秘策
そのとき。
「お前の悪だくみはそこまでだぜ、エリ!」
叫び声と共に、家の扉が蹴破られた。エリは視線も向けずにその瞬間、サカタたちが逆襲に来たのだと悟る。同時に、深いため息をついた。
あれだけおぜん立てしてやったのに、逃げ出さずにわざわざ益のない勝負を挑んできたか。そこまで頭の悪い連中だとは思わなかった。
大騒ぎされるまえに、片づけなきゃな……エリは立ち上がって、扉の方に視線を向けた。
「は?」
そうして硬直する。扉の向こうには誰も立っていなかったのだ。
拍子抜けして、エリは唖然とその場に立ち尽くした。どう考えても、勝負が始まる流れだったよな?
いつの間にか、ルルもいない。
家の中にはエリが一人取り残されているだけだった。
「エリ、大人しくしてろ。じゃなきゃ、お前は死ぬ」
サカタの声だ。どうやら家の外から、姿を隠しながら声をかけてきているらしい。
エリは呆れて肩を竦めた。
「どういう意味かよくわからないな。私の魔法を警戒して姿を隠しているんだろうが、君たちも姿を現さなきゃ、私を倒すことはできないだろう」
「いいや、俺たちはお前を倒すことができるぜ。エリ、もう一度言う。そこから一歩も動くな」
――エリはその瞬間、言い知れない恐怖を覚えた。その感覚は理屈じゃない。本能がエリに危険を訴えていた。
じわりと、嫌な汗がこめかみを伝った。
「俺の仲間は身体強化のスキルを持っている。こいつはとんでもない力持ちでね。今こいつは、お前の家をぺしゃんこにできるほどの巨大な岩を抱えている。俺の合図で、いつでもお前を家ごとぺしゃんこにできるってわけだ。魔法を使う暇はないぜ」
ありえない、と思った。つまりサカタは、一人の人間が一軒の家屋をぺちゃんこにできるぐらいの巨岩を抱えている、と言っているのだ。
そんな芸当が一介のスキルにできるとは、到底思えない。
エリは呆れてくすりと笑った。
「脅しをするにしてももう少しまともな脅しをするんだな」
「脅しなもんか。俺たちは本気でお前を殺すつもりだぜ」
「ならその巨岩の存在を証明してみろ。外を覗いてみてもいいか?」
「駄目だ。お前は動くな。俺たちの姿を見た瞬間、魔法を使うつもりだろう」
エリは瞬間、怒りを抱いた。
「くだらない嘘をついて私を脅すなどと……!」
そのときだった。
最初にめりめり、という呑気な音が屋根から響いた。
あっと思って顔を上げると、ドン! と大きな音が轟き、梁が落下した。
そのまま、屋根が天井から迫ってくるのだった。
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