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スキル【男様】で無双!生意気な女盗賊たちをわからせてやる!~やっぱり男様には適わないんだ~  作者: みちまるぎちすけ
【第一章】えーっ! 男が一番偉いんじゃないんですか?〜スキル【男様】の秘密〜
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旅の理由

 荷車は馬にひかれて進んでいく。速度は人間が軽くジョギングしている程度だ。乗り心地はお世辞にもいいとは言えない。

 ガンザたちは相変わらず、俺とフィルにじろじろと不躾な視線を送っては、にやにや不快な笑みを浮かべていた。

 フィルはすっかり委縮してしまって、俯いていた。

 まいったな、と俺はため息をついた。

 刀でいきなり襲われないだけ、マシな状況ではあるが……こんな調子でエルドまで一緒なんて、気がめいってしまう。

 どうもこの世界では男の立場は低いらしい。


 馬車は進み続けてやがて日が高く登った。

「サカタさん、お腹空いてませんか?」

 フィルがこそこそと言った。

「ん? ああそういやもうそろそろ昼か。腹減ったな」

「私、お弁当作ってきたんです」

「まじか!」

 フィルは荷物から小さなバスケットを取り出した。包みを解くと、パンが数切れとチーズやハムなどの食事が収まっている。

「おお! 美味そうだな」

「ふふ、パンは私が焼いたんですよ。ちょっと自信作です」


 すると、俺とフィルのやりとりを聞いていたガンザが、突然大声で笑い出した。


「あっはっはっ! お前、男の癖にパンなんか焼くのか」

「そ、そうですけど」

「なんて女々しい奴だ。お前さては、本当は女だな? ちょっとパンツを脱いで見せてみろ」

「な、なんてことを……!」

「冗談さ。あはははは!」

 フィルは顔を真っ赤にして、黙りこくってしまった。俺は、そんなフィルを眺めながら、怒るよりも先に、ふと思った。


「フィル、どうして何も言い返さないんだ」

「えっ、それは……。だって私は弱いし、こんな体の大きな女の人には敵わないですから」

 フィルは涙目になって、きっと俺を睨んだ。

「サカタさんこそ、どうして私を庇ってくれないんですか」

「俺がフィルを庇うのは簡単だ。でもそれじゃあ、根本的な解決になってない」

 フィルはすっかり感情的になっている。喧嘩腰で食って掛かってきた。

「解決? 解決っていったいなんの解決です」


 俺は静かに息をつき、諭すように、ゆっくりと告げた。


「フィル、お前は今、何をしてるんだ」

「馬車に乗っているんですよ。それぐらいわかります」

「違う。お前は今日、冒険に出たんだよ。ずっと夢だった旅を今日、始めたんだ」

「…………」

「それなのに、臆病なままじゃいられないだろう」

 俺は、フィルはこのままじゃ駄目だ、と思った。偉そうなものいいだが、こんなところで女に好き勝手言われているようではいけない。

 恐らく、これからの俺たちは、時には命をかけるような勇気だって必要になるだろう。

 そんなとき、臆病な気持ちをもっていたら、きっとどこにも進めない。

 フィルはまだ納得いかないように、俺を怒った顔で睨んでいる。

「偉そうに。そもそもサカタさんは、どうして私と一緒に旅に出たんです。サカタさんの旅の目的はなんですか?」

 フィルの問いに、俺は明確な答えを持っていた。

 俺は昨晩、俺がこの世界にやってきた意味というものを、自分なりに考え続けた。そして、これからなにを成し遂げなければいけないのかを。

 今、俺がフィルとともに旅に出たのは、その思考の結果なのだが。

 俺は、フィルの問いに何も答えなかった。

 ただじっと、彼の瞳を見つめた。


 ガンザたちがまた俺たちを笑う。


「おいおい、夫婦喧嘩はよそでやってくれ」


 馬車の外から、いつの間にかぽつぽつと雨音が届いてきていた。


 ☆


 酷い土砂降りだった。俺たちは屋根付きの荷台の中にいるのに、何故かすっかり湿っていた。

 体が濡れているせいか随分、冷える。

「親爺! 毛布かなにかねぇのか!」

 イラついた様子のガンザが立ち上がって、馬をひくじいさんを怒鳴る。じいさんはふがふがと何か言って、首を横にふった。

 ガンザは諦めてまたどっかと腰を下ろす。

「ちっ、ついてねぇぜ!」


 俺は隣に座るフィルの様子を窺った。フィルは痩せているから、人一倍寒そうだ。体がすっかり震えている。

「フィル、俺の上着を貸してやる」

「いいです着ません。そんなことしたらまたあの人たちに笑われますから」

 フィルは俺の方を見ようともしないで言った。すっかりへそを曲げてしまっている。


 そのうち、馬車は止まった。

「おい親爺! どうした!」

 ガンザが怒って荷台から顔を出した。仲間たちがそれに続く。

「ちくしょう、橋が落ちてやがる!」

 ガンザの怒鳴り声に俺も外の様子を窺った。馬車は、崖を目の前にして止まってしまっていた。その先には、つり橋がかかっている。だが、この土砂降りの影響か、つり橋の片側が切れてしまって、橋は斜めにぶら下がっているだけだった。

 これでは橋として全く機能していない。


「橋が復旧するまで待ちましょう」

 じいさんのその提案を、ガンザは怒り狂って拒否した。

「俺たちは急いでいるんだぜ! この崖を回り込めば峡谷に下りれるはずだ。そこから川沿いに上がっていけばエルドに続く街道に出られる。さっさと馬車を出せ!」

 ガンザの指示に、じいさんはびっくりしていやいやと手を振った。

「その道は危険だよ。雨も降っているし、川が氾濫したら全員流されちまう」

「いいから行け!」

 ガンザは唾をまき散らしながら怒鳴って、しまいには背中の刀に手をかけた。じいさんは仰天して、あわてて手綱を引くと、馬をまた走らせた。


 車内には緊迫した雰囲気が漂う。

 フィルが、きゅっと俺の袖を掴んだ。すっかり怯えた顔が、俺の顔を覗き込んでいる。今にも泣きだしそうだった。

「さ、サカタさん。どうしよう」

「さあ、どうしようか」

「どうしようかって……馬車を降りた方がいいんじゃないでしょうか」

「そう思うなら、そうしたらいい。俺はこのまま馬車に乗って、峡谷に向かうぜ」

「そ、そんな」

 フィルは青ざめた顔で黙った。

 俺は、そんなフィルの顔をじっと見つめた。

 そして出し抜けに言う。

「フィル。俺はエンナってやつをぶっ倒そうと思ってる。それが俺の旅の目的だ」

 フィルは俺の言葉に、恐ろしい言葉を聞いたかのように、はっと息をのんだ。

 俺はフィルの返事を待たず、続ける。

「安全な旅をするためにここにいるんじゃない。それは、フィルも同じだろう?」


 やがて、馬車は緩やかな斜面から、崖を下っていき、峡谷に行きついた。


 ガンザの仲間が、荷台から首を出して叫ぶ。


「――崩落だ!」


 峡谷では、巨大な岩石がいくつも重なって、俺たちの行く手を塞いでいた。

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