うちのエース!
シイナはやれやれ、と言いたげに頭をかいた。
「こんなに面倒なやつだったとはな。だがその考え……好みではある」
フィルは何故だか涙ぐんで、うんうんと何度も頷いていた。
「さすがですサカタさん。私はサカタさんのそういうところに惚れて一緒に旅に出たんです。あとでコーヒーゼリーお願いしますね」
「よし! 俺たちの気持ちは今一つになった! エリを止めに行くぜ!」
フィルから逃げるように駆け出した俺を、シイナはまたも止めるのだった。
「まてまて」
「なんだよもうさっきから」
「どうやってエリと戦うつもりだ? エリは強力な魔法使いだぞ。それも、一流の腕前だ。対して、こっちにまともに戦えるやつはいない。私はエリの魔法で役立たず、サカタも私のスキルで役立たずだ」
「ずいぶんはっきり言うね……。だが、安心しろ。うちにエースがいるだろうが」
俺はそう言って、フィルに視線を送った。フィルはぎょっとして、自分のことを指さす。
「わ、私ですか?」
☆
――エリは、ひとまず自宅に戻っていた。町の人間たちはもう、ほおっておいて心配ない。助けが来ることを妄信して、今頃また、何も知らず呑気に過ごしているだろう。
そしてサカタたち。あれだけ脅したのだ。おぜん立てもしてやった。今頃町の外に慌てて逃げだしているだろう。
邪魔者はいなくなった。エリはほくそ笑みながら、マグカップに入ったコーヒーをすすった。
じっくりと、自分が得た財力に思いを巡らす。この数年間、クミと言う隠れ蓑を利用して、少しずつ、本当に少しずつ町の財源を搾取してきた。鈍感な田舎者である町の人間たちは、一切そのことに気が付かず……そしてもう、町の財源は底をついた。
エリは笑いがこらえきれなくなり、くすくす笑った。小さな町だが、これまで堅実に働いてきたのだろう。一人の人間が一生かかって消費できるかどうかの金を手に入れられた。
あとは姿をくらまして、悠々自適に暮らしていけばいい。
そのためには、全てを知るクミを殺さなければならない。
だが焦ることはない。
誰にも疑われることの内容、完全な死を偽装するのだ。
そう、時間はたくさんあるのだから……。
そのとき、自宅のドアがノックされた。
「どなたかな」
エリは少しも動揺することなく、平静に応答する。この穏やかな声色と、強欲な盗賊としての一面が同居しているのが、自分の狂気だとエリは自覚している。
ドアが開かれる。顔を出したのは小さな子供だった。名前は確か……ルルだ。人徳を集めるため、わざわざ引き取った孤児の一人だ。
「先生、またお腹が痛いの」
詐病だ。この子供の悪癖だった。親が冒険に出たままいなくなったトラウマに起因するのだろう。大人に構ってほしいから、お腹が痛いと嘘をつくのだ。そういえばルルは、昨晩もやってきた。
実に面倒な子供だった。
エリの頭の中に、邪悪な考えがよぎる。
もう、この子供に優しくしてやる必要はない。
殺すか。
「おいで」
エリはにっこり微笑んで、ルルに手招きをした。
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