為が当然であるかのように、堂々と振る舞い続けていた。



「————ふん、甘いわね」



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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