魔法使いを封じる方法
屋根がゆっくりと崩れていく。めりめりと音を立てて、巨大な岩が少しずつ姿を現していく。
こんな巨岩に押しつぶされたら、ひとたまりもない。エリの脳裏に、死という文字がよぎった。
魔法を使う隙はない。いや、魔法を唱えたところで、この岩石を跳ね返すことなどできない。
もう、鼻先まで巨岩が……。
☆
「馬鹿だな。目を覚まさないうちに殺すがいい。素早い攻撃で即死させるのが、魔法使い対策の最善手だ」
シイナが呆れて言う。俺はまだ、バクバクと鳴る心臓をどうにか落ち着かせようとしていた。
「物騒なことを言うな! 俺はそいつがどんなに悪党でも、人を殺したくはないんだよ」
フィルがしきりに俺に頭を下げる。
「すみませんでしたサカタさん! もう腕が限界で、岩を支えきれなかったんですよぉ。あっと思ったときにはもう、屋根の上に岩を落っことしてました……」
「いやいいんだよフィル。無茶を言った俺が悪い。それに、結果オーライだぜ。エリを殺さずに倒すことができた」
そう、事態は見事に良い方向に転がったのだ。
岩を抱えて、家ごとエリを押しつぶす、という案を提案したとき、シイナとフィルは最初、俺に猛反対してきた。不確定要素が多いうえ、そもそもフィルが本当に、岩を持ち上げることができるのか? それが最大の課題だった。
しかし、フィルは実際に成し遂げてくれた。
俺はフィルの頭を撫でた。
「でかしたぞフィル! 丁度良くエリを岩の下敷きにしてくれたな」
そう、今エリは、巨岩の下敷きになって気絶していた。下敷きと言っても、完全に岩に押しつぶされているわけではない。倒壊した家屋の木材などが緩衝材になり、絶妙なバランスでエリを抑えつけているのだ。
正直、このバランスになったのは完全なる運である。そしてぶっちゃけ、いつそのバランスが崩れてエリをぺっちゃんこに押しつぶすかわからない。
なので俺の心臓は未だ、ばっくんばっくんと嫌な感じで高鳴り続けているのだった。
シイナはくすりと笑った。
「確かにこの状態なら、どんな高名な魔法使いでも、文字通り手も足も出せまい。さすがだな」
「へへっ、まあな」
「お前じゃない。フィルに言ったんだ」
「えっ、私?」
フィルがびっくりして自分を指さす。シイナはフィルの方を真っすぐ見ながら、ゆっくり頷いた。
「そうだ。フィルがどうにかエリを傷つけないように注意してくれたおかげで、この結果になったんだ。ありがとう、助かったよ」
俺とフィルは思わず、顔を見合わせた。シイナがフィルに礼を言った。目の前で起こったことが信じられない。
しかし考えてみればシイナは別に、フィルに対して悪い感情など最初から抱いていなかったのだろう。
「あ、う……いえいえ、どういたしまして……」
フィルはぎこちなくぺこりと頭を下げた。その二人の様子を、俺は微笑ましく思う。
シイナはおほん、とわざとらしく咳ばらいをした。
「それで相談なんだが、サカタの口の中で作ったコーヒーゼリーをストローで啜るというやつ……私も混ぜてくれないだろうか?」
「サカタさん、やっぱりこいつ殺していいですか? 涼しい顔でとんでもねー傲慢なお願い事してきやがりましたよ」
「うん……突っ込みどころが多すぎるけどとりあえず二人とも落ち着いて……」
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