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Lovers Ⅱ 真愛の章

作者: AI
掲載日:2010/03/11

「真~マナ リーダー貸してくり。」



ふらっと 教室に現れた ケン


教室内の女子達が ざわめく



「落書きしないでよっ」



バシッ と 



わたしは 賢を見上げながら その胸に 軽く叩きつける。



「わかってるよ んなの しねえよ サンキュ。」



ほとんど 1分も居ない


すぐに賢は自分の教室に戻っていく。



「いいな~ 真愛  賢と気軽にしゃべれてぇ。」


後ろの席の 亜矢は 賢が顔を出すたびに こんな風に言う。


「別に 教科書借りに来るだけだし・・・


第一 あいつは 彼女いるし。」



そうだ 賢は ひとつ 年上の彼女がいる。


賢は 彼女が 好きで 好きで どうしても 傍に居たくて ここに進学したのだ。


入学してから 数週間後 賢はみごと彼女のハートをつかんだ。



中学の頃から めきめきと身長を伸ばしたあいつは


小6の時は 私と同じくらいだったのに 



今では15センチも差がついてしまった。


きっと 180センチ近いだろう・・・




美しい彼女がいるのにも関わらず


その甘い マスクと 飾らない性格で 女子の人気は高い。




もともと 賢の偏差値ではちょっと無理目だったのを


幼馴染の私に 泣きついてきて 猛勉強をはじめたのが 受験の半年前




「絶対 恵さんと 同じ高校に行きたいんだ。 頼む 真愛っ」



賢の家は あまり裕福ではなく 母一人 子一人の母子家庭だったため


塾や家庭教師なんてものは 無理な話だった。



もともと 恵さんと同じ高校を 希望していた 私に 隣に住んでいるからと言って 頼んでくる方も頼んでくる方であるが



引き受けた私も そうとう バカだ。


賢が 好き



それだけで 偏差値71の 私は おバカになるのだ。





「真愛 助かった どうもな。」


授業が終わって 教科書を返しに来るときも あっさりしたもの


用事のある時しか 賢は 私の前に現れない。




パラパラ・・・



「・・・やっぱり また 描いてるじゃん。」


リーダーの文中の登場人物の ハリスに 頬紅と 髭が描かれている。



賢は 自分の教科書も落書きだらけだが



人の教科書も同じに扱う。




シャーペンで描かれているのだから 消せばいいのだが


バカな わたしは いつまでも消せず 


逆に何度も 開いて 見てしまう・・・


放課後 玄関を出ると グラウンドから 賢の声



どうして 聞き分けてしまうのか・・・ 自分でも嫌になる。




見なければいいのに 私の体は言うことを利かず


次の瞬間 




サッカー部のマネージャーをしている恵さんと 話している 賢を見つけてしまう




賢はもともと野球を やっていたはずだった。




だのに 恵さんが マネージャーをしていると知り サッカーに転向


持ち前の運動神経の良さで 最近はかなり さまにはなっている


でも 当然 一年生ということもあり まだまだレギュラーには選ばれない。





「あ 真愛 ちょっと待て。」


賢に 見つかってしまい 思わず首をすくめる。




いつも 賢の姿を目で追っていることを 私はあまり 知られたくはなかった。



「何? もう 帰るんだけど・・・」


いつも 賢にたいしてとる 私の態度。




「悪い 後で 取りに行くからさ 帰りにクリーニング屋寄ってくれね? 


明日 母さんが 着てくからって 引き取りに行くの頼まれてたんだ。


俺 店が閉まるまでに帰れるかどうか わかんないしさ。」




埃だらけのスポーツバックから 賢が クリーニングの引き換え券を取り出す。



「え~~ 沢山あるじゃん 重たそう・・・」


「悪い こんど 昼おごるから。」


懇願して 手を合わせるが 賢は私がいつも断らないことを知ってて頼んでくるのだ。




「賢 ドリブルの練習! 急いで。」


「今 行く。ま~な 頼むよ この通り。」


「・・・わかった  ちゃんと忘れず取りに来てよ こっちからは持っていかないからね。」



「おう サンキュッ!」




・・・本当に バカだ 私。



引き取ったのは 賢のおばさんの グレーのスーツ とブラウス 賢のYシャツ3枚 


マナー研究家の 賢のおばさんは 時々地方に講演や 研修会をしにいく。


肩に 衣類をかけながら 皺が寄らないように 


持ち帰る。



「ただいま~。」



「あら それ どうしたの?」



「うん 賢のとこの クリーニング引き取り 頼まれたの。 後で取りに来るって。」



「そう しわにならないように かけときなさい。


じゃあ これ すこし賢ちゃんが取りに来たときに おすそ分けしてちょうだい。」



母は 炊飯器の蓋をあけて 釜いっぱいに炊けた炊き込みご飯を 見せた。



「どうしたの・・・こんなに」


「たけのこ 沢山 頂いてね。 久しぶりに作ってみたのよ。


母さんと父さん これから 出かけるからさ

 

今晩はあんた一人にさせちゃうし  あしたの分もと思って 炊いたのよ。」




そういえば 父と母は今晩から近くの温泉旅行に行くと行っていたかもしれない。


商店街の旅行なので それぞれの店を早めに閉めて 6時ころに 出るのだ。



「それにしても 作りすぎだよ・・・」



「だから 賢ちゃんに少し持っていって 貰いなって じゃあ 火の元と戸締りには気をつけてね。


もう 父さんったら 気が早いから 先に行ってるんだよ。」


あわただしく 母が玄関に向かう。


「母さんも 気をつけてね。」




一人 居間に残ったわたしは


いつもの部屋着を着ようとして ふと手を止める。



(今日は 賢が来るんだ・・・)



高校に入ってから 賢がうちにくるのは 初めてである。



受験の時は ほぼ毎日のように どちらかの家に行っていたのに・・・




受かれば 用なし



それは わかっていた。





賢のおばさんからは


「真愛ちゃんのおかげで いい学校に入ることが出来た。」


と すごく感謝されて


素敵な 通学用の革靴を買ってもらったりもした。 




「真愛 さんきゅ 本当に助かった~。」



賢だって 感謝はしてくれたのだけど それだけである。




別に わたしだって これくらいのことで 恵さんまっしぐらに 受験勉強に励んだ賢が


私を好きになってくれるとは思わない・・・



だけど


いつものよれよれのスウェットの上下じゃなくて



薄い ニットのワンピースを手に取った。



ひざ上10センチ ぎりぎり いやらしくない長さ



クリーム色で女の子らしい それを買ったのは 先月 秋物が出始めた頃だった。



「あら めずらしいわね。」


「いいじゃん 別に 着るよ 私だって!」



めったにスカートを履かない私が ワンピースなど買ったものだから


母にそんな風にからかわれ


まだ 一度も袖を通さずに たんすの奥にしまっていたのである。



実際に着てみて


意外と 体のラインがはっきり 出てしまうことに驚き 


羞恥心に体が熱くなる



(駄目だ こんなの 着て 賢の前には出られない・・・


絶対 バカにする


そうだよ・・・  受験勉強教えていたときだって いつものスウェットだったじゃないの)


脱ごうとして裾を持ち上げたが 途中で 何かに引っかかる。



「あ あれ・・・? ブラに引っかかったかな・・・


ニットなんて 着慣れないから・・・


んっと  と 取れない~~ッ」




ピンポ~ン



「え・・・もう 賢来たの? は 早くないっ?!」



あわてるが なかなか 外れず 焦った手も汗ばんできた。



ガチャ



「真愛~? いないのか・・・入るぞ。」



(え・・・ 母さんったら  戸締り気をつけるように言っといて 自分がかけていってないじゃないの~~~)



「ま~な クリーニング取りに来たぞ~。」



勝手しったる 私の家に 賢は遠慮なく どんどん入ってくる。


「真愛 寝てんのかよっ!」


「ちょっ 待って!」


ギッ



「真・・・ 」


「賢っ 何で勝手に入ってくんの 馬鹿っ あっち向いてよっ!」


半泣きで 焦る 私に 一向に ぼーっと突っ立ったまま 賢は動かない。




「俺が来るからって そこまで サービスしてくれなくてもいいのに・・・」


「はあ? 何言って・・・ ちょっと こっち 来ないでよ!」



「ま~な お尻 でかくなったね くすっ」


「け~ん 馬鹿! あっちいけ~~!」



「どら 俺が取ってやる 暴れるな・・・」


「いい 自分で外すから・・・・・嫌だ 恥ずかしいっ」


「遠慮するなって ニットだから 丁寧に取らないと 編み目に穴が開くだろ?」


賢の手が私のお腹に回って 


ぐぃっと 引き寄せられる。



「キャッ」



ポスン・・・


そのまま わたしの育ったお尻は 賢に抱きかかえられたまま 一緒にベッドに腰掛けた形になった。



「ちょっとの間 動くなよ。」


「・・・・・」


諦めて 私は 少し 素直に 賢に従うことにした。



賢の太ももは意外としまっていて ぷにょぷにょの私の太ももをしっかりと支えている。


背中や首筋に 時々賢の息がかかって くすぐったい。



「・・・よし 取れたぞ」


するする 


賢はワンピースを下ろしてくれた。


「・・・ありがと。」


「どういたしまして。」



「賢・・・」


「何?」


「腰に回した手 


どけてくれないと 立てないんですけど。」


「あ ああ ごめんごめん 抱き心地良かったから~ くすっ」


やっと賢の膝から解放された私は


勢いよく 立ち上がり



「クリーニング 下にかけてあるから。」


と 部屋を出た。


結局 ニットのワンピース姿どころか ショーツ姿まで見せてしまって 


私は早く 賢に帰ってほしかった。



「ああ 重かっただろ 悪かったな。」



賢も私の後について 階段を下りる。



「はい これっ!」


あまり 賢と視線を合わさずに スーツやシャツを渡す。



「おう ・・・なんか すっげえ いいにおいするよな~ 今日の おまえんち。」




「あ・・・炊き込みご飯・・・」



すっかり 忘れていたが 賢にお裾分けするよう 言われていた。



「いま パックに詰めるから もっていって。」



釜をぱっかりあけると なんともいえない香りが



「おおっ すっげえ うまそうっ」



ぎゅるぎゅる~~~ 


ふたりのお腹が  同時になった



「真愛 今 食いたいよ~~っ」


「何 言ってるのよ 隣でしょ あんたんち。」


「いいじゃん 帰っても 一人だし おまえんちも 今日 いないみたいだし 一緒に今食おうぜ。」



二人っきりで 炊き込みご飯とたくあん そして 玄米茶の簡単な夕食。



「うまぃ~~ うまいよ 真愛。」


「良かったね。 くすっ」



賢は5回も おかわりして 6杯目は 


「やっぱ やめとこう 他人家よそんちだから・・・」


と今更ながらに 手を引っ込めた。



食べ終わって 茶碗を片付けている時  


突然 賢は


「真愛さ・・・ 今週の土曜日 空いてる?」


と 聞いてきた。


 

どきっ!



「何? また 勉強? テストは終わったばかりじゃん。」


ちょっと 声がうわずってしまっただろうか・・・?




「いや そうじゃなくてさ。」


照れくさそうに 鼻をかく 賢。



どきどきどきどき




「じゃあ・・・何?」


早く確かめたくて 先を促す 私・・・



「なんだよ そんな うさんくさそうに 見られると 言いづらいだろ?


サッカーのさ・・・ 練習試合を 土曜日 N校とするんだ。



そん時 補欠だけど ちょこっとだけ  もしかしたら 出させてもらえんじゃね? と思って・・・」



「・・・ふ~ん」



(お昼おごる約束をしてたし・・・ 


デートとまでは行かなくても  さ


ちょっと 期待しちゃったじゃん・・・)



「あれ? 俺じゃ 無理だと思ってるっしょ?


失礼じゃね?


これでも 結構 はじめたばかりにしては 勘がいいって 褒められてんのよ。」



「じゃあ 一応 場所と時間 聞いとくよ・・・行けるかどうか わかんないけど。」


「つれないな~ 店番か? たまに土曜日 さぼらせてもらえよ。」



うちは 喫茶店をしているのだが 土・日は私も手伝うことが多い。



「う~ん 忙しかったら 抜けづらいからさ 暇だったら 行くって。」


「暇になれ~ 暇になれ~」


「なんだとっ こらっ」


ペシッ


賢のおでこを 張った。


「ふん・・・ やっと おまえらしくなったか。」


「はあ? なに 私らしいって?」


賢は上から下まで



「おまえが女の子っぽいと 調子狂うんだよ! バーカッ」



「な なによ! 


調子狂うって そっちの 方が よっぽど 失礼じゃん!


早く 帰れっ  今日は 私 ひとりなんだから いつまでも いるなっ!」



「ああ そうかいっ 帰りますっ


せっかく 女の子ひとりで 心細そうだから しばらく居てやっかなと 思ったけど


必要ありませんでしたね!? じゃ~な。」


どかどかどか


「ちょっと賢!」


「あんだよ?! やっぱ 居てほしいのか?」


あきれたように振り向く顔に


ボフッ


「クリーニング 忘れんなっ。」


「ぐっ・・・ ったく やっぱ かわいくね。」


バタンッ


「・・・・・バカ。」



そのまま ベッドに直行  



抱き枕を ぎっと抱きしめて 顔を押し付けた。



もう 嫌だ・・・・・



賢にとって 私なんて 恋愛対象として ありえないのだろう


ショーツ姿も平気だし


抱きかかえて  セーターを外すのも 躊躇ない




私ひとりが 破裂しそうに ドキドキして なんて 滑稽なんだろう・・・



そして 平気で 彼女と触れ合う 場面を 見に来いと言えるのだ。


「ぐずっ・・・」


愛用の抱き枕が 十分しっとりした頃 やっと 泣きやんだ私は


お風呂に 入るため身を起こした。



うちの 店舗は 1Fに あって  基本的に2Fは 母屋


でも 洗面所と お風呂だけは 1Fにあるのだ。



ザーッ・・・


お湯の流れ落ちる音が いやに響く




いつもなら まだ 父や母が 店を開いている時間だから 


有線の音楽が聞こえたり 父が料理を作る音が聞こえたりするのに



今日は シャッターを下ろしているため 外の音も あまり聞こえなかった。


(この辺に くるっと 賢の腕が・・・)


素肌にまだ感触が残っているようで また心臓がドキドキしてきた。





{ま~な お尻 でかくなったね くすっ}




鏡に映った 自分のヒップ



たしかに ポムッと ふくらんで 



ここまで大きくなってしまってはどうにも隠しようがない・・・




賢は野球から サッカーに変わったからか


最近とくに走りこんでいて 体が引き締まってきている。


膝の上に乗った時の 筋肉の張り方の違いを思い出して 自己嫌悪に陥ってしまう・・・



ガチャ カチャ ゴッ


「え? お父さん達 帰ってきたの・・・・・」


店裏のドアから 音が聞こえる。



ガツッ ガチャ ガチャ


(どうして ドアでこんなに手こずってるんだろ・・・ 父さん達じゃないの?)



ガシャン・・・・・


バリ バリ バリ・・・


(え え? 

ガラス割られた? 

も もしかして 強盗!? 

よりによって 私一人の時に・・・)


浴槽の中で 身を縮ませて 真愛は震え上がった。



(どうしよう・・・どうしよう・・・)



ガタッ ガタガタ・・・



どこを漁っているのか 引き出しなどを乱暴に開ける音が聞こえてきた。


(怖い・・・ 見つかったらどうしよう・・・)



ギシ ギシ ギシ・・・


やがて 侵入者は 二階に上がっていったようだった。


(い 今の内に に 逃げなきゃ・・・)


真愛は震える指で さっと体を拭くと 


外に逃げるため パジャマを避けて 


しかたなく また ニットのワンピースに首を通した。




ガツ ガツ ガツ



自分の部屋の辺りを 靴のまま歩いている音がする。



真愛はとにかく 相手が二階にいる内にと 玄関に向かった。


玄関のドアの曇りガラスは 無残に割られており 


割れたガラスが 玄関に広がっているようだった。


真愛は とにかく 一刻も早く 脱出することだけを考えて 明かりもつけずに サンダルを履いて 外にでる


「アッツ」


ガラスの破片が サンダルにあったらしく 足の裏に ちくっとした痛みが走る。



だが 立ち止まっている方が怖くて 真愛は 賢の家に足をひきながら走った。


  

「はい・・・何?」


賢は 眠そうな顔で 玄関のドアを開けた。



朝練をしているので 早く寝る習慣がついているのだろう・・・



「賢 ごめん うちに 誰かが無断にはいってる!」


「はあ? 嘘 強盗?」



「わ わかんない い いま 私の部屋にいると思う・・・」


「とにかく 入れ 警察呼ぼう!」


「あぅっ・・・」


グッと 腕を引かれ  深く ガラスが突き刺さったようだった。


「どうした! 怪我してるのか?」


賢の顔がにわかに険しくなって 私を覗き込む。


「う うん 足の指に きっと ガラスが・・・」


ぐあっ


「え ええ ?」


「暴れんなっ ますます 重たくなるだろ・・・」


「な 何よ・・・ひやっ 高っ」


私はいつのまにか 賢にお姫様抱っこされていて


そのあまりの高さに 怖くて 思わず賢の首にしがみつく。


「真愛 おい 離せ 降ろせないだろっ


それとも もう少し抱っこしてもらいたいのか?」



「あ・・・ ごめん。」


腕を緩めた私は そっとソファに降ろされ


賢は すぐに電話で警察を呼んだ。


「真愛 どっちの足だ?」


「あ いいよ 自分で取るから


この辺かな あ 血でてる・・・」


「どら 俺が取ってやる。」


「いいの ピンセットある?」


「いいからっ」


ひょいと 私の足が 持ち上げられ ひざまづいた賢の目の高さまで持ち上げられた。


「ちょ ちょっと 賢~~。」


「大人しくしてろ・・・ここだな。」


わたしは 持ち上げられたことによって スカートが捲れたのにあわてていたが


どうやら 賢は 私の右足の小指に集中しているようだった。


「血が出てて よく わからないな・・・ ちょっと くすぐったいかもしれないけど


暴れんなよ。」


パクッ


「ひゃあああああアッ!」


「ん・・んん 取れた。」


血と共に 賢はガラス片を取ったのか ティッシュに吐き出したようだった。


ピンポーン!


「あ 警察かな ちょっと そこで待ってろ。」


「・・・・・」


今されたことに対するショックで 固まったまま動けない。


「はい そうです。


今 僕のうちに避難してます。


あ ちょっと待ってください。」


賢は すぐ玄関から もどってきて


「女子高生の生足・・・オッサン達には刺激が強すぎるからな


これ掛けて置け 


いま警察の方で 状況を聞きたいそうだ。」


と 毛布をだして 私のひざに被せた。


(・・・なによ やっぱり 

見てないふりして


しっかり賢も見てたんじゃん)


真愛


「お風呂に入っている時に・・・

玄関の方で物音がしたんですね?


お風呂に入りはじめた時間は?」


「えっと 9時くらいかな・・・」


「はい  1時間半前?  ずいぶん長風呂だね・・・


どうやったら そんなに 時間かかるのかね?」



「え べ 別に 頭洗って 体あらって 暖まって・・・」


しどろもどろに 私が答えていると賢が


「女の子はそれくらい普通でしょ?

関係ない質問はセクハラになりますよ。」


切り捨てるように言い放った。



「あ いや 別に・・・何か他の事をしていたりするんじゃないかと思ってね。」



「ホシが確保されました!」


「あ~ わかった。 いや では これで 


また お伺いするかもしれません。


それから 今日は 貴重品だけもって こちらに泊まらせて頂いたほうがいいですよ


玄関の窓ガラスが 壊れていますからね。」


そう言って 警察の人々は去っていった。


「とりあえず・・・父さんに電話してみる。」


「ああ お前の布団しいといてやる。」


「ありがとう。」



だが 父の携帯も 母の携帯も 温泉に入っているのか 酔ってもう休んでしまったのか


どちらも出てはくれなかった。



「連絡ついたか?」


「ううん・・・ ごめんね。 私とりあえず 貴重品とりに行って来る。」


「ちょっとまて 足消毒してやるから それから 一緒に行こう。」


「大丈夫だよ こんなのたいしたことないから。」


「だめだ 化膿すると 歩くの辛いぞ。」



「わかった・・・」



賢は消毒をしたあと 薬まで塗って 絆創膏を貼ってくれた。



「ありがとう 賢。」


「歩けるか? 真愛。」



刺さったのは小指だったので 親指側に重心をかけて歩けば  


さほど気にならなかった。


「よし 痛かったら 言えよ。 またおんぶでもしてやるから。」



賢は先に立って 玄関を出た。



改めて 頼もしいな・・・と思う。



「・・・なんだか 今日は 紳士だね 賢。」


「いつもだろ?」


「紳士は いきなり 足の指を咥えたりしないよ。」


すると 賢は一度立ち止まって


「ピンセットなんかでやったって ますます ガラス片が奥に刺さっていくだけだろ?


あれが一番いいんだよ。」


とちょっとむきになって言う。


「うん 賢がいてくれて良かった。」



私もなんだか 今日は素直だ・・・



「またガラス踏まないよう 気をつけろよ。」


「うん。」


私と賢はお店の奥の金庫から 手提げ金庫を取り出し 


ついでに賢に二階の抱き枕ちゃんを取りに行ってもらった。


「ん・・・」


賢がポケットから 携帯を出す。


「あ うん 大丈夫 うん   うん。」


どうやら 恵先輩からのようだ・・・



「ああ そうだった ごめん うん だよね ハハハ」



ズキズキ・・・



賢 楽しそう



やっぱり 私は隣の 幼馴染で



賢の恋人は 恵さん



その関係がかわることはないんだ・・・




「それがさ さっき 真愛の家に強盗入ってさ うん そう すっげえびっくりした。」



はっと 賢の方をみて あわてて やめるよう 手で合図する。


賢は眉をひそめて (何だよ?)


という顔


「うん そう 警察きてさ 真愛んち 親 留守だし 玄関のガラス割られちゃって 今 お・・・」


携帯を取り上げた


「なにすんだよ?!」


気色ばむ 賢に 携帯を抑えて


「あたしが泊まりに来てる事知ったら 恵さん 誤解するでしょ?!」


「ハァ? 何だよ なわけないだろ

ありえんし  ばか かえせ っこら。」


「・・・ あ あんたは 女の子の気持ちわかってないっ!」




自分でもどうにも 感情がコントロールできなくて


私はボロボロ涙が出てきて止まらなくなってしまった・・・




「真愛?」


私は無言で携帯を賢の胸に押し付けるように返し



「恵さんが もし勘違いしても・・・私が いつでも  説明する


だけど・・・ 余計なこと 言って  不安にさせるのは  やめなよ。」



「・・・あ ああ わかったよ。」



賢は 再度 恵さんにかけなおすようだったので



わたしは 先に賢の家にもどり  



賢の家に入った。



「失礼します・・・」



もう一度 両親の携帯にかけてみたが 今度は電波が届かず・・・



しかたなく 先に休むことにした。



賢のおばさんは まだ帰ってなかったので もう少し起きていた方がいいかとも思ったが


なんとなく この後も 賢と顔をつき合わせている気になれなくて


洗面所を借りて 顔と歯を磨き 賢が布団を敷いてくれたであろう和室に向かった。



「あ 真愛 お前の 布団 そっちじゃないよ。俺の部屋だから。」


「・・・な 何で?」


「別にいいだろ? 和室 明日から 母さんまたしばらく 講演旅行にいくから その荷物広げてたからさ


動かすとわかんなくなるって うるさいから。」



「そ そうか・・・でも それなら わたし 居間で寝てもいいよ。」


「ここで? そんな スペースねえのは 見てわかるだろ?」




たしかに 賢の家は 狭く 居間には 洗濯機も食卓テーブルもテレビも置いてあり


去年うちの父さんが お下がりであげた 中古のパソコンまでもが場所をとっているために


ほとんど 横になって寝るようなスペースはなかった。



「じゃ じゃあ もうしわけないけど おばさんの部屋に・・・」



「だめ 母さん あしたからの講演にそなえて ゆっくり一人で休ませてやりたいから 

寝相の悪いお前は 行かせられない。」


「え~~ わ わたし そんなに 寝相悪くないよ?!」



すかさず 文句を言うと



「はあ? 誰の寝相が悪くないだって? 


冗談いうなっ  お前の隣に寝てて いままで 俺が いくつ 青あざつくったと思ってるんだ!」



「・・・そうなの? 知らんかった ごめん。」


「わかったら 素直についてこい。 間違っても 俺を 襲うなよ。」



「あたりまえでしょ?!」



なんとなく 話の流れで 私は 賢の部屋で 眠ることになった。



賢のベッドとL字になるよう  机の脇に敷かれた布団に入る。



賢とは頭を付き合わせるかっこうだ。



「よし もう 電気消して 寝るぞ。」



「うん おやすみ。」



そうだよね 賢の部屋に泊まったって なんの問題も 起こりっこない。


文字通り 泊まらせてもらうだけ



寝つきの良い賢はすぐに スースーと 寝息を立て


その 寝息を聞きながら わたしもいつしか眠りについた。


「真愛 おきろ。」


「・・・」


「真愛 俺 もう いくぞ 起きろ~」


「ん・・・」


「こいつは~~~」


ガバッ


「起きろ~!」


「うぅ 寒い~~」


「やっと 目が覚めたか  俺はもう 朝練 行くぞ  おまえ勝手にパン焼いて食っていけ 母さんは もう出たから。 

鍵しめたら 休み時間にでも 俺のところに持ってきてくれな。」


「え 賢 もう行くの?」


急に頭に血が回ってきて シャンとしてくる。


「ああ 朝練も 俺は一年だから 準備あるし 早めに行ってるんだ。」


「そうか ごめんね 起こしてくれて ありがとう。」


「携帯も着信あったみたいだぞ。 きっと おじさん達からだ。」


「メール見てくれたのかも。 ごめんね 賢 わたしのことは大丈夫だから 朝練行って。」


「足大丈夫か?」


「うん もうあまり痛くないかも。」


「俺が ちゃんとばい菌を吸い取ってやったからだぞ。」


「・・・賢の雑菌が入ってないようで良かったよ。」


「何だと?! こいつ~~ またくすぐってほしいのかッ」


「きゃっ うそ うそ 悪かったって はははっ」


「・・・襲うぞ こらっ」


ふと 賢が真顔になって 顔を近づけてきた。


「・・・は え?」


賢の顔が 息がかかるほど近い・・・


(キスされちゃう・・・?)


思わず固まってると


賢の唇は ぎりぎり 触れるか触れないかまできたところで すっと 横に流れていった。


ぎゅっ


「どうだ?これで動けないだろ~~ お前の一番弱い わき腹 くすぐり放題だな~」


「!? は 離してよっ」


「いいや 離さない。 さっき言った事 撤回しろッ」


「なによ さっき言った事って・・・」


ドキドキ


(賢とこんなに ぴったりくっついているのって 初めてだ・・・)


「さっき 言ってただろ 俺の雑菌がどうのって。


訂正して おわびしろ


賢様の お口で癒されて わたしめの 足の怪我は 快方に向かっております


ありがとう ございました だっ」


「・・・どもですっ」


「なんだ その礼のしかたはっ?!


「大げさなんだって もう ほら 朝練 行かないの?」


「言え~ほら 真愛 


賢さまのお口で  続けて。」


「もう  わかったよ 賢の口で。」


「賢さまの お口でだろ?」


「賢様のお口で・・・」


「わたくしめのふっとい足は」


「さっきと違うでしょ わたしの足は」



「快方にむかっております 感謝の気持ちに 私めのこの体 好きにしてよろしいですわ。」


「な なんで そんなに内容変わるのよっ?!」


「それぐらいしてもバチは当たらんぞ

ドクター賢の治療費は 高いのだ。」


「払えませ~ん 早く 朝練行けーっ。」


モミモミ!


「!?」


「しかたないから これくらいで 我慢しといてやるか。 よし じゃあな。」


「し しんじらん な い  む 胸 もんだ?」


「治療費 治療費。」


賢は そう言って 玄関に向かう。


「馬鹿―!」


ボムっ 


抱き枕を 投げつけたが もう すでに 賢は玄関を飛び出していた。



しかし まだまだ 朝早く 私が学校に行くのよりは2時間は早い。


私は お世話になった賢の家の 食器を洗い


掃除機をかけ


お礼のメモを書いてから 賢の家を出た。


警察の方で やってくれたのか? 割れたガラスの部分にはダンボールが雨よけがわりに貼り付けてあった。


ゴクッ


昨夜 賢と 手提げ金庫を取りに来たときは 気づかなかったが 


意外と部屋の中は荒らされている。


土足であがったのか 床もかなり汚れていた・・・


「金庫 どうしよう・・・ 置いてけないよね?」


とりあえず 制服に着替えようと 二階に向かいはじめると


「真愛!? 無事かい!」


「パパ!?」


父と母が 帰ってきてくれたのだ。


「ひどいな・・・ 他の店も 2店ほど やられているそうだ。

昨夜 商店街で 温泉に行くということをどこかでかぎ付けた人間の仕業だな・・・」


「真愛 怪我はなかった? ごめんね おまえ一人で心細かったでしょ?」


母が涙をためて 抱きしめてくれたが


「だいじょうぶ 賢の家に避難していたから。」


「そう 良かった。 ああ 金庫も預かっていてくれたんだね えらい えらい。」


「よし すぐ片付けて 準備するぞ。 真愛 お前は早く したくして 学校いきなさい。」


「うん。」


やはり 両親が居るとすごく安心できて わたしは体から緊張が解けていくのを感じた。


自分の部屋も侵入されてはいたが


さほど あらされてはおらず 時間もないため 掃除は後にして 制服に着替えた。


最初は さほど気にならなかったが


学校に着く頃になると 少し 足が痛み出した。


「真愛 おはよう。 どうしたの足引きずって?」


クラスメイト達に 昨夜あったことを言おうか 迷ったが 


最終的に 賢の家に泊まったことを明かさなければならなくなるため


やめておいた。


「うん ちょっと 画鋲ふんづけちゃった。」


「真愛!」


「きたよ 賢くん♪」


「・・・賢。」


どきん!


なんとなく 昨夜 賢にされたことがまざまざと頭に浮かんで まともに顔を向けられない。


「真愛 足 だいじょうぶか?」


「うん 平気だよ。 どうしたの 今日は何借りに来たの?」


「バカ 何もねえよ。 じゃな 無理すんなよ 歩けなかったら 俺が帰りおんぶしてやるから。」


「・・・」


では賢は 私の足を心配して わざわざ様子を見に来てくれたのか?


「なになに? おんぶしてやるって どういうこと?」


「画鋲を足に刺したくらいで・・・ ちょっと大げさだよね。」


授業中  上靴を脱いで いたため いくらか 足の痛みは治まったが


昼休み 売店で パンを買おうと並んでいると 込み合う列の中ほどで おもいっきり痛む足を踏まれた。


「!!痛っ」


「あら ごめんなさい 大丈夫だった?」


「恵さん・・・ あ いえ 大丈夫です。」


「ううん そんなはずないわ すごく痛そうに顔をしかめてたでしょ?


足に怪我してるんですってね 


賢から 聞いてるわよ。」


恵さんが とても 申し訳なさそうに 言った。


「え・・・? 賢が 言ってたんですか?」


どこまで話したんだろう・・・? 

うかつなことは言えないと思った。


「昨夜は 大変だったんですってね 

お店の方の被害はどうだったの?」


「あ いえ よくは見てないですけど それほど被害はないと・・・」


「そう 良かった 女の子ですもの そんな 強盗が入ったばかりの家に一人でいられないものね。


賢くんの家のとなりでよかったわね。」


「・・・え ええ。」


信じられない・・・ あれほど 言ったのに 賢は恵さんに 私が泊まったことまで話してしまっているのだ。



「賢って おひとよしだから 困っている人見ると ほっておけないのよね。」


「そうですね・・・」


「何がほしいの?」


「・・・え?」


真っ直ぐ 見つめてくる 恵の瞳が突き刺さるようだった。


「なにがって・・・ あの 別に 私は・・・」



「私がかわりに買ってあげるわ そっちで休んでなさいよ。ほら 何がほしいの?」


「あ ああ 焼きそばパンを・・・ すみません。」



恵さんは顔に似合わず 活発なようで ぐいぐい 前に進むと


「おばさん 焼きそばパンと かつサンド あと 肉まん二つ!」


と叫んでいた。


「はい これ。」


「ありがとうございます これ 120円」


「はい 丁度 それから こっちは わたしからおまけ。」


と肉まんを 渡してくれた。


「え 良いんですか?」


「ふふ 私の彼氏の部屋に泊まったから ちょっと ムッとしてたんだけど

実際 おしゃべりしてみると そんな 心配ないんだって わかったから。


そのしるしよ  にくまん 憎まんってこと 笑」


「・・・に に く ま ん?」


一瞬 あぜんとして 固まっていると



「ちょっと~ ここ 笑うところだけど?」


と 背中をバシッと叩かれた。



「あははは そうですよね。いててて」


「そうよ はははっははは」



それから わたしは なんと 恵さんと 一緒にお昼を食べることになったのだ。


「私 恵さんのこと 誤解してました。」



「誤解?」


大口を開けて 肉まんを食べる 恵さん でも やっぱり どこか 綺麗。


「はい 恵さんは サッカー部のマドンナで きりっとしてて クールで 上品でって 


どこか 近づきがたいような 気がしていたんです。」


私がそういうと 恵さんは プーッと笑って



「そりゃ 全然 誤解だわ。


考えても見てよ あの賢が そんなタイプの年上の女の子と付き合えると思う?」



「たしかに・・・」


ズキン・・・


わたしは 今日 恵さんが とても好きになって



そして もっと 



嫌いになってしまいそうで 恐かった・・・



放課後 ひとり 家へと向かう


(はぁ 部屋をかたづけなきゃ・・・)


ちょっと ため息をつきながら


すこしだけ 足を引きずって歩く。



バシュッ


いきなり 背中を打たれ 振り向くと



「真~愛 まだ こんなところ とろとろ歩いてたのか。」


「痛い・・・ 賢 なによ 部活どうしたの?」


「ランニング中よ ついでだから おまえ丁度いいウエイトだから 担いで はしっちゃる。」


「はあ? 何よ ちょうどいい ウエイトって?」



グラッ


「そらっ」


ダッ!


「け 賢 はずかしいっ 恐いっ お 降ろして~~!」


「うるさいっ ランニングの邪魔するな。」


賢は またしても 私を お姫様だっこして そのままランニングしだしたのだ。



「今日 お前 一日見てたら ずっと びっこ曳いてたろ?」


「そ そんなことないよ。」


「いや 曳いてた。 しかも 朝より 今の方が ひどくなってる。」


賢は厳しい顔で 私を見下ろす。



「気のせいだってば・・・ 賢 練習に戻らないと。」


「恵には 言ってある。 大丈夫だ。」


瞬間 わたしの身体は強張る。


「恵さんに 言ったの?」


「ああ マネージャーだし 当たり前だろ?」



どうして 賢は こんなに 融通がきかないんだろ・・・



「バカ 鈍感・・・」


「何を~?」


走りながら 揺らす 賢。


「恵さんに 私が泊まったことも言っちゃって・・・」


「俺と 恵の間に 隠し事はないんだ。」


「・・・ごちそうさま。」


賢の腕の中に居るのに なんて つらくて 苦しい・・・


「・・・降ろして」


「降ろさん!」


「嫌だったら 降ろして!」


「ダメだ 足痛むんだろう?」


「だから おせっかいなんだって! わたしが嫌がってるのわかんないの?!」


ザッ・・・


やっと賢は 立ち止まり




そっと私を降ろした



「こんな事くらいで 恥ずかしがって・・・ やせ我慢な奴だ ・・・おまえは  かわいげねえっ。」


賢は 顔をしかめて こう言い



私は もう 背中を向けて しっかりと歩きながら



「もう 十分だよ!  恵さんのところに戻りなよ・・・ じゃね。」



これ以上 賢にだっこされていると 泣き顔を見られてしまう・・・


痛みを堪えて 不自然にならないように 懸命に歩いた。



「わかったよ・・・ だけど 無理するなよ。 真愛。」


ダッダッダッダッダ・・・


賢が走り去る音が背中で 聞こえて



それが小さくなった頃 わたしはやっと 気を緩めて 足を引きずりながら歩いた。


「化膿させちゃって・・・ 結構 痛かったでしょ? 保健室にでも 寄って 処置してもらえば良かったのに。」


母にそう言われたが それは 私も考えた。


でも 賢の唇が触れた 部分を もう少しだけ 大事に取っておきたかったのだ・・・


(やっぱり 私は バカだ・・・)



賢の暖かな 唇が 触れて 電気が走ったように わなないたあの瞬間を 


まざまざと思い出して


また 泣きそうになってしまった。



「私 部屋かたづけないと・・・」


立ち上がろうとすると


「ああ あんたの部屋なら 片付けておいたよ。」


「え? 本当っ 助かる~ ありがとう ママ。」


「何度もメール送ってたのに ベロンベロンにパパと二人で酔って 娘のSOSに気づかなかったから


罪滅ぼしよ。 ごめんね。」



「ふふふ でも 玄関のドア自体 もう変えちゃったんだね?」


「そうよ~ だって 年頃の娘がいるんだもの 今度は 最新式の カギにしたから ちょっとやそっとじゃ 開けさせないわよ~ はい あんたの分のスペアキー。」



玄関のドアは ガラスの部分はなくなり かなり頑丈な造りになっていた。


「来週 アンタの部屋の窓ガラスも 取り替えるからね。」


「えっ 窓も?」


「そうよ~ 警察の人にも 娘さんの部屋に直接 犯罪者が入れるようなしくみだな~って 言ってたんですもの。」


どうやら うちの窓には 飾りの鉄柵があるため それに手をかけて 容易に犯罪者がしのび込める構造らしい。



「賢ちゃん 炊き込みご飯喜んでくれてた?」


「うん 5杯もおかわりしてたよ♪」


「あら 一緒に食べたの?」


「・・・ うん すぐ食べたいって ずうずうしいよね ったく あいつも。」


なんだか ちょっとどぎまぎして 私がこう言うと



「あら 却って そのまま 居てもらった方が 安全で良かったのにって 思ったけど


今度 パパとママが留守にする時は 賢ちゃんに 来て貰うか アンタを賢ちゃんちに頼むかしようかしら。」



「やめてよ 子供じゃあるまいし・・・」


顔が赤くなってきてしまう・・・


「あら 子供じゃないから 心配するんでしょ。 あなたも年頃なんだから。」



年頃・・・ 私や賢がたとえ いまそうであっても  何の意味もない・・・


部屋で着替えて 少し宿題をしていると


「真愛 ちょっと~」


お店から 母が 声を掛けてきた。


(忙しいのかな・・・?)


たまに 平日でも 店に客が増えて 人手が足りなくなってくると こうして私は呼ばれて 手伝うこともある。


「は~い。」


膿みを出した分 いくらか 足が楽で 階段を順調に降りていくと



「よおっ」


と茶の間に賢がいた。


「なんで?」


「今回 賢ちゃんにすごくお世話になったんでしょ? 賢ちゃんのお母さん 公演旅行で 1週間いないようだから その間 うちでご飯食べてもらうことにしたのよ。」


「いや~ 昨日の炊き込み すんげえ 旨かったです。」


賢はニコニコ顔で ちゃっかり食卓テーブルについている。


「5杯食べてくれたんだってね~ うれしいわ おばさん。」


ママも なんだか ニコニコ顔だ。



「おお ナポリタンっ うっまそう!」


お礼だとか 言いながらも 店の仕事で忙しい母は 簡単な料理で済まそうとしているが


賢にしてみれば こんなんでも かなりご馳走に見えるのか?



「うめえ~~ おばさん やっぱ 料理上手だな~ プロは違うな~」


と褒めちぎる。


「もう~ 賢ちゃんったら 正直 ふふ  真愛 ママはお店に もどるけど 賢ちゃんのおかわり 沢山作ってあるから よろしくね。」


「おかわりも 作ったの?」


普段 私の分だけなので おかわりなどめったにしないから 盛りきりであることが多いのだが


台所には フライパンにこんもりとナポリタンが・・・



「どんだけ 作ったんだろ・・・」


「おお すっげえ 嬉しい~ よし 真愛 お前も負けずに食えっ!」


「食えるか そんなに~!」



だけど 本当に気持ちいいくらい バクバク ガツガツ 食べる賢をみていると 


なんだか 釣られてわたしも少しだけ おかわりをしてしまった。


「いいな~ お前 いつも こんな 旨いめし食べれてさ。」


夕飯の後 賢は しみじみと おなかを擦りながら言う。



「そう? いつもワンパターンだよ 店で 出す様な オムライスとハンバーグとカレーライス そしてナポリタン。」


「いいじゃんか 贅沢だよ。 俺んちは ほとんど 俺が作ってるんだぜ。」


「え おばさん そんなに忙しいの?」


「ああ まあ 公演に行くのはつきの半分くらいだけど  居ても 原稿書いていること多いからさ


俺が作ってやることが多い。」



隣に住んでいるのに あまり その辺のことは知らなかった。



「えらいね 賢。」


「惚れ直した?」


「は? だ 誰が 誰を惚れ直すって言うのよ。」


「ふん やっぱり かわいくねぇ。」


心臓にわるいよ・・・賢


賢はたわむれに 言ってるつもりでも わたしには 殴られたぐらいにダメージがあるんだよ。


賢と目があわせるのが苦しくなって 視線をテレビに向けると


「真愛 足大丈夫か? 包帯してるんだな。」



(なんで そんなこと・・・気にするの?)



「うん うちのママが ちょっと大げさに巻いただけだよ 全然たいしたことないから。」


ついでに私は 足をトンと突いて見せた。


「・・・ドア 頑丈になったけど いつ どんな風に昨日みたいな奴が来ないとも限らない。


お前 一人の時は なるべく うちに来いよ。」


賢の顔はまだ 難しい顔をしている。


「そんな 私 15年間ここに住んでるけど 昨日みたいなことは 初めてなんだよ? 


賢の家はまだ そんなのあったことないでしょ?

 

心配ないって。お茶入れるね。」



と立ち上がると


「真愛・・・」


ぐっ


賢が私の手を握り 引き止める。


「お茶は 俺が淹れるよ お前は 座っとけ  それに・・・」


賢は立ち上がりざま 


「お前 最近さ・・・」


「うん?」


「その・・・ なんて言うか。」


「なに?」


珍しく 歯切れが悪い賢。


「う~~ つまり この辺とかこの辺とか 肉付き良すぎんだよ!」


「きゃっ」


バシィ!


「痛ったい~~ なんで そんなに力いっぱい殴るんだよ。」


「な なんでって・・・ アンタが お尻とか む 胸を触るからでしょ?!」



「だってさ もちもち ムチムチ してさ 昨夜は 大量に夢精しちゃったのは おまえのせいだからな・・・」


「む む むせっ ググゥ!」


私がつい 声が大きくなると


賢はあわてて口を押さえて


「バカ  幾らなんでも 夢精なんて 女が叫ぶなっ・・・」


「俺 まだ 恵と そこまでいってねえのに~ もうしわけないだろっ」


「知らないよ そんなのっ!」


恥ずかしくて 身を縮めていると 賢はかって知ったるうちの台所に入って お茶を入れ



とん



と私の前に湯気の立つお茶を置き 


向かいの席に戻ると ずずっと お茶をすすった。



正面に座る賢から 視線を外す格好のアイテムとして 


わたしも お茶を口に運ぶ。



テレビが 軽快なリズムでCMを 流しているのだが


今 私達が居る この食卓の周りは 



なんだか 静かで 



お茶を飲み込む音さえ 容易に相手に聞こえる気がした。



「ふざけて 言ったけど・・・ おばさんが心配するのも もっともだと思うんだ。」


ふいに賢が ぽつりとしゃべりだす。


私は そっと 顔を上げると 賢の視線とぶつかった。


「お前だってさ 来月で 16歳だろ? 


俺のクラスでも お前のこと 紹介しろって 奴が何人かいるんだ。」



「え~~? うそ・・・」


「お前 ボーっとしてるから 気づかないだけだよ。 体育の時間とか 最近 外で走ったりしてるだろ?」


「・・・うん マラソン大会近いしね。私 走るの苦手・・・」


「だよな お前 ひとり 大幅に遅れて 走ってるから 尚更 目立つんだよ。」


「め 目立ってる?」


そんな 走りの遅いのが目立つのだろうか・・・


戸惑って 賢の表情を見ると 苦々しい顔で


「お尻とか ムチムチの太ももとか・・・ お前のゆさゆさ揺れる爆乳に 教室から見てる 野郎共が 釘付けになってんの! もっと体隠せ。」


と 少し怒ったように言う。


「か 隠せって・・・」


あれ以上 早く走るのは難しいし 学校指定の短パンにTシャツでは 太ももは隠せない・・・


「だから もっと 乳を しっかりガードするような ブラを買うとか・・・」


賢が ビシッと胸を指して続ける


「走ってる間はしかたないとしても それ以外の時は ほかの子の間に入って 体を隠すとかさ・・・」


「う うん・・・」


賢の顔も何故か 私同様 赤くなってきている。


「なるべく 人目に晒すな・・・ それから」


「まだ あるの?」


「絶対 サッカー部のやつらに誘われても のこのこ付いてくなよ。」


「サッカー部?」


「ああ 今日 お前が土曜の練習試合に 来るかもしれないこと知って 帰りにカラオケ誘うって 


先輩達が 盛り上がってたんだ。」


「カラオケくらい 別に・・・」


「ダメだ! カラオケだけですまないかもしれないだろ?」


賢の顔が恐い。


「考えすぎだよ それに 賢は関係ないでしょ?」


「なんで 関係ないんだよ!?」


ぐっと顔を突き出して おでこが付きそうなくらい 近づいてくる。


「だ だって あんたは 私の彼氏でも な ないんだし・・・」


「彼氏じゃないけど 俺はお前を守る権利がある。 おばさんからも頼まれたしな。」


「なんで うちのママ・・・」



「おばさんは 今回のことすごく心配しているようなんだ。 

さっき 俺に 賢ちゃん お願いねって 手を取って 涙ぐんでいたんだよ・・・」


何故か 賢はずずっと鼻をすすっている。


「・・・わかったよ 別に賢以外のサッカー部の人達 あんま知らないし


カラオケ 苦手だし。」



「そうか そのかわり 今度 俺が連れてってやる。」


「え?・・・本当?!」


「ああ 恵が すっげえ カラオケ好きなんだ。 めちゃくちゃ うまいしな。 三人で行こうぜ。」


ニカニカ笑って 賢が自分のことのように自慢する。


「いいよ 私 邪魔じゃん。」


心底 がっかりしてしまう 私。



「あれ 今日俺がお前を 送りに来たのも 恵が言ってくれたからだよ?


今度 真愛ちゃん誘って 遊びましょうって 言ってたし。


お前 昼いっしょに食べたんだろう?」


そんなことも もう賢は知ってるんだ・・・・・


「うん 肉まんおごってくれた。」


「だろ? 恵さんは 心の広い やさしい人なんだ~♪」


「ごちそうさま・・・」


「いや こっちの方が ごちそうさま だったな~ ははは まじ旨かった。 


こんな旨いの 一週間も食べに来ちゃっていいのかな~?」



「いいんじゃない? ママは賢に すごく感謝してるんだから


私も 賢に 感謝 してるよ・・・


今日もありがとう。」


ちょっと素直に お礼を言ってみた。


「お おう。 いつでも 頼れ。 じゃあ そろそろ 帰るわ。」


「うん またね。」


賢が帰ってしまってから 


私はひとり 茶碗を洗って お風呂に向かう。


今日はお店の有線が聞こえるし


パパのフライパンを滑らす音や


ママがコップを洗う音などが聞こえて 私は安堵する。


(ムチムチって 言うより ちょっと デブってきてるよね・・・ たしかに。

もう すこし 痩せなくちゃ・・・)


マラソン大会の本番も このままじゃ 完走はできないかもしれない。


真愛の身体は決して太っているわけではなかったが


高校に入ってから ストンとした体型から 急に 丸みを帯びた 女の子らしい体つきに変わってきているのである。


それに比べて 恵は背が高くて 足も長く モデルのような体型をしている。


「恵さんと カラオケか・・・ 絶対  無理。」



自分は心が狭い人間のようだから ニコニコ楽しくなんて 一緒に歌えない。



翌朝 早めに家を出て ゆっくり歩いて学校に行く。


(もう あまり 痛くない 良かった。)


思ったより 早く着いたので まだ グランドでは 賢達が朝錬をしていた。


「真愛ちゃん?」


急に呼び止められ キョロキョロしていると


「こっち こっち。」


と サッカー部のユニフォームを着た 賢よりちょっと背の高い男の子が手招きをしていた。


「私・・・ですか?」


「そう 君 真愛ちゃんでしょ?」


「はい。」


おそらく 自分より先輩であろう あまり同級生では見ない顔で


賢と同じサッカー部ではあっても 私は賢の姿しかいつも目で追ってないから


この自分を呼び止めた人物が誰であるか検討もつかなかった。


「そんな 不審人物見るような顔しないでよ。 俺 一応サッカー部のキャプテンなんだけど。」


「あ 石田さん?」


そういえば 賢から イシダキャプテンはどうのとか 以前聞いたことがあったかもしれない・・・


「石毛です。」 


すかさず訂正された。


「あ すみません キャプテン。」


「ははは いいよ いいよ。 賢から 聞いたんだけど 真愛ちゃん 練習試合来てくれるんだってね?」


小麦色に日焼けして 目がやさしい感じで 話しやすいと少し 私は好印象を持った。


「え まあ 当日 時間があったらですけど・・・」


「是非 来てくれよ。 練習試合とはいえ 応援があると すごく力が入るんだ。」


「そうですか できるだけ 応援に行くようにしますね。」


賢のチームだもの 応援したい。


「ありがとう それでね 試合が終わったら・・・」


「真愛!」


ものすごい 大きな声で 賢が近寄ってくる。


「賢 おはよう。」


「飛んできたな 賢。」


キャプテンはクスクス笑いながら賢を小突いた。


「あ~こほん 真愛 今日は随分早いな 足大丈夫なのか?」


「うん 少し時間かかると思って 早めに出たけど 全然大丈夫だった。」


すると話を聞いたいた キャプテンが


「あれ 真愛ちゃん 足怪我してるの?」


「はい ちょっとガラスで切っちゃって・・・でもたいしたことないんです。 もうほとんど治っちゃってるし。」


「カワイそうに・・・ 土曜日に見に来てくれたら 帰りは俺が自転車に乗せて送るよ。」


「「え?」」


キャプテンが急にこんなことを言い出して 私もびっくりしたけど 賢もかなり面食らった顔をした。


「キャプテンの家は 反対方向でしょ? こいつは俺が送っていきますから いいです。」


「お前は恵を 送ってくんだろう? しかも 歩きじゃないか。」


すかさず キャプテンが駄目出しをすると


「大丈夫です 俺が抱っ」


賢が言いかけた言葉に私はあわてて言葉を被せた。


「あ あの! 帰りは打ち上げとかされるんですよね? 私 お店の手伝いとかあるので 試合見てもすぐ帰らないとならないから 別に一人で帰れますから 大丈夫です。 


それに あまり 痛かったら もうしわけないですけど 試合を見に行かないかもしれません。」


と 一応ことわりをいれておいた。


(本当に 来れないかもしれないもの・・・)



「ちょっと! もう片付けるわよ賢 キャプテンも号令かけてくださ~い。」


恵さんの怒鳴り声が響いた。


「やべ メグが怒ってるっ。」


キャプテンが首をすくめる。


「すみません 恵さん 今行きま~す。」


あわてて戻る二人


(石田キャプテン・・・ 恵さんのこと メグって呼んでいるんだ


サッカー部のマドンナだし


ああ でも賢ったら 抱っこしたなんて 言い触らさないだろうな・・・ 危ない奴!)



夜になり 今日はお店が忙しいようなので 私が時間をみながら 晩御飯を作って賢を待った。


「こんばんは~」


出来上がったのを見計らったように 賢が訪ねてくる。


「いらっしゃい。」


私は ちょっと緊張したが 何も言わずに 賢にいつもの椅子を勧めて ざるうどんを出した。


「おおっ これまた 旨そうだな。これって お前の店では出してないものじゃね?」


「うん まあね たまにうちだって 和風のもの食べたくなるわよ。」


「だよな ごぼうとそら豆のかき揚げか~ すげええっ」


ぽっと顔が赤くなる 賢の口に合うかな・・・


ずずっ カリッ


「・・・・・」


目を瞑って賢が 沈黙する。


ゴクッ


思わず 私の喉が緊張でなってしまった。


「旨い!」


「そ そう 良かったね。」


そっと胸を撫で下ろす 私。


「すっげえ 旨い! やっぱり おまえんちの晩めし最高!」


賢は勢いをつけて うどんをすすり かき揚げを頬張った。


じわっ


緊張が緩んでしまったのか


たったコレだけのことなのに 涙が出そうになる


「どうした? お前 食わないの まさか まだ 足痛むんじゃないだろうな?」


「ううん ちょっと唐辛子 入れすぎちゃっただけだよ。」


家が喫茶店で 洋食にどうしても偏りがちなため


わたしは 自分でご飯を作るときは たいてい和食になる。


このうどんも ダシの取り方をいろいろ本などで調べて 自分なりに到達した味なのだ。


「料理上手だな 真愛。」


「え え? ど どうして 私が作ったって・・・」



「わかるよ 全然 味付けがちがうもん。 

お前の母さんの作ったのは どちらかというとしっかりした味付けだけど


これは あっさりしてて だけど ちゃんとダシをとってあるから すごく 旨いよ。」


「あ ありがとう・・・」


賢が気づいてくれていたことに 心臓がドキドキいって 治まらなかった。


大方賢が平らげてくれて 私自身のおなかも心も満足できた。


「ごちそうさま。 それから ごめんな 真愛。」


「ううん どうして? 私がお礼をしなくちゃいけないのに。」


「いや 今日 石毛先輩がからんできてただろ? あの人 女癖悪いから 俺も注意してたんだけど お前今日 思いがけず早く来てるから 気づかなかった。」


「あ ああ 別に試合を見に来てほしいって 言われていただけだよ。」


「違う あの人それだけで 納まるわけないよ。 絶対真愛に近づけないよう いつも注意してたんだけどなぁ。」


「え? じゃあ いつも 部活の時に声をかけてたのは それでなの?」


「決まってるだろ? アピールだよ 俺の真愛に手だすなよ~って デモストレーションだ。」


「俺のって 何?」


ちょっと私は カチンと来てしまった。



「別に 俺の真愛でいいだろう? お前に ああいう 男は似合わない。」


悪びれずに賢は言う。


「賢は 恵さんと付き合っているのに 私のことは関係ないでしょ。」


「なんだよ それ?! 俺は心配して言ってるんだぞ。」


「私は 賢の所有物じゃないから。 余計なことしなくていいよ。」


「はあ? あの人 雰囲気やさしいだけで 野獣なんだってば お前 襲われてもいいの?」


「だって 私が誰に襲われようと 賢には関係ないじゃない。いつも おせっかいなんだって。」


もう売り言葉に買い言葉で収まりがつかなくなってしまった。



「おせっかいで 悪かったな・・・ じゃあな。」



プイと 賢は立ち上がると そのまま 玄関に向かって 帰ってしまった。


はぁ・・・


せっかく 賢が 私の作ったざるうどん 褒めてくれたのに・・・


どうして こうなるんだろう?



金曜日 普段どおりの時間に家を出て


もう 既に サッカー部も朝練は終わっていて 


一日 賢を見かけることもなく 過ぎていく


(同じクラスじゃなくて 良かったかもしれない・・・


私と賢は きっと 近すぎるんだ


特に最近はけんかばかりしている


それは 毎晩 賢がうちでご飯を食べるからで いつもより接点が多いからだ。)


「あ~ぁ 今日は走りたくないよね。」


今日は体育の授業で 青空の広がるグランドに集まり また マラソンの授業だった。


今日はおばさん臭いけど フルカップのブラをしてきた。



ちらっ 



校舎を見ると 特に誰と目が合うのでもなく

静かなものだ。



(授業中なんだもの あたりまえだよね。 やっぱり あれは賢の嫌がらせ?


私がとろとろ走るから からかってただけなのだ。)



悔しいので 今日は もう少し 頑張って走ってみようと思った。


「はい 位置について 用意 ・・・」


バンッ


マラソンなので スタートが切られたといっても そう スピードを出すわけでもない



はぁ はぁ はぁ



(ああ やっぱり きつい・・・


暑いし 


身体は重いし


喉が渇く・・・


でも・・・ 胸が無駄に揺れない分 ちょっと 走り易いかな?


足も良くなって 

いつもよりは順調に走れているみたい・・・)



すぐ前を走っている子が どんどん近づいてくる。


(あ もしかしたら 抜かせるかもしれない・・・)


ちょっと 私はここで欲を出してしまったのかもしれない。



腕の振りを早めて 足を強く蹴り上げる


タッタッタッタ・・・


3周目に入った頃 隣のグランドで 2年の男子が 幅跳びをしていた。



「おお すっげえ ムチムチ うまそ~♪」


(え・・・?)


恐くて そちらを見て誰のこと言っているのか確かめることはできなかった。



(私のことじゃないかもしれない・・・


気にしない 気にしない。)



すぐに そんなこと構っていられないほどへばってくる。



だがまた その近くまで行くと



「ほら あの 胸のでかい子 たまらん~。」


「ああ あいつ 賢とよくしゃべってる子だろ? かわいいよな。」



(・・・私なの?)



急に恥ずかしくなって 何処かに隠れたくなってくる。


それでも もう一周しなくては ならなくて できるだけ 他の子の後ろになるよう 身を隠して走った。




「真愛!」


昼休みになって クラスメイトとお弁当を食べていると 


怒った顔をした賢が珍しく ズカズカと教室の中まで入ってきた。


「な 何?」


「真愛 お前・・・ちょっと来い!」


「痛いっ 何? まだ お弁当食べてるんだけど。」


強引な賢の手に引きずられて教室を出る。



「ねえ 賢ってば どうしたの?」


だが 賢は無言で どんどん私の手を引いて 図書室へと入っていった。


(賢が図書室・・・・・一番 縁のないところじゃないのかな?)


賢はそのまま 一番奥の郷土資料棚がぎっしりと並ぶ少なくとも在学中 

賢は 絶対 利用はしないであろうエリアに 真愛を押し込んでいった。


昼間の図書室は 人はまばらで


とくに この奥まった資料棚に 人影はなく


すこし かび臭い 湿った空気が漂う。



「なに?こんなところに呼び出し・・・」



ギュッ!


いきなり賢に抱きしめられて 息が止まる。



「真愛・・・おまえ もう 体育出るな。」


賢の押し殺したような声が 耳元から背筋を伝って 真愛の体を駆け抜ける。


「ど どうして・・・?」


ドキドキドキドキ


「俺・・・お前を 他のやつらに見られたくない。」


「見られたくないって・・・ 私にどうしろって言うの?」


「生理とか なんとか 言って 休めるだろ?」


「何で そんなことしなくちゃ ならないの?」


「真愛は 俺のだから。」


「もう 意味わかんないっ! だから それが横暴なんだってばっ 何で 私のこと自分の物みたいに扱うの?」


一瞬心地よく思っていた 賢の腕の中から あらがい 抜け出そうと 腕をつっぱろうとするが がっしりと組み込まれたまま ナカナカ思うように外れない。


しかたなく 顔だけを 上げて 賢を睨みつける。


賢にとって 私はなんなのだろう?


こんな要望を 素直に呑んだからといって 私が賢の恋人になれるわけでもないのに・・・


「お前が俺のだっていう ちゃんとした 理由もある。」


「理由?」


そんなもんがあるのなら 是非聞いてやろうじゃないのと


賢と真正面から見詰め合う。



「石毛キャプテンさ・・・さっき 休み時間に俺のとこにわざわざきて言ったんだ。


お前のこと 好きだって。」



「・・・そ そうなの?」


どっくん


心臓が大きくひとつ鳴った


「もしかして 嬉しいの? お前・・・」



ますます 怖い顔をちかづけて  額をごつんとぶつけて来る賢。


「痛いっ もう 何なのよ・・・ そりゃあ 私だって 女の子だもの 


誰かに 好きだって 言われたら・・・」


(あの人 私の事を 好きなの?)


「言われたら?」


賢が答えを迫る。


「少し・・・ 嬉しいかも。」


「・・・ふん やっぱり おまえってば 馬鹿。」


ごつん!


「痛いってば! おでこにこぶが出来ちゃうでしょ?! わたしは ボールじゃないんだよ! ヘディングしないでよ~~」



「今日 おまえさ・・・ 2年の野獣共が 見ている前を また 無防備に走ってただろ?」


「む 無防備って・・・」


普通に体育の授業を受けただけなのに・・・


「キャプテンは おまえの足がどうの 胸がどうの 腰がどうのと 事細かに説明して 帰っていった・・・

明日 練習試合に来た時に 告ると言ってたし


どうする? 


キャプテンにもし 本当に告られたとしたら お前は受け入れるのか?」


「・・・私が 石田キャプテンの」


「石毛キャプテンだ。」


「あ また 間違えた 


えっと と とにかく


石毛?キャプテンの申し出を受け入れようと 受け入れまいと 賢には関係ないでしょ?」


「好きだったら・・・あるだろ?」


「は?」


「だから 俺が 真愛を好きだったら 関係あるだろ?」



(いきなり 賢は何を言い出すのか? いつも恵さんとの仲を のろけて憚らないのに・・・)



「恵さん命のくせに いい加減なこと 言うなっ!」


ムカムカして おでこを頭突き返した。


「いてっ! おお 結構 痛いもんだな~ ははは・・・」


「はははじゃない! もう 昼休み終わっちゃうでしょ?! 私 教室戻る。」



再度 賢の胸に両手で押し返すと


「だめだ・・・まだ 帰さない。」


「え・・・」


ふわ・・・




賢の顔が 近すぎる・・・ っていうか 接触している?!



賢の熱い唇が 私の上に被さり 吸い付いてくる・・・


(ど どうして・・・)


「ま 真愛ッ ごめん いきなりっ」


体中から力が抜けてしまって・・・ 賢に支えられるように 引き上げられる。



「・・・ひどい。」


ポロポロ涙が出てくる。



「え えっ? な 泣いてる?」


「賢は うっ うっ 恵さんと つ 付き合ってるくせに 


私も 好きだなんて・・・ ふざけないでよ。


えっ うぐっ


き キスだって あんたは 慣れてるかも し しれないけど 


私は  は 初めてなんだからねっ」


悔しくて 涙が止まらない・・・


「誰が 慣れてるって?」


賢は私の涙をチュッと吸い取ると


もう一度 軽く 唇にキスをしてきた。


「これで 二回目。」


と 照れくさそうに笑う。


「・・・に 二回目?」


「そう さっきのが 俺も 初めてで 今のが二回目。」


そう言って 私の首筋に顔を埋めた。


「どうして・・・? 恵さんも 賢のこと好きみたいだったし とっくに・・・」


「俺 恵には 指一本 触れたことない・・・てか 触れられなかった。」


「ええ? ど どうして?」


「なんか やっぱり 憧れって言うか・・・


アイドルみたいなって言うか  う~~ん うまく 言えないけど 


どんなに近くにあっても 気軽に触れちゃいけない マリア像みたいな存在だったんだ。


本当の意味で 恋愛対象として 合ってないんだって わかった。」



「・・・本当に?」


「ああ ここ 数日 お前といると どうしても いじりたいっていうか くっついていたくて

毎日お前のことばっか 考えちゃって・・・

しまいには 夢にまで 出てきて・・・


お前が 他の誰かの視線に晒されてるかと思っただけで 気が狂いそうになる・・・


恵さんが 他のサッカー部員に話しかけられていても すこしもうろたえないのに


お前だと 俺の目の届かないところで 誰かに言い寄られてないかって 息が苦しくなるよ・・・


俺は 恵さんが好きで ない頭振り絞って お前に協力してもらってまで ここに入ったのはじゃあ なんだったのかって 言われると・・・


お前と一緒に 試験勉強している時間が楽しかったからかもしれない・・・」


「賢・・・」


「だから 俺の真愛になってよ・・・ 真愛。」


賢の震える声が 耳をくすぐり 昼休みの終了5分前をつげる予鈴が鳴った。


「私・・・ 賢のものにはなれない。」


「真愛・・・」


そっと体を離して 賢が目を曇らせる。


「だけど 賢の恋人には なりたい。」


「へ?」


ギュッ


「大好きだよ 賢 ずっと 前から・・・


わたし 賢の恋人になれる日 夢見てたの・・・


でも それは 賢のものになるってことじゃなくて


私が いつも賢の傍にいたいってことなんだよ。」


「どう違うんだよ・・・」


納得がいかない賢に 私は背伸びをして キスをして


「賢が心配しなくても 私は賢以外の人に恋はできない


だから・・・毎日 教室に様子見に来たり


サッカー部の誰かに声を掛けられてるからって あわてて 飛んでこなくても 


心配しないでってこと。


私は 賢以外の男の子と いっさい おしゃべりできなくなっちゃうでしょ?」


私がそう言って笑うと


「う~~ 堪えられるかな 俺・・・でも 真愛が そう言うなら 努力してみる。


でも 会いたいからって 理由なら いいだろ?」


「うん・・・」


それから 始業ベルが鳴ってあわてふためくまで 


なんども なんども 


ふたりでキスを重ねた。


ぎこちないけど 暖かい 


ケンカばかりしてたのは お互いを 意識してたからだったんだね・・・




賢 大好き 


私は 今 めいっぱい あなたに 恋してる。



真愛の章 終
















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