仲間じゃない
エリの企てはつまりこういうことだ。
エリは自分は死んだことにして身分を隠し、この町の町長に就いた。そうすれば新政府から犯罪者として追われることはなくなるからだ。
そして数年間にも渡って、手下のクミを使い陰から町の財源を貪り、その財源が枯渇した今、エリはクミを殺してこの町を去るつもりだという。
俺はエリの無慈悲で狡猾なやり口に、思わず歯ぎしりを鳴らした。
この町の行く末など、エリにとってはどうでもいいのだ。
町の人たちはエリを頼りにしている。そして嘘の討伐とは言えついに、クミがいなくなる。彼らは一時、歓喜に沸くだろう。
だが、現実は悲惨だ。
町の財源はもうない。復興しようにも元手がなく、そしてこの町の評判はクミのせいで最悪だ。冒険者たちはこの町に立ち寄らない。宿屋やその他の事業で利益を上げるのは難しい。また、そうした悪評を払しょくするまで、長い年月がかかるだろう。
この町はもう、死んだも同然なのだ。
俺は激しい怒りにかられて怒号した。
「エリ! お前ほどの悪は初めてみたぜ!」
エリはしかし、俺がどれだけ暴れても、ロープを解くことはできないと、知っている。余裕の表情でほくそ笑むだけだ。
「よくもまあそんなに強い態度をとれるね。私がこの話を君たちにした意味がわからないのか? 君たちは処分するつもりだからだよ。もちろん、クミを使ってね。私は手を汚さずに、高見の見物をさせてもらうよ」
「この外道め……!」
「何とでも言えばいい。おぜん立てが済むまでここで大人しくしていなよ」
エリは踵を返して、小屋を出て言った。
小屋の中には俺とシイナが残される。俺はシイナにけしかけた。
「おい! お前の力でこんなロープ引きちぎれないのかよ」
しかしシイナは力なく答えるのだった。
「無理だな。魔法で体の力を奪われているらしい。今の私には、一般的な女性の筋力しかないようだ」
「ちくしょう!」
「うっ……!」
シイナが突然、苦痛に顔を歪めた。そこで俺は気づく。頭に血が上ってつい忘れていたが、シイナは俺を守るために傷を負ったのだ。だのに俺ときたらお礼も言い忘れている。
俺は慌ててシイナに頭を下げた。
「わ、悪いシイナ。お前は俺を守ってくれたのによ。つい責めるようなことを言っちまった」
「気にするな。時には旦那の八つ当たりさえも、温かく受け入れてやるのが妻の務めというもの」
「あのシイナさん? いつ俺たちは夫婦になったんですかねぇ~……」
「照れるなよ。もう事実上そういうことになっているだろうが」
「なってねーよ! あーもうこんなときにフィルがいたらなぁ!」
そのときだった。
小屋の戸ががちゃり、と開かれた。そして、隙間からそーっと、何者かが顔を出した。
フィルだった。
フィルは俺と目が合うと、あきれたように呟いた。
「また、面倒くさそうなことになってますね……」
俺は、砂漠の中でオアシスを見つけたみたいに、ほっと安堵のため息をついた。
「た、助かった……」
昨晩からのごたごたのせいで、フィルがいたのをすっかり忘れていた。エリの家に残していったフィルが、その後一体どう行動して、この小屋にやってきたのか。そこはさっぱりわからないが、とにかくこれで助かった。
俺は必死になってフィルに叫んだ。
「フィル! 俺たちの拘束を解いてくれ。今すぐエリを止めないと大変なことになる。急げ!」
だが、どうしたことだろう。
小屋の中に入ってきたフィルは、白けた顔をしてただ、俺たちを眺めているだけなのだ。
「お……おいおいフィル。ふざけてる場合じゃないぜ。早くこのロープを……」
「なんで私がそんなことしなきゃいけないんですか?」
「なんでって、俺たちは……」
「仲間じゃないです」
きっぱりとフィルは言った。
「もう、私とサカタさんは仲間じゃないですよ」
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