エンナの妹
☆
エルドへの道中、フィルは語ってくれた。
「まさかこんなにうまくスキルが習得できるとは思ってませんでした」
フィルは両親を亡くしたのをきっかけに、これまでコツコツとスキルの習得に励んでいたのだという。
スキルとは、人が生涯をかけて習得するものだと、ルミールが言っていた。
人によってはなんのスキルも得られないことだって珍しくないという。
「へえ。じゃあスキルを習得して、かつあんなに強くなるフィルって、結構すごいやつなんだな」
「その通り! でも、私にそんな実力があるなんて考えもしませんでしたよ。サカタさんが私を焚きつけてくれてよかった。おかげで自分の実力に気が付けたのですから!」
フィルは無邪気な笑顔を俺に向けた。俺はそれに、頷き返す。
「うん、よかったね。でも、あのスキルを使うのはもうほどほどにしてくれ……」
あの峡谷を抜けて、もう十日ほど経っており、俺たちはエルドに向かって順調に旅を続けていた。
あのあとも何度か別の馬車とすれ違うことはあったが、結局、俺たちは徒歩での旅路を選んだ。
自分たちのペースで進むのが一番だと思ったのだ。
それに道中、小売りの馬車としょっちゅうすれ違うので、食料やその他の必要物に困ることはなかった。
エルドへの道は舗装こそされていないものの、人や馬車が通るよう整備されているので、一日に歩くペースを考えれば、特段に厳しい道のりでもない。
そんなこんなでのんびりした旅路は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
「見えましたよサカタさん! エルドの城壁です」
フィルが歓声を上げて目の前を指した。
「おお! あれがエルドか。でかいな」
正門からぐるりと伸びる城壁。想像していたよりも大きな規模の街だった。
近隣の冒険者はみな、この街に集まりギルドで職を求めるという。クエストの内容は、基本的には便利屋のような簡単なものから、モンスターの討伐など難易度の高いものから様々らしい。
それだけエルドは多様な需給が存在しているということだ。
正門を抜けて街に入る。途端、首都圏のような雑踏があらわれた。これまで自然豊かな草原を進んできた身としては、ちょいと人酔いしてしまう。
そして、フィルの村と最も違うところは、普通の恰好をした普通の男が、そこらへんに歩いているということだ!
なんとなく、ほっとしてしまう。
「あわわ、すごいですサカタさん。男らしい男の人がたくさん歩いてる」
「まあこれが普通の街の光景ってやつだろう。それだけエルドは栄えてるんじゃないか?」
「あの逞しい喉ぼとけ……ごくり。たまんねぇ」
「あの、フィルさん?」
男女の比率は一対一ぐらいか。大きな街だから、男性への差別が少ないのだろうか? すれ違う男は冒険者風や飲食店の店員、ごつい腕をした八百屋など、いろいろな職業についているようだった。
さて、無事にエルドに到着した。
「フィル、この街での目的がわかっているな?」
「ええ。まずは生活を立て直して、体制を整えてから、首都を目指すんですね」
「ああ、エンナってやつに会うためには、こっちから向かってやらなきゃならないからな……」
そのとき。
雑踏の人々が、時間を止めたようにぴたっと動きを止めた。
一斉に、俺たちに視線を向ける。
あまりに息の揃った行動のため、なにかのドッキリか、あるいは夢でも見ているのかと思った。
それも彼らの表情は、全員、一人残らず、恐怖にひきつっているのだ。
近くにした商人風の女が、俺に話しかけてきた。
「あんた、そのお方の名前は気安く口にしない方がいいよ」
すぐ、エンナのことだと気づく。
「えっと、どうして?」
「今、この街はあのお方の妹様が支配しているんだよ。とても良い方だけど、こそこそ噂話をされるのが嫌いなのさ。だから、そのお名前を軽々しく口にしちゃ駄目だ」
言って、商人風の女は立ち去ってしまった。それを皮切りにしたように、雑踏がまた動き出す。
瞬く間にもとの騒がしい街並みに戻った。
「な、なんだったんだ」
「なんだか不気味ですね……」
「けど、こいつは好都合だ。身内がこの街にいるとはね」
言って、俺は歩き出す。フィルがそのあとを慌ててついてきた。
「ちょっと待ってくださいサカタさんどこに行くんですか。まずは宿に向かいましょうよ。それからお風呂に入って、それから温かいご飯を食べてのんびりして……って聞いてます?」
「聞いてるさ。でも悪い、そのプランはあとまわしだ。まずは、妹の方に会いに行こう」
フィルははっと息をのんだ。
「ええっ! 妹って……ど、どうして。何の意味があって?」
「まずはそいつをぶっ倒す。この世界をこんな風にしちまった奴らは、一人も許さねぇ!」
幸い、居場所は考えなくともわかった。
この街の正門をくぐったときから、嫌でも目に入る、街の中央にそびえる立派なお城。
支配者は決まって、高いところにいると相場が決まっているだろう?
「よっしゃあ! 誰が男なのか、わからせてやる!」
「なんか気合入っちゃってるううううう!」
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