取引
俺たちはすっかり油断していた。
何故なら岩の下敷きになった魔法使いには、どのような手立てはもうない、と思ったからだ。
しかしその認識は、甘かった。
「くくく……」
岩の下でエリがくすくすと笑う。床に這いつくばった状態で、不敵な笑みをこちらに向ける。
シイナが俺の前に立った。
「こいつ何か企んでるぞ。危険だな……やはり殺そう。今の私でも刃物でこいつの頸動脈をかっきるぐらいのことはできる」
俺はシイナの腕を掴んだ。
「待て! ……エリさん、もう無駄な抵抗はしないでくれ。もし妙なことをするなら、この岩を一押しして、あんたをぺちゃんこにするしかなくなる」
心の中で俺は、それだけはさせてくれるなよ、と思った。
どれだけ口で脅しても、結局エリを殺す覚悟は俺にはない。
その甘い考えを、エリは完全に見透かしていたのだろう。
エリは不敵な表情を崩さず、俺をじっと見つめて言った。
「教えてくれないかい? 君たちの目的は?」
「俺はただ、あんたの悪だくみをほっとけなかっただけだ」
「違う。君たちの旅の目的だよ。妙な組み合わせのパーティだからね。ふと不思議に思ったのさ」
何故今、そんなことを訊くのか? 時間稼ぎの可能性が高い。シイナが振り向いて、俺に向かって無言で首を横に振った。こいつの策に乗るんじゃない、そういう目だった。
「……エンナを倒すためだ。だが、事情があって俺はスキルが使えなくなった。その状態をどうにかするために、バンダを目指していた」
エリはまた、くつくつ笑う。
「やっぱりね。妙なスキルを持っているのに、君の男ポイントは0だもの。なにか事情があると思ったんだ」
いつの間にかエリは、俺のステータスを男石で盗み見ていたらしい。しかしそんなことは誰にでもできることだ。
エリにもう策はない。
俺は決着を急ぎ、声を荒げた。
「エリ! これ以上は時間の無駄だ。俺たちに降参しろ!」
エリは至って冷静である。
「もちろん、そうするよ。このままグダグダ喋ってたら、シイナに本気で殺されそうだからね。でもさ、一つ提案があるんだけど、聞いてくれるかい」
シイナが叫ぶ。
「サカタ、こいつを殺せ! 魔法使いと話をするな!」
極限に緊迫した空気の中、しかし俺はまだ、エリとの会話を選択した。
「なんだ、言え」
「私の魔法で、君のステータスが硬直した状態を解除してあげよう。男ポイントが0になっているのは、状態異常でそうなっているだけで、実際に0になった訳じゃない。スキル由来の呪いをかけられているような状態だ。それなら解除できる」
俺は思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。俺は今、シイナのスキル【ドレイン】のせいで、男ポイントが0になってしまっている。そのせいでスキルが使えない状態だ。また、一度0になった男ポイントは二度と、上昇することがないという。
その状態を、エリが魔法で治してくれる、というのだ。
フィルが俺の腕を掴んだ。
「サカタさん、この人の話を聞かないで。なんだか変です」
俺はフィルを無視し、エリに訊いた
「……それで、お前は見返りに何を求める」
エリはにやりと口角を吊り上げる。
「金さ。この町の人間から奪った財源の数パーセントでいい。殆どは返すから、数パーセントだけ私によこしてくれ。そうしたらその金を使って遠くにいく。二度とこの町にちょっかいは出さない。約束するよ」
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